第6話

「あ、もしもし。謎のお姉さんですか?」

「いいえ、違います」


 冷静にそう言う杏沙が面白かったのか、翔は「プッ!」と吹き出す。


「バレバレだよ。何年、杏沙の字を見てると思ってるの?」

「なーんだ。バレちゃったか……」

「──ありがとな。元気出た」

「うん……」


 それだけの会話を交わしただけで、二人は柔らかい笑顔を浮かべる。


「ショウちゃん」

「ん?」

「ショウちゃん昔。私が男性コミックの事でお姉ちゃんに馬鹿にされた時、ソレイユを描いてくれたでしょ? あの絵、まだここにあるんだよ」

「なんだよ、行き成り」


 翔は昔の事を話されて照れくさくなったのか、頬を赤くしてポリポリと指で掻く。


 杏沙は描いて貰ったイラストを見ながら「あの時、言ってくれた事だって、今でもちゃんと覚えてる……ショウちゃん、あなたは心を動かす才能があるんだから、大丈夫! きっとあなたならソレイユ……いや、それ以上の主人公にだってなれるよ! だから頑張れ」


 翔は涙を堪えるので精一杯なのか、目を湿らせながら「うん……頑張る」とだけ返事をしていた。


 ※※※


 それから翔は杏沙から貰った参考書を読んで、更なる努力を始める──一冊目、タブレットを使ったイラストの描き方。


 二冊目、SNSで人気になる方法。


 三冊目、Web漫画の描き方。翔はそれ等を使って、昔から書いていた漫画をSNSで投稿し、人気になっていった。


 そんなある日──翔の部屋に遊びに来ていた杏沙は携帯を見ながら「凄いショウちゃん! 人気者だね!」


「凄いけどねぇ、お金は全然入らないから複雑」

「焦らない、焦らない。ところでショウちゃん、進路はどうするの?」

「決めてるよ。俺、工場に就職することにした」

「へぇー……漫画の方は?」

「もちろん続けるよ」


 翔がそう返事をすると、杏沙は安心したかのように微笑み「そう」


「あのさ、ちょっと気が早い話だけど、もしWeb漫画がもっと人気なって書籍化が出来たら……そのお金で一緒に食事に行かないか?」

「え……両親でなくて良いの?」

「うん、両親には就職した後にする」

「そう。もちろんオーケーだよ」

「ヤッターッ!」


 翔が小さくガッツポーズをするのをみて、杏沙は優しく微笑む。両手で頬杖を掻くと「期待してないけど、待っててあげる」


「なんだよそれぇ、ひでぇな」

「ふふふ」

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