器用貧乏とやじられたので出てったら真祖の奥さんになりました

ことはゆう(元藤咲一弥)

器用貧乏とやじられたので出てったら真祖の奥さんになりました




「ようこそ、我が城へ。お嬢さん」

「は、はい……」


 どうしてこうなったんだろう、と今私はそう思った。





 私はロザリア・アーキス。Sランク冒険者のパーティのシューティングスターの錬金術師兼モンスターテイマー。

 だったのだが。


「……ねぇ、マリオン。これはどういうこと?」


 恋人でリーダーのマリオンがヒーラー基聖女のリコリスと浮気をしてやがりました。

 しかもばっちりやってるし。

 聖女じゃなくて性女じゃねぇかこの女。


「あーもー! お前なんていいんだよ!! 錬金術師でモンスターテイマーしかできない器用貧乏な、お前にはうんざりだ!」


 マリオンの言葉に私はカチンと来ました。


「いいよ、そんなに言うなら出てくわこんなパーティ!!」


 私はそう言って荷物をまとめて他のモンスターをミニチュアハウスの中に仕舞い、愛ドラゴンのミストに乗って拠点を飛び出しました。


『ご主人、何処までいきますか?』

「遠くへ、遠くへ! あんな連中の声を二度と聞かなくてすむくらい遠くへ!」

『分かりました』


 ミストに指示を出し遠くへ、遠くへとやって来た。


 時間は夜になり、ミストの体力も限界なので降りた先は巨大な城のすぐ側だった。


 ミストもミニチュアハウスの中に仕舞い。

 このあたりに、宿らしきものは無かった為、仕方なく、大きな城の主に一晩泊めて貰えないか交渉することにした。





 鐘を鳴らすと、ゆっくりと門が開き、ロザリアは入っていった。


 広い玄関ホールはまばゆい明かりに包まれ、魔法のアンティークが飾られていたり、浮かんでいた。


「あの、すみません」

「何用か?」


 背後から声がしたのでロザリアは慌てて背後を見ると、巨躯の黒い長い髪に、ひげを生やした、蒼白色の肌に、赤い目の男が立っていた。


「あ、貴方がこの城の城主様でいらっしゃられますか?」

「その通りだ」

「あの、今晩だけ泊まらせて下さい」

「構わぬが理由を述べよ、何故ここに来た」


──げ──


 ロザリアは男の言葉に戸惑いながらも「嘘偽りなく」語った。


 恋人に仲間に裏切られ、「器用貧乏」と言われて頭にきてパーティから離脱し、ドラゴンに乗って飛びつづけて、ドラゴンの体力が無くなりそうなので着地したらもう夜でこの場所に降り立ったこと、全て──



「ふむ」

 男はにやりと笑う。

「行く当てがないのであろう? ならばここに住まうといい」

「え、い、いいんですか?!」

「ただし」

 男の唇端から牙が見えた。

 ロザリアの体が硬直する。

「私は真祖だ、それを忘れないよう」

「え、あ、はい……」

 ロザリアはとんでもない所に来てしまったと思った。

「ようこそ、我が城へ。お嬢さん」

「は、はい……」

 男は笑って、頭を下げた。

 ロザリアは引きつった笑みを浮かべるしかできなかった。





 ──とまぁ、そういうことで私は真祖の城に住まうことになりました。

 逃げる?

 いやいや、無理無理、真祖ですよ?

 只の吸血鬼ならともかく真祖ですよ?

 無理に決まってる!!


 心臓に杭を打つ勇気も無く、私は逃げるように錬金術に没頭していた。


 幸い材料はいくらでも真祖様が用意して下さるので、問題はない。


「ロザリア」

「ひゃい?!」

「領地内で流行病が発生した、対処を頼む」

「あーはい、かしこまりました」

 錬金術、数多の調合術の極み故に、薬を作ることだってお手の物だ。


 真祖様の部下に案内されて、農村を訪れる。

 医者はいない。


 家々を回って、流行病に効く薬を処方しておく。

 何故か手を合わせて拝まれているが気にしない。


 真祖様の領地はぱっと見、人が少ないと思われるが、教会はないし、すんでいる人も、皆他の地域では、暮らせない事情がある訳ありの人ばかり。


 生まれつき体が不自由。

 年をとり体が不自由になり追い出された。

 恋愛対象が同性。

 心と体の性別が違う、心と体の差。

 等など。

 普通の地域では当たり前のように差別されている人達ばかりがこの領地に住まっていた。


 そりゃ、教会なんてたてられないわと納得もする。


 だって、教会の連中が差別を先導しているのだし。


 私は教会の連中は好きにはなれなかった。

 モンスターテイマーって立場もあれば錬金術師と言う立場もあるしね。



 真祖様は怖いけど、領民に皆慕われている。

 だからまぁ、それをよく思わない連中が来るんだよなぁ──……



「真祖様、教会の連中がまた!」

「またか、何人殺させれば気が済むのだろうなぁ……」

 真祖様は、死傷した人数の領民の数だけ殺している。

 毎回死傷者が出る。

「あの、私がなんとかしましょうか?」

「其方がか?」

「正確には私のレッドドラゴンのルビィなんですが……」

「レッドドラゴン?! ロザリア様はそのような存在まで使役できるのですか?!」

「ま、レッドドラゴンで軽く様子見させます、逃げないようならブレス吐いていいって指示で」

「良かろう」

 私はミニチュアハウスをもって外に出て、中に居るレッドドラゴンのルビィを呼ぶ。

 ルビィは私の手にちょこんと乗ると私は力一杯ルビィを投げた。

 ミニチュアハウスの魔法が解けたルビィは巨大なレッドドラゴンに姿を変えて空を飛んでいった。



 十数分後──

『連中、腰抜かして皆逃げたよ!』

「よくやった、偉いえらーい」

『エヘヘ!』

「ご褒美にハウスの中にある食料庫から、好きなお肉五個持って行っていいよ」

『本当?! やったぁ!!』

 私はルビィに魔法をかけ、ミニチュアハウスの中に入れた。

「此度は被害が出なかった、感謝する」

 真祖様は深々とお辞儀をしてきた。

「いえいえ、私は当然のことをしたまでで……」

「領民の治療、荒れ地の開拓、それに此度の教会の侵略を退ける事にまで手を貸してくれる人間はいなかった」

「真祖様がよくしてくれてるからですよ」

「客人故当然だ、しかし其方の働きは想像以上、何か褒美をやらねば」

「それなら、私多分向こうに戻っても上手くやれないので、終身雇用してくださいませんか?」

「其方を雇う、という事か?」

「はいその通りで」

 教会に喧嘩を売ったんだから、そりゃそうだ。

「……良かろう、今後とも頼むぞ」

「はい」

 これで、私の将来ある意味安泰と思ったはずなのだが──





「奥方様、今日もお美しい」

「奥方様、野菜を持って行きましょうか?」

「奥方様、ちょっと頼み事が」

 真祖様以外の領民と領地で働く人全員が私を奥方様と呼び出した。

「真祖様? どういうことですか?」

「うむ……終身雇用するならば、私の妻として貢献してもらうのが良いとおもってだな……」

「順序逆!!」

「……そうか?」

「そうですよ!! 領地に貢献、見初める、妻にする、がすっ飛ばされてます」

 領地に貢献しているのだが、まぁそこは言葉の勢いというもので。

「むぅ……」

「そもそも見初めてないのに妻だと──」

「初めて会った時に、既に見初めていたぞ」

「今聞きました」

 思わず真顔になる。

「今言ったからな」

 今言うんかい。

「嫌か?」

「……嫌じゃないですけど」

 せめてもう少しロマンチックなのが良かった。

 と私の中の乙女心が囁いている。

「それに私、真祖様の名前知りません」

「そうだな、それもそうだな」

 真祖様はこほんと咳払いをしました。

「ソール。ソール・テンペスト」

「ソール様」

「ロザリアよ、良ければ我が妻として、この領地を支える手伝いをして欲しい」

「はい、構いません」

「ならば、式を──」

「そんな費用出すくらいなら、領地に回しましょう」

「むぅ」

「……ソール様は正装、私はドレスで領地を巡りましょう、それで結婚式という事で」

「良かろう」


 後日、私が言ったとおりの結婚式となった。

 領民は皆私達を崇め、拝んだ。





「ここが悪の真祖が支配する領地の入り口か……」

 マリオンは入り口に入ろうとすると、頭上からレッドドラゴンが姿を現した。

「噂通り、ロザリアの奴悪魔に魂を売ったな!」

『ママを裏切った奴が何を言う』

 レッドドラゴンが喋る。

「裏切る? おいどういうことだよ」

『マリオンとリコリス、交尾してるの見て、二人に嫌気がさしてパーティ抜けた』

「はぁ?!」

「う、嘘だ!! そいつの言ってる事は!!」

「そ、そうよ、嘘よ!!」

 マリオンとリコリス以外のパーティメンバーがどよめく。

 二人は必死に嘘を隠そうとするが──

『その上器用貧乏呼ばわりした、だからママ嫌になって出て行った。日が暮れた時に宿を貸してくれた真祖様の領地が、他から差別されて逃げてきた人ばっかりだからママは皆の為に働いている、邪魔をするなら知り合いでも燃やす』

 レッドドラゴンはごぉっと火を吐いた。

「……やってらんね、俺もパーティ抜けて帰る」

「俺もだ」

「私も」

「僕も」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!」

「そ、そうよちょっと待ってください!!」

「嘘に嘘を重ねるお前ら見たいな奴と同類に思われたくないんだよ」

「しかもマリオン、アンタロザリアと恋人同士だったのにリコリスとヤッたの?! 最低だわ二人とも」

「その上罵倒するとか、最悪にも程がある、俺達は依頼見なかったことにして帰るわ」

「じゃあね」

 マリオンとリコリスのみが残されると、レッドドラゴンはぎろりと睨み付けた。

『帰らないなら燃やす』

「ま、まってくれ!ロ、ロザリアと話をさせて──」

「賊を捕らえろ──!」

 物陰に隠れていた兵士達が現れ、マリオンとリコリスを縛り上げて担ぐ。

「ちょっと何?! 離して離して!!」

「おい、離せ!」

 わめく二人を無視して兵士達は城の牢屋にぶち込んだ。





「──と言う事がございました」

「あーそんな奴いたのすっかり忘れてたわ」

 兵士さんからの話に眉を押さえる。

 頭が痛い。

「二度と面みたくないんだけどなぁ……」

「手っ取り早く処刑してしまうか?」

「どぅわ?!」

 ソール様が急に姿を現したのでびびる。

「そ、それも手なんですが……今まで追い返してたのをここで私が面見たくないから殺すというのも……」

「別に良いではないか。火刑に処して──」

「いえ、殺すならいっそひと思いに殺してさしあげてください」

「良かろう」

 私のその言葉が決め手となった。


「ギロチンを用意せよ、処刑の時刻は明日の午後二時だ」


──うわはっや──


「ず、ずいぶんと早くないですか?」

「……其方の恋人でありながら、仲間でありながら裏切った輩だ、相応の償いはさせたかったが、みっともない様を見るだけならひと思いに殺してやろうとな」

「……」

「其方ならそうだろう?」

「──ええ、そうですね醜い様を見るくらいなら見ないで終わらせたい」

「よかろう、其方は部屋にいるといい」

「はい、私の旦那様」

 私はそう言って部屋を後にした。





「ロザリアと話を──」

「奥方様はお前達と話すことなどないそうだ」

「そ、そんな……」

「処刑は明日の午後二時それまで自分の罪を数えるがいい」

「いやよ、私死にたくない!」

「俺も死ぬのは嫌だ!」

「余の妻を罵倒した輩を、余が許すと思うか?」

「し、真祖?!」

「ば、化け物!!」

 ソールは眉をひそめ、呆れのため息をつく。

「こんな輩共が、妻の元仲間だとはな」

「き、貴様がロザリアをたぶらかしたんだろう!!」

「たぶらかしてはおらん、貴様らのような輩と違って」

 ソールは忌々しげに二人を見る。

「神の名において我らを罰する輩を見ると忌々しくて仕方ない」

「何を!」

「貴様らのような不貞を働く輩──」


「……」


 ソールはにやりと笑った。

「死刑からのがれたいか?」

「当然だ!」

「当たり前よ!」

「なら、逃させてやろう、その代わり──」



「自分の罪を恥をさらすといい」



「──で、何をやったんですか?」

「何、其方にやったことを書いた板を背中に背負わせ、調整した自白剤を飲ませてやってきたことをぶちまけさせながら、馬で移動させるだけだ」

「えげつなっ」

「今頃、石を投げられてるであろうよ」

 クククと笑うソールにロザリアはため息をついた。

「どうしたのだ、我が妻よ」

「いやーその、これで教会の方々が来なくなればいいのですが。そうもいかないだろうなぁ」

「ならば、潰すまでよ。手伝ってくれるか?」

「手伝いますとも、旦那様」





「ええい、教会の威厳が地の底に墜ちているではないか!」

「それどころか、ここにいるより真祖のところで暮らした方がよほどいいとまで出ています」

 教会の本部ではこれまでの事をこれからのことを話し合っていた。

「異端者共め……」


『異端者はどちらなのだろうな』


「こ、この声は!?」


 バリーンとステンドグラスを割って真祖ソールとロザリアは降り立った。


「逃げ場はないですよ、そこら中に私が躾けたモンスターがいるので」

「モンスターテイマーだと?! ええい、どうせたいしたモンスターじゃ……?!」


 割れたステンドグラスから顔を出しているのは、エンシェントドラゴンだった。


『我が母に傷をつけたら殺す』

「え、エンシェントドラゴン?!」

「さて、教会さん。いい加減私達の領地に兵士を送るのはやめていただきたいんです、できません?」

「あ、悪に屈するなどできるものか!?」

「そうですか、では──」


「皆、やっちゃって」


「な、何が起きている?!」

「余の国に兵士を派遣している国中にドラゴンの群れを派遣したのだ、我が妻がな」

「レッドドラゴン、ブルードラゴン、ホワイトドラゴン、ブラックドラゴン……あらゆる竜種が私を母と崇めています。そんなドラゴンに国が勝てるとでも?」

 ロザリアはそう言って髪を触る。

「いい加減にして欲しいんですよ。それも分からない大人なのですか?」


「悪魔の手先にはいなどと……」


「教主様!! 各国が墜ちました!!」

「な?!」

「さぁ、教主よ。答えよ、生きるか、死ぬか!」


「……殺すがいい!」


「良かろう」

 ソールはマントでロザリアを隠すと、手を伸ばし、教主の首を切断した。


「きょ、教主様!!」

「くさい血だ、どれだけの業を詰めばここまでくさい血になる」


 吹き出る血に、ソールは顔をしかめる。

「エンシェントドラゴンよ、我らが立ち去ったらここら一体を更地にしろ」

『分かった、母の伴侶よ』

 ソールは汚れてない手でロザリアを抱きしめると、そのまま姿を消した。


「あ、ああ……」

『では、消えてしまえ』

「ま、待ってくれ、話を──」

『聞かなかったのは貴様等だ死ね』


 エンシェントドラゴンが放った光で、教会本部一体は更地と化した。

 生きている者はいなかった。





「各国も、私の配下を王に据えた。搾取や違法な奴隷の売買などはもう行えないだろう」

「よかった」

「お前は、人殺しとは言わぬのだな、私を」

「だって、教会の方が殺してるので──」

「さて、落ち着いたことだし、其方もそろそろ休んではどうだ? 腹の子に悪いぞ?」

「ですね、そろそろ休みますか」

 ロザリアは頷いた。





 こうして、私の激動の人生は落ち着いたものへと変化しました。

 子どもも生まれ、すくすくと育ちました。

 教会は全て壊され、真祖基ソールにたてつく人間は誰も居ません。

 私は城でソールと我が子達と共に幸せに暮らしています。

 ハッピーエンドってこう言うものかしら?













end

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