第30話 魔法の才能測定

 ハーランドの尽力により、一つの軍事同盟が急遽結成された。周りの飲み仲間たちが突然『同じ陣営の盟友』となり、宴会の熱気は再びクライマックスを迎えた。


 私は満面の笑みで周りの人々が大いに盛り上がっているのを見つめながら、内心では頭を横に振っていた。


 この急ピッチで成り立った軍事同盟は、世界でもっとも軽率なものに間違いない。各自の権利や義務については何も定められていないにもかかわらず、ただただ同盟宣言だけが行われた。


 実際の戦場でどの程度役に立つかは、それぞれのモラル次第だ。私も戦場で本当に頼りになるかどうか考えてみたが、どうしても不安が拭えない。


 利益が一致している状況であれば、なんとか同盟と呼べるかもしれない。しかし、利益が対立した場合には、同盟は瞬く間に崩壊するだろう。


 そうは言っても、私はこの同盟が非常に価値があるものだと考えている。別の問題は置いておいて、サボりや濫竽充数らんうじゅうすうの問題は解決された。


 シュナイダー伯爵が愚かでなければ、深刻な問題にはならない。なぜなら、規則は常に弱者を縛るためにあるのだから。


 30人以上の騎士と何千もの兵士は、東南州全体を見渡しても、小さな勢力とは呼べない。伝統的な貴族同士の結束を謳え続ければ、目的に到着する前に同盟を更に拡大することもできる。


 このような緩やかな軍事同盟に、大した戦闘力はないが、威勢を張るには十分すぎる!特に、支配者たちにとって、同盟の表の力だけでなく、貴族たちが所属する一族の影響力も考慮する必要がある。


 私が次にどうするか考えていると、突然サー・マーカスがやってきた。


「ハーランド、何か悩み事でもあるのか?」


 財政問題の解決の糸口を見つけせいか、彼がご機嫌斜めなのが窺える。小さな気遣いを配れる余裕さえ出てきている。


「マーカスおじさん、私も魔法研究が好きなんですが、素材がないのでマナ・コアや魔晶石を交換したいのですが、いかがでしょうか」


 私はさっきの考えを潜めながら、別のことを聞いてみた。


 バーリミアム大陸では、マナ・コアと魔晶石は通貨としても有効で、どんな金貨や銀貨よりも認知度が高い。


 というのも、金貨・銀貨は各国で発行される規格が異なり、力のある大貴族たちが自分たちで貨幣を鋳造することもあり、通貨の価値は発行者の良心によって左右されることが現状だ。


 国際貿易の決済時に、通貨の価値を換算することは非常に困難であり、大口の決済においては、安定した価値を持つ魔晶石やマナ・コアを使用することが一般的である。


 また、魔晶石やマナ・コアは戦争において重要な役割を果たすほか、魔法師や錬金術師などの職業にも特殊な役割を持つため、市場で流通することはあまりないのだ。


 私も最初は、お金さえ払えれば手に入ると思っていたのだが、実際の状況を知ると、あきらめるしかなかった。


 様々な要因に影響されて、たとえ市場に流通しても、破格の値段でしか買えない場合が多く、コストパフォーマンスは非常に低い。大量に入手したい場合、コネを使って、秘密裏に取引するしかない。


 私が知っている限り、魔法師協会は市場の3分の1の価格で王国からこの2つの戦略資源を入手している。


 貴族にも交換枠があるが、その前提条件として、まず魔法師になることが必要不可欠。このような状況下で、一般の下級貴族がコレクションとして所持していたとしても、数は決して多くないし、問題がない限り、交換しないでしょう。


 目の前のマーカス卿は、毎日魔法研究に励んでいて、これだけの魔法技術を開発したのだ、魔晶石やマナ・コアが手元に無いはずがない。


 さらに、マーカス卿は今金策に困っており、魔法技術さえ売り払おうとしている、動力源である魔晶石やマナ・コアの取引に応じてもおかしくない。


 無論、本気で魔法研究するつもりなどない、領地さえない私にそのような道楽は到底不可能だ。だが、万が一にも、戦場で逃走する羽目になった場合でも、国外で使える通貨を確保しておきたい。


「ハーランド、君はまだ若い。おじさんからの忠告だ、私のようになるな。


 魔法研究は底なし沼だ、どれだけお金を持っていても足りない。君が優れた魔法の才能があるのであれば話は別だが、そうでなければ時間とお金を浪費するべきではないよ」


 マーカスは重々しく語った。


 それらの言葉が真心であることはすぐに分かった。魔法研究の苦労を経験したマーカスは、ハーランドに同じ運命を辿らせたくないのだ。


「魔法の才能」という言葉を聞いて、私はひらめいた。自分も魔法師を目指すべきではないか、と。


 同じ魔法研究でも、騎士がやれば道楽だが、魔法師がやれば本業だ。


 残念ながら、私は魔法に使うどころか、触れたことさえないのだ。目の前のマーカス卿に目をやり、私はすぐに考えを巡らせた。


 自分に魔法師の修行方法がないが、目の前の彼が持ってないとは限らない。大広間にある魔法道具の数々を見れば、マーカス卿は理論的な知識に長けているのではないだろうか。


「マーカスおじさん、魔法の才能を測る方法をご存知ですよね?私に才能があるかどうか、検査してくれませんか?」


 私は試すように言った。


 有れば儲けもの、なければそれはそれで自分の状況を更に知ることができる。先程はマーカス卿に大きな借りを貸したので、今が自分の要求を切り出す最良の機会だと思った。


 マーカスは、ハーランドの強い意志を見たのか、または才能を測るのに時間がかからないと思ったのか、うなずいた。


「魔法の才能の測定は非常に簡単だ。特定の属性を持たない魔晶石を手に取り、精神力を使って魔力を吸収するだけだ。


 もし魔法の才能があるなら、魔晶石の魔力はゆっくりと君の体に流れ込む。流れ込む速度が君の才能の優劣を決定する。


 ただし、この測定方法は完全に正しいとは言えない、一定の誤差が存在する可能性があり、また得意とする具体的な属性も検出されない。


 正確に魔法の才能を測るには、やはり魔術師協会に行く方が手っ取り早い。手続きも非常に簡単で、金貨100枚の測定費を支払うだけ。


 もし才能がそこそこよかったなら、魔術師協会に引き取られ、測定費も免除される。ただし、これは子供に限られたこと。


 魔術師の育成は幼少期から始める必要があり、15歳を超えると魔術師協会でも受け付けてくれない。独学で魔術師になることができなければ、認定を受けることはできない」


 話を終えた後、ハーランドが全く動じていないことに気づいたマーカスは深くため息をついた。彼はハーランドの中に、自分が若かった頃の姿を見た。同じように、信念と自信を持っていた。


 ただ、魔法の修行は結局才能がモノを言う。確率で言えば、95%の人は魔法の才能を持っていない。


 デラバ王国全体で、登録されている魔法師は500人未満であり、その中の大半は魔法師見習いも含まれている。


 無論、人材選出方法にも関係がある。高額な測定費は、多くの貧しい人々から機会を奪った。


 もし、全国民の才能を測定するとなると、おそらく10年以内に、魔法師の数が1桁増えるだろう。


 当然のことながら、それは不可能だ。国王陛下も、貴族階級も、超常的な力を下々に蔓延させることを許すことはずもない。


 それに、王国の魔法師の数を考えると、全国民を測定しようと思っても、人手が足りるとは思えない。

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