第4話 自論は証明されました(ただし美女に限る)
場所は居酒屋。同じテーブルに着くのは澄香。第二回目の挑戦の報告後。
毎回毎回成果なしの報告をしていったい何の意味があるのか。
報告は話題の一つで、集まる目的は酒を飲むことなので無用な突っ込みはやめていただきたい。
とにかく、報告後のことだ。澄香の爆弾発言が飛び出したのは。
「彼氏が、できた」
「えっ、おめでとう」
澄香に彼氏がいるという状況は珍しくもなんともない。むしろいない時期のほうが少ないくらいだ。澄香は学生時代からモテ続けてきた。半年ほど前に別れた話を聞いて以来、新彼氏の報告は受けていなかったので、今回の独り身期は長いなあと思っていたくらいだった。
「どこで出会ったの?会社の人?」
彼氏ができたと聞けばその詳細を尋ねるのはもはや礼儀ですらある、というのはさすがに言い過ぎだが、澄香と私の間柄なら遠慮もない。素直に、ただただ素直に気になってした質問だった。
それにまさかこんな答えが返ってくるなんて思ってもみなかった。
「……けんけつ」
「けんけ……っ、は⁉」
気まずそうに目をそらした澄香の様子で、それが嘘でも冗談でもないということがわかる。
「献血で出会いなんてありえないって言ってたじゃん!」
「ありえないと思ってたよ!思ってたけど!」
澄香はビールをじっと見つめたかと思うと、勢いづけるかのように一気に飲む。
「ぷはっ!……出会っちゃったの!」
澄香いわく。
私の話を聞いて献血に興味を持った澄香は、ただただ純粋に献血をするために献血ルームを訪れたらしい。
献血を終えて待合室で一人マンガを読んで待機時間を過ごし、時間が来たから帰ろうと立ち上がった。そのとき、激しい立ち眩みがしてよろめいた澄香を支えてくれたのが「彼氏」というわけだ。
「帰りに送りますよって言ってくれて。看護師さんに言われて待機時間10分延びてたから、絶対その人はもう待機時間終わってたのに私の待機時間が終わるの待っててくれたんだよ。知らない人に家バレするのは怖いなって思ったから断ったんだけど、『じゃあエスカレーターでふらつくと危ないから下まで』って、下までは付いてきてくれて」
澄香の行った献血ルームは駅ビルの最上階にあったらしい。
「別れ際にインスタだけ交換して、連絡取り合ってたら付き合うことに……なりました」
ここに一つの実例が生まれた。献血で出会った例が。
しかしいかんせんサンプルが少なすぎる。今の時点で献血に出会いを求める合理性が証明されたとは言えない。
ただ、一つでもサンプルが観測されたことは動かぬ事実である。
今のところは、献血に出会いを求めるのは合理的である(ただし美女に限る)とでも言っておこうか。
献血に出会いを求める合理性について(自論) イカリ @half_rice
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