第26話 出陣
武器庫の扉を開け、長い間埃まみれになっていた武器を取り出した瞬間、浮かれていた気分が直ぐに落ち着いてしまた。
そもそも手抜きするつもりだったが、目の前のこのくず鉄の山を見て、手抜きしなくても戦場で大して役に立たんだろう。
この光景を見て、傍らにいた父親も少し気まずそうになっていた。ホフマン家の武器庫にあまり良いものが残っていないのは百も承知だったが、こんなにボロボロだとは思わなかった。
「我が家も裕福ではない、普段使わない分の武器や鎧の手入れをする余裕はあんまりないのじゃ。武器庫には鎧82着、戦斧56本、格闘斧68本、カーブドソード79本、槍156本……
これらは我が家がちょこちょこ貯め込んだものだ。少し古いかも知れんが、人を殺すには十分すぎる品物じゃ。まぁ、とりあえずこれで我慢してくれ。戦場で成果を出してから、装備を交換するのも遅くはないじゃろう」
父親は少し気まずそうに私を宥めた。
最初は一部分の武器や鎧を残しておくつもりだったが、それは完全に計算外だ。いくら丁寧に保存されていたとしても、時の浸食は隠せない。
特に多くの鎧はすでに糸が解かれていて、持ち上げると地面に散らばってしまった。たとえ再び縫い合わせても、その濃いサビの匂いはどうにもならない。
私は鎧を手に取って、少し握りしめたら、予想通り、すぐに粉々になった。
この光景を見て、父親はすぐに立ち去ることにした。恥ずかし過ぎて、ここに留まるのはある種の拷問になっているであろう。
無論、父親を責めるのはお門違いだ。少なくとも、彼が当主を務めた数十年間、大規模な戦争はなく、小規模な紛争には領軍を連れていけば十分だった。
領軍の上質な装備を見れば、父親が武を重んじる貴族であることが一目瞭然だ。
武器庫については、正直言って、仕方ないとしか言いようがない。
武器にも使用期限が存在する、長い間使用しない場合は保管するのが最善策だ。
武器や鎧をするのも容易ではない。魔法使いに依頼する必要があり、使用するときまで開けることもない。
しかし、どれだけ丁重に保管しても時の流れには勝てない。記録されたデータでは、500人の兵士を装備してもお釣りが出るはずなのだが、実際には使用可能なのはその3分の1にも満たないだろう。
それも、使用可能と言うおまけ付きだ。、品質にこだわったら、恐らく一割割るか割らないかだ。簡単に見渡しても、完全な状態のものは両手で数え切れるわ。
こうなった以上、ごちゃごちゃ言っても始まらない。急いで破損した武器を鍛冶場に送り、可能な限り修復してもらう。
現実的に言うと、それさえ高望みなのだ。こんな短い時間で、領地内の鍛冶師が昼夜働いても、修復できるの数なんてたかが知れている。
武器や防具が足りない中、私はやむなく、兵士たちに最も原始的な武器である『槍』を装備させることにした。それも普通の槍ではなく、竹を削って作ったものだ。
防御力を高めるため、私は領民を集めて、『盾』の作成に取り掛かるように命じた。言うまでもないが、これも一般的な盾ではなく、竹で出来たもの。
これで敵の刃を防げるとは一般的に不可能だが、相手は反乱軍だ!自分達の装備がこれほどぼろいのだから、反乱軍がまともな装備を充実しているのは考えにくい。
戦場で使えなくても、これらの準備作業も無駄にならない。少し改造して移動できる竹板を追加し、紐を通すと、亀の甲羅のようなバッグの出来上がり。
普段は食糧を背負い、戦場では兵士の自信を高めることができる。万が一にも、木の棒を持った敵と遭遇した場合、防御にも役立つ。
主に時間が短かったため、簡単な道具しか用意出来なかった。じゃなきゃ、こんな受け身になるはずもない。
当然のことながら、下級兵士の装備が貧弱だとしても、騎士である私も同じように悲惨な状況に陥っているわけではない。
騎士の剣、ランス、鉄製の長槍、軍馬、鎧、騎士に必要な装備はすべて揃っており、10人の騎士従者たちにもそれ相応の武器と鎧が分配されている。
この点に関しては、父親はけちったりはしなかった。一般兵士の装備が悲惨だったのは、力及ばずだったと思う。
主な原因は戦争があまりにも突然に訪れてきたからだ。最初から情報を受け取っていれば、領地の生産力を持って掛かれば、百の武器は製造できたでしょう。
⋯⋯⋯⋯
時が過ぎ、3日の期限もあっという間に過ぎ去ってしまた。高くて立派な馬に乗り、鮮やかな鎧を身にまとい、騎士の大剣を手に取り、人々の見送りを受けながら、私は訓練を積んだ兵士500人を引き連れて出発した。
雄々しい気勢で出発したものの、長くは続かなかった。自分たちの領地を出発してすぐ、整然とした隊列は乱れ、私の堪忍袋の緒が切れた。
二日間の集中訓練の成果がこれだと言わんばかりな光景に、私はただただ拳を握りしめた。訓練を受けたと言っても、それは地元の人たちに見せるためだけで、出て行くとすぐに本性を露わにした。
やむを得ず、私は行軍速度を遅らせることを選んだ。本来の計画では1日に30キロを進む予定だったが、20キロまでに削減せざるを得なかった。
小規模の部隊行軍でこのありざまだ。持ち運ぶ食料がたかが十数キロしかない上、重い後方支援物資の荷物もないのにだ。
このような速度では、まるで亀のようだ。いや、亀への侮辱はやめよう。魔獣である亀なら、この速度よりもずっと速い。
速度が遅くなると、状況は一気に改善された。整然とした隊列には期待できないが、少なくとも基本的な隊列は維持されているし、四方に散らばることもなくなった。
考えまでもない。これは臨時に任命した士官が不適格であり、下の兵士をうまく指揮できなかったためだ。
しかし、問題点を分かったからと言って、どうにもならない。この時代で少しでも有能な士官は、基本的には貴族であり、私のような小童に従えるはずもない。
放浪騎士を士官として雇ったらどうか。うん?寝言は寝て言え。男爵領の資源では、自分の兄弟ですら足りないほどなのに、どうやって余所の騎士を養うことができるのか?
ある意味、貴族の力の強さを測るに一番手っ取り早いのが、傘下の騎士をどれだけ持っているかだ。
一般的に、10人前後の騎士を養えるような家は中堅貴族と見なされる。そして大貴族の門をくぐるには、少なくとも麾下に何百人もの騎士が必要となる。
無論、これはあくまで私個人の主観的な判断であり、代表的なものではない。大貴族になりたい場合、これだけでは不十分だ。そうでなければ、大貴族の地位も安すぎるからな。
ホフマン家を例にとると、強力な生育力を基盤に、あちこちで枝分かれし、現段階で、各地に散らばっている騎士たちを合わせると、おそらく100人以上になると推測される。
しかし、領地があまりにも分散しているため、力を集中させることができず、ホフマン一族は依然として小貴族にすぎない。
ただ人口が多いことから、一般的な小貴族よりも貴族の社会で立場が少し強い。
我が家のほこりまみれの武器庫を見れば、多少は理解できるかもしれない。ここ数十年間、周辺の隣人たちは非常に良い関係を保っている。
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