4.帝国の騎士たちと王国の騎士《お題:空前絶後の一手》

 昔々、帝国には外道極まりない騎士がおりました。

 そして、王国には振る舞いがいちいち鼻につく騎士がおりました。

 帝国の騎士は戦争の度に王国の騎士に挑み、そして敗北を繰り返しておりました。


 ある時、王国と帝国の間でいつもの戦争が起こりました。

 帝国の騎士はこの時のために、自らが育てた指折りの騎士団を連れ出しました。帝国の騎士に誇りはありません。騎士団総出で王国の騎士を抑え、そのまましばき倒すつもりでいました。

 勇んで出陣した騎士団は、王国の騎士1人に返り討ちに遭いました。

 王国の騎士は強く、そしてその強さをとてつもなく鼻にかけておりました。帝国の騎士は地に伏せる騎士団の面々を見て、血が出るほど歯を食い縛りました。


 ある時、王国と帝国の間で定期的な戦争が起こりました。

 帝国の騎士はこの時のために、自らが煎じた毒薬を持ち出しました。帝国の騎士に誠実さはありません。自らを慕うメイドを王国に潜入させ、王国の騎士の飲み物に毒を仕込ませました。

 とっておきの毒は、王国の騎士には効きませんでした。王国の騎士は強く、毒如きではとても倒れませんでした。帝国の騎士は薬草学の権威と共に何日もかけて作り上げた努力の結晶を無に帰され、大粒の涙を流しました。


 ある時、王国と帝国の間でお決まりの戦争が起きました。

 帝国の騎士はこの時のために、空前絶後の手を企てていました。

 帝国の騎士は騎士道精神に欠けていましたが、帝国の人間はそんな騎士を慕っていました。それ故に、騎士も帝国そのものを心の底から愛していました。

 だからこそ、今回は敢えて誰の力も借りずに一人で王国の騎士と相対することにしました。一周回ってストレートな戦法の方が効く気がしてきたのです。帝国の騎士に意外性という言葉はありませんでした。

 お察しの通り、王国の騎士は帝国の騎士を瞬殺しました。王国の騎士は強く、帝国の騎士はすごすごと引き下がっていきました。死にさえしなければ、また他の手で挑むのみです。帝国の騎士に諦めというものはありませんでした。

 帝国の騎士の後ろ姿を、王国の騎士はじっと見つめていました。


 昔々、帝国には外道極まりない騎士がおりました。

 そして、王国には振る舞いがいちいち鼻につく騎士がおりました。

 帝国の騎士は戦争の度に王国の騎士に挑み、そして敗北を繰り返しておりました。

 しかし帝国の騎士は、何度負けても帝国の皆と共にまた挑んできました。

 王国の騎士は言動が鼻につくので、彼に付き従ってくれる者はいませんでした。彼は常に1人で戦っていました。

 己の言動を省み、王国の人間に歩み寄れば、いつか共に戦ってくれるだろうか。

 王国の騎士は、いつか自分にとっての空前絶後の手を打てることを夢見ながら、今日も帝国の騎士を迎え撃つのでした。

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