第29話 臨時同盟
私も水を得た魚が如く、他の貴族と歓談しつつ、自分の存在感をアピールして来た。出席している貴族たちもただ者ではなく、誰もが円滑に話を進めていく。
上から目線、挑発、侮辱や嫌がらせなど、マンガやラノベによく出てくるワンシーンは、まったく見られなかった。
この場で最も若いものとして、彼らは好意を持って私と接触してきた。もしこのような状況下でなければ、自分達の娘さんとのお見合いを進めてきたかもしれません。
唯一の残念なことは、参加者がすべて男性であること。予想していた貴婦人や貴族のお嬢様は現れなかった。
これも仕方のないこと。遠征へ赴くのに、家族を連れていくような酔狂な人はいないだろうし。外部の人が家族を連れてこない中、近隣の貴族たちも自然と女性の同伴者を連れてきませんよ。
皆が集まって交流しているのは、一致団結して、これからの場面を乗り切るため。生存圧力に直面する中で、恋愛などの瑣事は後回しにされるのが世の摂理でしょう。
まぁ、これも必然な結果であろう。前世の料理ロボットのように、すべての材料や調味料を最も科学的な配合比率に従って投入しても、最後に出来上がる料理なんてギリギリ食べられる程度で、まったく魂が籠っていない。
マーカス卿が一人で酒を飲んでいるのを見て、私は一瞬ひらめいて、グラスを手に取って近づき、「マーカスおじさん、吟遊詩人にでも転職するつもりですか?」と笑いながら声を掛けた。
元々イライラしていたマーカス卿は、私の言葉を聞いて、顔色がますます曇っていき、私を見る目つきもどんどん危険なものになっていた。
『吟遊詩人』の表向きは華やかに見えるが、実際には良い職業とはお世辞でも言えない。貴族たちにとって、あれは暇な人だけがつく職業である。
自分達で物語を聞くぶんにはいいが、もし何処かのお坊ちゃんが吟遊詩人になったら、一族末代までの恥さらしになること間違いない。
冗談が少しすぎたが、私は全く動じていない様子で、冷静に「マーカスおじさん、一攫千金のチャンスがあるんですが、興味はありますか?」と持ち掛けた。
冗談ではないことがわかると、マーカスの怒りも一瞬で収まった。
この前の魔法実験をしていたところ、やり過ぎて領地の財政が破綻寸前になってしまった。早急に解決策を見つけないと、数千人の領民と一緒に空腹を強いられることになりかねない。
お金を集めるために、彼はひどく焦っていた。さらに、弱り目に祟り目、シュナイダー伯爵の召集令によって、マーカスはお金を借りることさえできなくなってしまた。
戦争は非常にお金がかかるもの。このような義務的な召集では、貴族領主が自分で兵糧や物資を用意して参戦するだけでなく、すべての費用も自分自身が負担することになっている。
動員の強さを見ればわかるように、今後は皆、節約生活を送ることになる。たとえ余力があったとしても、念のために残しておかなければならない。
お金を借りたいにも、口が裂けても言い出せないのが現状である。マーカスの肩にかかるプレッシャーは想像に難くない。
領地が本当に破産してしまったら、彼は領主として終わりだ。貴族は権利を享受するだけでなく、同様に義務も負わなければならない。
奴隷教育がどれぐらい成功していても、領民たちのお腹を満たすことは不可欠であり、最低限の生存ラインを保証する必要がある。さもないと、お腹を空かした領民たちが、反乱を起こすことだってある。
マーカスには妻と子供がいて、家業もある、そう簡単には放棄できない。追い詰められた結果、今回の宴会が開かれることになったのだ。
今の様子から見るに、この宴会は赤字決定のようだ。何も売れないていないどころか、宴会の費用まで重なったのだから。
貴族階級から見れば、些細な出費かも知れないが。破産の危機に瀕しているマーカスにとって、宴会を開催することは大きな出費となる。
一攫千金のチャンスがあると聞きつき、マーカス猶予する間もなく、すぐに「ハーランド、私の可愛い甥よ、君が言った機会とは何のことかな?」と疑問を口にした。
私は一口ワインを飲み、落ち着いて答えた。
「もちろん、戦争による富ですよ!
今回の反乱の規模はかなり大きい。多くの貴族や豪商の私財は反乱軍の手に落ちている。今、あの連中はみんな大金持ちですよ。
彼らを鎮圧すれば、我々の収穫も少なくないでしょう。
運がよければ、大物を捕まえて、更に儲けることも夢ではない!」
私の答えを聞いた後、マーカス卿の興味が一気に下がった。
そして、彼は不満そうに説明した。
「ハーランド、君はまだ若すぎる。
戦争によって富を築くのは、誰も知っていることだ。
しかし、戦争で本当に富を築いた者は何人いると思う?
いくら戦利品が多くても、それは大抵上層部の大物たちのものだ。
私たちは残飯程度のものしか残されていない、出兵の費用すら回収できないのに、一攫千金なんて夢のまた夢に過ぎんよ!」
歴史的に見れば、戦争で大金持ちになった人はほとんどいない。戦争中に富がないわけではない、大抵は権力者たちによって独占されているからだ。
下級貴族たちが残飯処理できるだけでもラッキーの類だ。権力者が優しい場合は戦利品を分け与えることもなくはない。もし、下っ端に関心を持ったない上層部に出会ったら、お風呂の残り湯さえ残らない。
「マーカスおじさん、そんなにお急ぎにならなくてもよろしいのでは!
私たちが生きている世の中は力がものを言います。私たちが単独で戦場に向かっても何もできませんが、団結すれば話は別です。
本日、この場に集まっている貴族は30家以上です。彼らの兵力を束ねれば、数千人の軍隊が揃います。
もし、マーカスおじさんが表に立って、皆を団結し、戦場へ向かうことができれば、我々の意見も無視できないものになります。
運が良ければ、ある地域の担当を勝ち取れるかもしれません。その場合、戦利品の分配は私たち自身で決められますよね?」と私は必死に説得してみた。
本来、これ以上この戦争に関わるつまりはなかったのだが、訪れたら機会を見す見す逃がす手もない。
マーカス卿の爵位は高くなく、貧しい身であるが、彼は実力を持ち、貴族の中での影響力も低くない。
彼が表立って同盟を組織するなら、この場にいる貴族の中で誰も断わらないだろう。誰も戦場で捨て石になりたくはない。
同盟があれば、最低限、軍事会議に参加する資格を得ることができるし、訳の分からない戦闘に貸し出されることも避けられる。
同盟の存在自体が上層部の大物たちの不快を引き起こすかもしれないが、それは私に何の関係があるのだろうか?
問題が発生しても、まず最初に首脳陣を追い詰めるだろうし。私自身がボスになるわけでもないし、上層部も小物を一々チェックするほど暇じゃないだろう?
「皆、本当に参加するのか?」
マーカスは確信を得られないのか、私に尋ねきた。
彼は戦闘に優れていて、研究もそこそこできるが、こと政治に関しては流石に無理がある。
長年にわたって領地を経営した結果、家業を発展させるところか、破産寸前まで追い込んだこと自体、多くの問題を物語っている。
「皆に利益のあることです、断る理由はないでしょう?」と私は微笑みながら返答しあた。先程の談話は単純な世間話だけでなく、貴族たちの考えも少なからず探っていたのだ。
成立させる自信がなければ、私もマーカス卿を焚き付けるようなことはしない。なんせ、レベル4の騎士を敵に回すのも得策ではないかね。
しばらくためらった後、マーカスは深呼吸をし、重大な決断を下したようだった。
「いいだろう、ハーランド。皆を集めてくれ!この件、乗った!」
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