20.こいつらを火だねにすべきでは《お題:清い部屋》
必須要素:ひょっとこ
***
私の地元は、古い因習が残る山奥の村だ。冬になるたびに大雪が降るので、火だねを絶やして凍え死んだりしないよう、火の神さまに祈っていたのが由来だとか。
とはいえ、それはおばあちゃんが子どもだった頃の話。今じゃ家もしっかりしてるし、空調も優秀だし、大雪で村から出れない、ということもよっぽどない。
ただ、火の神さまへのお祈りだけが村の文化として残った、ていう感じだった。
まあ、今年そのお祈りするの、私なんですけどね。
「少子高齢化、サイアク。こういう儀式は若い女がするもんだって時代遅れの価値観、サイアク」
四方をコンクリートで固められた、簡素な部屋の中で恨み言を吐く。
村はずれにある、今は使われていないプレハブ小屋に私はいた。出入り口の扉は開け放たれ、外から極寒の風が吹き込むのでとても寒い。クソ。小屋の中は、昼の間に塩で清められ、祝詞を上げられ、儀式をするに値する清い部屋となっている。そして部屋を汚さないよう、私は裸足。ゴミ。
中央には桐でできた台が置かれ、その上に巨大な火鉢が載せてある。火鉢の中では、積もった灰の中で煌々と炭火が燃えている。これが儀式の要であり、そして小屋の扉を閉められない原因でもある。扉を開ければ凍え、閉めれば一酸化炭素中毒。色々問題あるんじゃないのこれ?
それで肝心の儀式だけど、朝まで火鉢の中の火を絶やさないように、灰の管理をしながら神さまにお祈りする、というもの。村独自の祝詞があるので、それも並行して唱えなきゃいけない。
そして、服装にも決まりがある。私は入念に身体を清められ、死んだ人しか着なさそうな白装束を纏い、裸足で、そして火の神さまのお面をかぶらされている。あ、火の神さまのお面っていうのはひょっとこ面のことね。笑いたきゃ笑えよ。
俗物を持ち込んではいけないので、カイロ禁止、ヒートテックも禁止。火鉢だけで暖をとりながら朝まで過ごす。そしてお金は一銭も出ない。もう既に嫌。
でもまあ、何だかんだ人間ってのは慣れる生き物で、もう朝まで3時間を切るところまでいった。寒さも若干和らいできたし、後は眠気に抗いつつ頑張るだけだ。
「お?」
と、思っていたところで。
「あらあらあら?」
火が消えそうになっている。
待て待て待て。え? これ火が消えたらどうなるの? 怒られるだけで済む?
私は灰をならしながら行く末を見守るが、どう見てもここから火が復活する兆しがない。炭火自体燃えてるんだか燃えてないんだか分からない、みたいなところはあるけどこれは絶対もう消えるやつだ!
「どどど、どうしよ。火だねの追加ってアリだっけ。ていうか小屋出ていいんだっけ」
火鉢の周りをぐるぐる回りながら、ただうろたえるしかできない。
「か、神さま! 火の神さまひょっとこさま! なんとかしてぇ!」
私が悲鳴じみた声を上げたときだった。
お面を支えていた紐がぷつりと切れ、火鉢に向かってひょっとこ面が落下する。
声が出る暇もなく、目の前で火は勢いよく燃え上がった。
「か、神さま・・・・・・?」
私は呆然と、そう言うしかなかった。
そして、夜が明けた後。
「いやーお疲れさま! 寒かったでしょ!」
村の人たちが私を迎えに来た。
「お、火ちゃんと燃えてるねぇ! すごいよ!」
「あ、でも神さまのお面火鉢に落としちゃって、燃えちゃって・・・・・・」
「お面? ああ、いいよいいよ! どうせ縁日の屋台で買ってきたやつだし!」
へ?と固まる私の前で、村人達は笑う。
「何なら、火が朝までもってたのも久しぶりだしねえ! みんな途中で寝ちゃうからさあ」
「は、はは・・・・・・」
つられて、私も乾いた笑いが出る。同時に思った。
神さま、この村燃やして良いと思う。
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