第32話 ウィンザー要塞
12枚の魔晶石を粉々にし、私の頭の中の謎めいた羅針盤も幾分か実ってきたが、具体的な機能は分からないままだ。
この程度の魔力では、この食いしん坊の胃袋を満たすには程遠く、私はもう崩れ落ちそうだった。体質が少し上がっていなかったら、私は諦めるところだった。
現段階では当てにならないため、私は依然として慎重に行動しなければならない。野営を設置し、同盟の面々が各地から集まるのを静かに待ってから再出発しようと決めた。
華やかなで見事な旗の下に、ドタバタした隊列しか見えなかった。私もこの状況をどうやって突っ込んだらいいのやら。
ただ、我が家もかなりひどいと思っていたが、それ以上にひどい連中がいるとは思わなかった。同盟した貴族の中で、わずか2、3名の部隊を除いて、すべてゴミの中のゴミ、キングオブトゥラッシュ。
比較してみると、我が家の農奴部隊がこの臨時同盟の中でも五本の指に入る実力者になっていたのだから、呆れて何も言えなくなった。
強さの面で言えば、そうでもないかもしれないが、主に人数が多いのだ。同じく召集された者同士でも、異なる領土に課せられる軍事義務も異なる。
同じ烏合の衆なら、当然人数が多い方が実力が上だ。ただ戦場でサボる予定だった私も、自軍が同盟の『主力』になるなんて夢にも思っていなかった。
これ、窮地に陥ってしまったのではないのか。こんな烏合の衆を戦場に送り出して、反乱を鎮圧しに行くのか、それとも反乱軍に頭を差し出すために行くのか、結果は誰にも分らなくなってしまった。
この世界には知恵者が多すぎるとしか言いようがない。何かおかしいと感じると、みんな力を温存することを選んだ。
知恵者たちが一堂に会し、このような『烏合の衆の集まり』と言う前代未聞の光景を生み出した。
サボることが主流となった背景の中で、率直に動員した家は、逆に『異質』なものとなった。無論、『異質』なものは決して軽蔑的な言葉ではなく、みんな一族の身代を持ち出してきた者たちを非常に『尊敬』しているのだから。
盟友を選ぶときは、やはり率直で誠実な人が良い。ハーランドを含む多くの貴族たちは、話し合ったかのように、お互いを持ち上げ始めた。
本気でそう思っているのかどうかなんて些細なことだ。どちらにせよ、これからの戦争で、彼らが同盟の『武力担当』なのだから。
無論、名目上のリーダーであるマーカスも武力担当です。ただし、彼は個人の武力担当であり、他の者たちは集団的な武力担当。
仕方がないでしょう?マーカスが貧乏なのだから。
大量の財産を魔法研究と言う底なし沼に投げ込んだので、軍備を充実する資金がないのはごく当然なこと。城の見掛けの門番である兵士さえ、服役している農奴で構成されている。領地内でまともに戦えるのはマーカス卿自身だけ。
すべての貴族の私兵の中でも、マーカスの兵士が最も不甲斐ないとされている。竹で出来た槍しか装備しておらず、鎧は影も形も見当たらない。
装備が悪質ならまだしも、問題は兵士の質だ。散らばった隊列を見れば、訓練を受けたことがないことが一目瞭然だ。
他人と比較されるのは誰でも嫌だが、ハーランドは自軍が『精鋭部隊』となっていることに気付いた。
少なくとも進行している隊列を見ると、ホフマン家の部隊だけが整然と並んでいた。他の貴族たちの私兵は、野営地を設営するたびに人を探さなければならない。
多くの盟友が加わったことで、行進速度は自然と低下し続けた。定められた集合時間が近づいても、誰も焦っている様子は見られなかった。
みんな慌ててないので、ハーランドも積極的に進行するつもりもない。バーリミアム大陸でも、法は群衆を罰することが出来ない。彼らが高貴な貴族であるならなおさら不可能だ。
今の政治体制は、貴族に対する優遇制度は尋常ではないので、シュナイダー伯爵が一貴族を罰する力を持っていても、複数の貴族を同時に罰することは絶対にできない。そうなると、騒ぎが起きて王国が揺れる可能性があるため、絶対に避けなければならないからだ。
古来より、中央政府と地方の大名諸侯との間には調和しがたい対立が存在する。地方の大貴族を抑えるにはどうすべきかは、時代・土地関係なく、国王にとって必修の課題である。
王国の安定と権力バランスを保つために、歴代の国王たちは地方に楔を打ち込むことを欠かさず行う。地方が一致団結ところは、どのような賢明な主君でも見逃せない問題なのだ。
この大原則の中で、地方の大貴族と中小貴族の関係が良好な関係に発展するはずもないし、なりたい気にもならない。
以上の原則と暗黙のルールを理解したハーランドは、同僚たちの行動を突然理解した。小さな騒ぎを起こすことは、一見ばかげているように見えるが、実際には政治的な知恵の一つでもある。
無論、だからといって、皆が全員高名な政治家というわけでもない。多くのものがそれを行っているのは、本能的な習慣によるものであると言わざるを得ない。遅刻したくないと思っているかもしれないが、部隊の効率が悪すぎて、急ぎたいにも出来ないのだろう。
実際には、この光景を導いたのは、おそらく上の大貴族たちである。代々中小貴族への搾取と放任によって、今のような状況が生まれた。
立場を入れ替えれば、私も同じ行動するだろう。地方への統制が安定していないように見せかける状況を意図的に作り出すことは、国王の疑念を払拭するための最善の対応策である。
ただし、このような状況は、ここ数十年の間に変化してきている。時間が経つにつれて、地方の大名諸侯が蓄えた力はますます強くなり、王室の優位性が明確ではなくなってきている。様々な小細工が増えたのも、王室のレッドラインを試すためだろうさ。
ただし、これらはすべて私の推測にすぎない。手元の限られた情報では、上層部に対する理解も不十分であり、得られた結論は正確ではないかもしれない。
⋯⋯⋯⋯
ウィンザー要塞は、シュナイダー伯爵の大軍の到着とともに反乱軍を鎮圧する指揮所となり、反乱軍の西への進軍を阻止する前線となった。
騎士精神は兵士たちの先頭に立つことで表されるもので、シュナイダー伯爵は自ら兵士たちを率いて戦場に赴いていないが、自ら前線指揮所まで来て指揮を執っている。
数日間の籠城戦により、シュナイダー伯爵も疲弊していた。計画はいつも予期せぬ変化に追いつかないものである。反乱軍はただの無法者で、脅威ではないと考え、混乱に乗じて一族の利益を追求しようとしていたため、反乱軍を放置していた。
しかしながら、黒薔薇会は大規模な攻撃を仕掛けてきた。まずはヤテリクス城の貴族たちを皆殺しにし、そして反乱軍は速やかに町や村を制圧した。
シュナイダー伯爵が反応する前に、反乱軍はダラスとローレンスの二郡を制圧し、ハートフォードを目指して進軍してきた。
ダラスとローレンスの二郡だけならまだよかった、大半は他の貴族の領地であり、数少ない家臣たちに影響が及んだ程度だった。シュナイダー伯爵にとってはまだ耐えられる損失であった。
ハートフォードは違う。ここはすでにランドール家の中核領地であある。仮に反乱軍の手に落ちた場合、大きな損失を被る。
シュナイダー伯爵は仕方なく、召集令を発令しながら、自ら大軍を率いて迎撃し、ウィンザー要塞で敵を迎え撃つことになった。
「貴族たちの援軍は今どこにいる?到着までどれくらいかかるのだ?」
シュナイダー伯爵は眉をひそめて尋ねた。
ランドール家は反乱軍を恐れているわけではないが、戦争に死人は付き物だ。今回の反乱軍は明らかにただ者ではない。直接戦って勝利しても、損失は避けられない。
この弱肉強食の世界では、力こそが基盤である。ランドール家の力が大幅に低下した場合、どれだけの悪鬼羅刹が隙をついて襲ってくるか。
シュナイダー伯爵は自らの損失を減らすため、城外の反乱軍を叩き潰す力を持っていても、籠城することを選択した。
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