第3話


「ボクは良(りょう)。ここは夢の中だよ。君の名前は?」


「私は奎(けい)。ここ夢の中なの?でも私ちゃんと意識あるし、ちょっと動けないけど。」


「うーん。正確に言うと、君の夢がボクのいる月と一時的に繋がっちゃったみたいなんだよね。体が動かないのはこの世界に慣れてないからだよ」


「そう、なんだ…」


少し戸惑いながらも頑張って身体を起こそうとする。身体は重いのに気分は何故か今までにないほど軽かった。それから私たちは何時間も話した。彼がここでずっと独りぼっちだったこと、この場所からは太陽と地球が同時に見れること…。たくさん、たくさん話した。それでも身体を動かすことは難しかった。何度もここに来れば彼と遊んだりできるようになるのだろうか。


「ねぇ、またここに来れるかな。君に、会える?」


少しでもここにいたいと思ってしまった私は彼に問いかけた。良は少し微笑んで、口を噤んだ。少ししてから彼は


「君がここに来ようとする気持ちが強いほど、会えるよ」


心が嬉しくなった。また来れる、来れるんだ。

彼は続けて言った。


「ここに来る前いつもと違った事をしたんじゃない?」


え?


そのとき急に心が重く、苦しくなってきた。そしてまた、彼が段々とぼやけて、暗闇に取り込まれた。


 目を覚ますと辺りはいつもの部屋で、いつものベッドの上だった。とてもいい夢を見ていた気がする。心が軽くて、落ち着く場所と落ち着く声を聞いていたような。夢の内容は忘れてしまった。ただ、本当に心地良かった。こんな場所よりもずっとずっと。また太陽が登っている。そして「クすリ」も。いつも通り朝食と服薬を済ませ、また学校へ行く。たったの十五分程の距離なのに足が岩のように重い。遅刻しそうなほどに。ようやく校門の前に辿り着くと担任が立っていた。両足を肩幅に広げ、後ろで手を組み気だるげにあいさつ運動と称した訓練をしている。あいつに話したところで何も変わらないだろう。私の重い足を常に意地悪しかしない[いつもの]が助けてくれた。なんの心境の変化なのか、今回は有難いばかりだ。養護教諭に事情を話し休ませてもらった。



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