だから僕はサッカー有識者を目指すのを辞めた

 これは僕の持論だが、オタクになるためにはある種の才能が必要である。何かにハマることが出来る、何かに並々ならぬ熱量を向けることが出来るということは、当たり前のことではない。僕はそれが壊滅的に下手であって、「熱しにくく冷めやすい」体質なので、どんな分野に関しても「推し活」なんて到底出来ないし、「にわかファン」以上の存在になれない。

 4年に1度のワールドカップで盛り上がっているサッカーに関して、僕は「にわかファンの鑑」を自称している。何しろ、日本代表の試合は午前四時からであっても、見る。その日の仕事の休みをとってまで、見る。日韓共催だった2002年から、日本戦は一試合も欠かさず見ているはずである。決勝トーナメントに入ってからは(無理のない範囲で)他の国の試合だって見る。

 しかし、ワールドカップ以外のプロサッカーの試合は全く見ない(高校サッカーは時間が合えば見ることもある)。日本代表の試合(親善試合やワールドカップ予選、アジアカップ)だけは見ていた時期もあった気がするが、最近は試合結果だけニュースで追いかけている。結果的に、日本代表選手は、四年おきに知らない名前ばかりになっているという印象になる。

 なお、にわかファンはにわかファンでも、僕はパブリックビューイングに参加して応援で盛り上がったり、Twitterで日本代表にエールを送ることはない。自宅で静かにテレビを見ている僕の応援は、どこまでも閉じており、誰にも届かない。


 サッカーに詳しい人間への漠然とした憧れがある。「ヨハン・クライフのトータルフットボール」や「ゲーゲンプレス」などの用語を駆使してサッカーの戦術の歴史を説明してみたいし、「バルサ的なサッカー」みたいな概念をさらっと会話に混ぜ込ませたい。セリエA、プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、ブンデスリーガなどの海外サッカー事情に詳しく、一周回って日本のJリーグもJ3くらいまで追いかけている人は神だと思っている。「ネドヴェドのいた頃のチェコ代表」、「カンナヴァーロのいた頃のイタリア代表」、「エジルのいた頃のドイツ代表」の凄さを、誰かに上手く説明して欲しくてたまらない。にわかの僕には一切出来ない。妻に「オフサイド」と「オフサイドトラップ」のことをドヤ顔で説明するのが関の山である。

 僕がサッカー有識者になることが出来ない理由は、割とはっきりしていて、海外選手やチームの名前がカタカナで全然覚えられなくて、収拾がつかなくなるからである。そもそも、「名前-顔-年齢-出身国-所属チーム-ポジション-特徴」みたいなステータスを、主要選手だけでも有機的に結び付けて全て把握することはそれだけで神業である。しかも、所属チームは年によって変わる場合があり、所属チームの変遷を憶えておく必要もある。どんな記憶術を使っているというのか。贔屓のチームを見つけて、そのチームを中心にして徐々に知識の輪を広げていくという考えもあるのかもしれないが、そもそもどうやって贔屓のチームを見つければ良いのかわからない。好きな選手は何人かいるが、僕は、一番好きな長友佑都が所属していた頃のインテルの選手すら、Wikipediaに頼らなくては一人たりとも思い出せない体たらくであり、知識の輪は全く広がっていない。そもそも、サッカー経験者でもないのに(正確には、小学生の頃少しだけ齧っていたことがあるのだが)、形から有識者になろうという考えに無理があるのであって、「サッカーが好きで見ていたら、自然と詳しくなっていた」という流れ以外で、マニア的存在に到達することはできないのだと思う。当然、四年に一度だけサッカーを見ているだけだと開き直っているようでは、望むべくもない。


 ところで、サッカー日本代表には、僕が物心ついた頃からずっと、「決定力不足」という印象が付き纏っているのだが、実際のところどうなのだろうか。元々、サッカーという競技自体が相当ロースコアで決着するものだし、数少ない決定機をキーパーに止められたりクロスバーに嫌われたりしながらかろうじて一点もぎ取れたら御の字、時折目の覚めるようなスーパーゴールが生まれる試合もある、みたいな感覚で見ているので、最近はむしろ「結構、点取ってるな」と思う(事実、ドイツとスペインから2点ずつとって勝利している)のだが、「日本代表の決定力がついに充足した」という話は全然聞かない(そんな言い回しをしない、という根本的な点を置いておく)。多分、漫画にしか出て来ない類の、味方にパスを出さずに自分で持ち込むタイプのエースストライカーが現れない限り、この印象は払拭されないと思うのだが、ゴール前でシュートしか出来ない人間よりパスの選択肢もある人間の方が優れているのは自明であるし、エゴイスティックなフォワードは日本人の気質にも合わない。今後も、決定力不足という印象と付き合いながら応援していくことになるのだろうと予想している。何とかして、エムバペが日本国籍を取得して「絵夢馬辺」みたいな名前になって無双している世界線に行けないものだろうか。


 とりとめのない話になったが、にわかファンの鑑として、次のワールドカップも、日本代表の活躍を楽しみにしている。未来の日本代表を支えるために地元のJリーグチームを応援しろ、という長友佑都の言葉も尤もなので、次のワールドカップまでの間に一回くらい、Jリーグの試合を観戦したいと思う。……いきなりスタジアムでの観戦はハードルが高いので、まあ、とりあえずはテレビで……。

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