第2話

 祝日の商店街。杏沙と翔が私服を着て、並んで歩いている。


「で、結局なんで俺が買い物付き合うようになったのさ?」

「え? ──生徒の意見も聞いたほうが良いかと思って」

「ふーん……」

「別にどうだって良いじゃない。暇だったんでしょ?」

「まぁね」


 杏沙は手を伸ばし翔の腕を掴むと「あ。ここ、ここ」と言って立ち止まった。翔は「あ~、ここ」と言って立ち止まる。


「じゃあ、私は靴を選んでくるから、翔君は好きに見てて良いよ」

「いや、せっかくだから一緒に回るよ」

「そ」


 二人は一緒に店内へと入っていった──杏沙のお目当ての黒のパンプスは直ぐに見つかったが、二人はお互いの靴を選び始めたりと、まるで恋人同士の様に楽しそうに過ごしていた。


 ※※※


「──余計なものまで買っちゃったね」と杏沙は言いつつ、ニッコリと微笑む。翔も笑顔で「余計じゃないでしょ。減るもんじゃないし、お互い満足したもの選べたんだから」


「そうだね。この後、御昼でも食べて帰ろうか? 付き合ってくれたし、奢るよ?」

「ありがとう。じゃあそこのファストフード店で食べようか?」

「そうね」


 ──二人は近くのファストフード店に入る。それぞれハンバーガーセットを注文すると、窓際の席に座った。


「ちょっと早いから空いてるね」

「そうだね。悪い、ちょっとトイレ行ってくる」と、翔は言って席を立つ。杏沙は口に含んだオレンジジュースをゴクッと飲み込むと、手を振りながら「いってらっしゃーい」と見送った。


「ちょっと聞いてよ~」と突然、杏沙の近くに座っていたギャル達が、大きな声で会話を始める。


「え、何々? どしたん?」

「うちの彼氏、カッコいいじゃん!? 先輩がさぁ、色目使って彼氏に話しかけてくんの! きもくない? 年上のババぁがさぁ」

「キャハハ。何それ、キモィ」


 その会話が聞こえていたのか、杏沙はストローでジュースを飲みながら眉を顰める──そこへ翔が「お待たせ」と戻ってきた。


 杏沙はジュースを飲み込むと「お帰りなさい」


「──杏沙、何かあった?」

「え!?」と、杏沙は驚いたようで目を丸くする。


「いや、なんか御帰りなさいって言った感じが、さっきよりテンション低めだなって思って」

「あ……うぅん、何にもないよ」

「そう、なら良いけど」


 翔はそう言って、ハンバーガーの包みを開け始める。杏沙も包みを開け──パクリと一口くちにする。笑顔をみせると「うーん、美味しい」


「うん、美味しいね」


 ──少しして杏沙はトレーに食べかけのハンバーガーを置くと「ねぇ、ショウちゃん」と、話しかけた。翔はハンバーガーを持ちながら「ん? なに?」


「私達ってさ……いま他の人達からみて、どう見えてるのかな?」

「どうって?」

「例えば……姉弟? 親戚? 色々あるじゃない」

「あー……恋人同士じゃない?」


 翔が冗談っぽく笑顔でそう言うと、杏沙は困ったように眉を顰め黙り込む──。


 カサコソとハンバーガーの包みを開きながら「やっぱり、そういう意見あるよね」というと、「別にショウちゃんとなら、そういう風に見られても悪い気はしないけど……複雑」と言って、またハンバーガーを食べ始めた。


 翔は状況が掴めていない様で、キョトンとした表情で「えっと……どういう事?」


 杏沙はジュースで口の中のハンバーガーを流し込むと首を横に振る。


「私から話を振っておいて、ごめん。この話はこれぐらいにしておいてくれる?」

「あ、うん……分かった」

「ありがとう」

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