15.雑談カースト最底辺《お題:弱い会話》

 お昼休みの教室。突然私は気づいてしまった。

 関係性の深い人との会話ほど、使われる語彙はどんどん乏しく、語数はどんどん少なくなるということに。

 昔懐かしちゃぶ台畳の家庭では、夫が「アレとって」と言うだけで、妻が「はいはいアレね」と醤油を取って渡してくれる文化があったとか無かったとか。敬意も知性もへったくれもない、会話にカーストがあったなら最低レベルの最も弱い会話。もはや単語のキャッチボール。

 だが、それがいい。

「私もそれがしたいです」

「知らんがな」

 机を挟んで向かい合う友達が、ばっさり切った。

 友達としては親愛がまるで感じられない雑対応。今のは会話カーストかなり低かった。グッド。

「私たちってさ、仲良いじゃん」

「はあ」

「もう雑な単語だけでやり取りできるまでになってんじゃないの、と思うわけですよ」

「心の底から聞きたいんだけど、一体それに何の意味が」

 私は黙って微笑む。何故なら深い意味が特にないから。

「あ、ちょっといい?」

 肩を叩かれる。振り返ると、特に話したことのないクラスメイト。

「クラスアンケート、放課後までに欲しいって先生に言われたから。書き終わったら委員長に渡しに行ってくれる?」

「分かった。わざわざありがとう」

 目で会釈すると、また友達の方を向く。

「私もまだ。あとで行こ」

「オッケー」

「……成る程ね。アンタの言いたいこと、分かるかも」

 何が? と、私は首を傾げる。

「今の。あの子よりあたしとの会話の方が弱そう」

 言われてみればそうだ。余計な礼儀、余計な配慮が抜けた、雑な会話。カーストランク下位のそれだった。

「いや他人との会話なんで。その礼儀は余計じゃないから、必要だから」

 ともかく、そういう雑な会話ができる関係性、羨ましいなという話をしたかったわけだったと。

「アンタ兄か弟かいなかった? そっちとの方がこういうの、上手くいきそうじゃないの?」

「弟とはここ半年口を聞いてないよ」

「まず仲が悪かったか」

 その時、会話を遮るように予鈴が鳴った。

 会話を切り上げ、間借りしてた友達の机からさっさと退去を図る。ほんの雑談だったので、放課後までにこの話題は忘れてしまうだろう。

「ん」

 空の弁当箱を持って退散しようとした時、友達がポッキーの箱を突き出した。

 既に開封されていて、中から数本のポッキーがのぞいている。私は、その中の2本をためらいなくつまみ取った。

「ありがと」

 友達は何も言わず、箱を閉じて鞄にしまう。

 私もそれ以上何も話さず、自分の席に戻る。


 ふと思った。

 あれ、今の最弱の会話じゃない? と。

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