11.ただ、助けたかっただけなのに《☆お題:2つの嘘》

必須要素:タイトル「ただ、助けたかっただけなのに」で書く

※一部編集を加えてあります

***


「私は君の小説、好きだよ。作家目指した方がいいんじゃない?」

 ごめん、嘘です。君の作品はどれもつまらなかった。


「××大学の推薦枠、無理・・・・・・ですか?」

「他の子に決まりそうなのよ。まあ、ほら、分かるでしょ」

 そんなに言葉を濁さなくても分かります。あの子のことでしょう。クラスで一番優秀で、本人も行きたいと普段から言っていて。

 何より、私たち仲が良いんで。ごまかさなくても「全部」伝わりますから。

「――――でも先生、彼女は本当に××大学に行きたいんですか?だって、」

 君は、○○短大の文芸学科に行きたいって言ってたのに。


「××大学! きっと受かるよ、応援する!」

 ごめん、嘘。あの子馬鹿だし、多分落ちるよ。


「○○短大ねぇ。あなたはもっと、レベルが高い大学に行った方がいいと思うわ」

「で、でも。私は文芸学科に進みたいんで」

「ちょっと考えたらどう? 小説なら、趣味で続けていけるわよ」

 信じられない。全然言うこと聞かないんだけど、こいつ。三者面談近いし、この勢いでお母さんが丸め込まれたら厄介だわ。

「そうですね、ちょっと考えてみます。――――××大学の推薦枠とか」

 だから、一番仲の良いあの子に助けてもらおうか。


「どういうつもりなの? 私、××大学に行きたいって言ったでしょう!」

「そっちこそ、私の小説クソつまらなかったって言いふらしてたみたいじゃない!」

 お互いがお互いの胸ぐらを掴む。女子高生ふたり、教室で勃発したキャットファイトは、瞬く間に学校中に広がるゴシップになった。

 流石に先生達の耳にも入ったらしく、私たちはできる限り距離をとらされ、お互いに話すこともなくなった。


「推薦枠、他の子に決まったわ。起きたことがちょっと広まりすぎたからね」

「はい。かっとなってしまい、その時のことは本当にすみません」

 行くべき所に、行くべき人を行かせられなくて、先生も想定外だったでしょう。本当にお気の毒。

「私は、一般入試に切り替えようと思います」

 先生は何も言わないので、そうさせてもらいました。

 君は、順調にやっているのかな。

 少なくとも、した××大学に、君の姿はなかったから。


「その節はどうも」

 離任式に現れたあの子は、髪を染めて、ちょっと大人びた様子だった。

「記念受験のはずの××大学に幸運にも合格、おめでと」

「そちらこそ短大合格と、小説コンクール入賞おめでとう」

 伝えたいことはそれだけで十分だった。お互いの夢に才能が足りないことも、でもそれ以上に熱意があることも、高校の間にたくさん知り合った。これ以上は既に蛇足ってやつだ。

 例の事件を知ってる同級生達が、こちらを遠巻きに見ている。

 私たちは久しぶりに顔を見合わせると、笑い合った。


「あは、怖がられちゃった」

「心外ですねえ。私はただ、」

「うん、私もただ、」


 ただ、君を助けたかっただけなのにね。

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