俺の幼馴染は、ちょっとツンデレが入った可愛い先生です。ライバルの担任に身をわきまえろと言われたけど、好きなんだから諦められない。

二重人格

第1話

 朝日が差し込む高校の廊下を、綺麗な黒いロングヘアを揺らし、滝本 杏沙あずさが歩いている。


「おぉ……滝本先生ってやっぱり、スタイル良いよな……」

「あぁ……それに超美人だから、ついつい視線を向けちゃうよな……」

「うんうん、分かる分かる」


 廊下の端で会話をしていた男子生徒達は、通り過ぎる灰色のスーツを着た杏沙をジロジロ見ながら、そう言った。


 それを不快に思ったのか、後ろを歩いていた上田 しょうは、ムッとした表情を浮かべ、早足で歩き始める──杏沙に追いつくと背中に手を置き「おはよ、あずさ」と挨拶をした。


 杏沙はビクッと肩を震わせ、立ち止まる──険しい表情を浮かべながら翔の手を退けると「こら、ショウちゃ──翔君! 学校では、せ・ん・せ・い! でしょ」と言って、頬を膨らませた。


 翔は反省をしていない様子で「はーい」と、ニヤニヤしながら答える。杏沙は困った様子で眉を顰めると「まったく……」と溜め息を漏らしながら、歩き始めた。


 肩を並べて歩き出す二人を、男子生徒達は不快な表情で見送る。そしてもう一人。二人の後ろを歩いていた翔の担任 安村 高雄たかおが、同じく険しい表情で見つめていた。


 ※※※


 その日の夕方──翔が自室のドアを開き「ただいまー」と中に入ると、丸くて白いクッションに座り、男性向けコミックを読んでいた杏沙が「お帰りぃ~」と答える。


「今日は早いね」と、翔は驚きもせず当たり前の様に会話を続け、通学鞄を床に置いた。


 杏沙はニコッと微笑むと、「今日はこれを読みたくて早く帰ってきちゃった」


「良いと思うよ」と、翔は笑顔で答え、杏沙の正面にあるクッションに座ると「んで、今日のはソレイユ《漫画の主人公》どうだった?」


「相変わらず信念を曲げないッ! ところが、カッコ良かったよ~」

「へぇ、それは楽しみだな」


 翔はそう言って両手を床に着くと「ふと思ったんだけど、杏沙もそういう所あるよね」


「え!? 私!?」

「だって姉ちゃんに、まだ男子コミックなんて読んでるの? って馬鹿にされても、気にせずに自分を貫き通しているじゃん?」

「あぁ……私はただ──好きだから読んでるだけだよ」


 杏沙は暗い面持ちでそう言って、近くにあった大学ノートをペラペラとめくりながら「それだったらショウちゃんの方が似ていると思うよ、主人公に」


「俺? そうかな?」

「そうよ。私は社会人になってから流されてばかりだもん」

「ふーん……教師って大変なんだな」


 翔がそう言うと、杏沙はノートを閉じて、スッと立ち上がる。


「えぇ、そうよ。特にあなたみたいな生徒の相手をしてると疲れちゃう」

「なんだよ、それぇ……」


 杏沙はニヤァっと顔を緩めると「ふふ、冗談だよ! 漫画、あげるから~。また好きな時に読ませてぇ」と言って、手を振りながらドアに向かって歩き出した。


「あぁ。ありがとう」


 ※※※


 次の日の朝。翔が眠たそうに高校の廊下を歩いていると、後ろから早足で杏沙が近づく──。


「翔君、おはよう。随分と眠たそうね」

「おはよう……ございます。先生がこの時間帯って珍しいですね。寝坊ですか?」

「そんな事ないわよ」

「じゃあ……もしかして昨日、俺に怒ったから気にして、この時間にしたんですか?」


 翔は冗談で言ったのだろうが、杏沙は言い当てられた様でビックリした表情を浮かべる。翔はそれを見逃さなかったようで、ニヤッと微笑んだ。


「図星なんですね。可愛いなぁ」

「うるさいなぁ……」

「ところで先生」

「なに?」

「靴、ひび割れているけど大丈夫なの?」

「え?」


 杏沙は視線を靴に向ける──。


「あら、本当……」

「一緒に買いに行ってあげますよ?」

「一人で大丈夫よ」


 杏沙は翔を置いて職員室の方へと歩いて行った。

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