2.生きてるなら、味わうもの《お題:官能的な小説トレーニング》

 自分の書く小説は、サバンナみたいだと思う。

 なんというか、リアルさに欠けていてパサパサしているというか。

「ていうか、食ってるモノの情報が見た目しかないんだけど?」

 書き終えた原稿を読み直して、まず気になったのがそこだった。

 そりゃそうだ。色とりどりの具材が挟まってるハンバーガーとか、見た目の描写はそれなりのくせに、味の感想が一切ないのが怖すぎる。食品サンプルでも食ってんのか。

 ヒロインだってそうだ。恋人になって、ガッツリ物理的な絡みがあるはずなのに、見た目や声にしか言及しないの不気味すぎないか。モナリザかこのヒロインは?

「なんでここまで五感を封印してるんだこの小説は・・・・・・。なんか疲れた」

 ため息をついて、引き出しからカロリーメイトフルーツ味を取り出す。

 包みを破って口を開け、はたと停止した。

「ここ最近、カロリーメイトとゼリー飲料しか食べてなくない?」


 もしかして、五感を封印してるのは自分自身では?


 気づいてからの行動は早かった。

「ごゆっくりどうぞー」

 シャワーを浴び、外出した先はハンバーガーショップ。

 といってもマックとかよりちょっとお高めの、カフェみたいな雰囲気のお店。

 注文したのは、トマトとかエビとかタマネギとかが、牛肉100パーセントのハンバーグと一緒にバンズに挟まれた、分厚いハンバーガー。アメリカのやつみたいにピンが刺さってて、添えられたポテトにはバジルがかかっている。

「がっ、ング・・・・・・食べづら・・・・・・」

 囓ると汁がボタボタ垂れてくる。ぐしゃぐしゃのトマトに気をとられて、味に集中できない。

「よくも悪くも、カロリーメイトで得られない体験をしている・・・・・・」

 思ったより塩辛かったポテトをつまみながら、独り言つ。

 セットで頼んだウーロン茶が、塩気を浴びすぎた舌には無味に感じられた。


「今度は何か、食レポみたいになっちゃったな」

 修正を入れた第二稿に目を通した感想がそれだった。不要な文が多くてどうにも若干読みづらい。

「でも、もう少し文量を調節したら良い感じかも。何だろう、身近になった?」

 生き生きし出した、というか。味覚の描写を入れるだけで、こんなにもキャラクターに生きてる感じが出るとは思わなかった。

「自分の生活が死んでるってことかな・・・・・・」

 引き出しの保存食のストックを見て苦笑する。

 でも、活路は見えた。

「ヒロインの描写はどうしよう? 友人には引かれそうだし、フリーハグでもやる?」

 若干の迷走感は否めないけど。

 もう少しだけ続けてみよう。この官能的な小説トレーニングを。

 自分の体験が、小説をもっと生きたものにしてくれるって分かったから。

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