第3話 第二回献血チャレンジ

 献血というのはそう頻繁にできるものではない。

 なにせ提供するのは血液である。人間の体に支障がない程度の頻度でしかできないように献血の頻度は制限されているのである。


 体重による提供できる血液量の規定により、私が提供したのは200㏄。この場合、献血の間隔は最短一か月である。


 前回の反省を生かしてナチュラルな服装とメイクでまとめた私は前回と同じ献血ルームの扉の前に立った。


 さあ、第二回献血出会いチャレンジだ。


 ***


 ちょっと、いやだいぶ好みの人がいた。


 穏やかそうな顔立ちで、服装もいたって無難。前回の自分を棚に上げておいてなんだが、おしゃれ度が高すぎるとつい気が引けてしまう。その点彼はTシャツにジーンズというシンプルな服装ではあったが、ダサくなく不潔でなく、こぎれいな印象だった。シュッとしたスタイルのおかげだろうか。


「お隣いいですか?」

「……はい」


 他に席がないわけではないのに隣の席に座りにきた女を怪しんでいる模様。

 しかしここで引いてたまるか、と気合を入れて口角を上げる。


「献血よく来られるんですか?」

「や、たまに」

「そうなんですかー。あ、私は二回目なんですけど」

「はあ」


 それ以上会話をつなげられず、気まずい沈黙が下りる。


 何か話題を見つけようとさまよわせた視線の先に彼の持つカバンがあった。

 偶然にも私の好きなメーカーである。


「あっ、そのカバン――」

「あの、これナンパですか?」

「えっ……」


 予想だにしなかった質問だった。

 献血ルームで、待ち時間に、同じ待ち時間を過ごす人に話しかける行為はナンパか、否か。

 ――否、と言う人ももしかすればいるかもしれないが、そこに下心を持っている場合は否定する権利などない。そしてとっさのことに「ナンパです!」とうなずくこともできなかった。結果として、


「えっと、ナンパ、と言いますか、何と言いますか、ナンパとはちょっと違うような……?」


 キモ過ぎる反応を返してしまった。


 待機時間を過ぎたと言って席を立った彼。彼の言葉が優しいウソではないことを願う。


 かくして、二度目の挑戦も失敗に終わったのである。

 「献血での出会い=ナンパ」という客観的な事実を私に突き付けて。


 

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