第24話 準備①
今、自ら飛び出て、指揮権を求めるのも、やむを得ない状況だ。戦争が迫っている中、私がそれから逃げることはできないのだから。
ザックとステファンは、次期当主とその補欠だ。敵が領地にまで進撃してこない限り、彼らが出陣することははないだろう。
スコットは騎士ですらない、戦場に送るのは無謀を通り越してあほとしか言いようがない。
排除法的に、残されたのは私と父親だけ。
まぁ、この場合、私のようなバックグラウンドも実力もない者は、逃げようとしても途中で捕まり、強制的に軍隊に徴兵される落ちだから、2人で行くか、否かの問題になってくる。
それに、騎士が率いる軍隊を派遣するのだから、その時点でシュナイダー伯爵への義理立ては十分、もうひとり騎士を派遣して烏合の衆に参加する必要もない。
更に言うと、父親と一緒に出陣するのも嫌だ。
父親の個人的な戦闘能力は悪くない、いや、むしろ下級貴族では強い方だ。しかし、それと軍事能力とは別の腹だ。
ここ数年、私は父親の戦い方を見て来て、彼が運の良いだけの騎士という結論に至った。
今まで生き残ってきたのは、自身の実力が強いのは否定しないが、出会った敵が同レベルか、または自分より弱いからだ。
例えば、以前出会ったトロール・幻影との対戦。もし、ステファン、私や領軍の援護がなかったら、逃げ出すしかなかっただろう。
他の領主と衝突したときは、大体互いに時間を決めて、陣を整え、兵士を連れて突撃するだけ。
戦略や戦術は存在しない。全てがガチンコ
の実力勝負だ。
明らかに、これは私にとって非常に不利だ。父親と一緒に戦場に出ると、真っ向勝負の戦いに参加する羽目になる。
私は騎士になって数か月しか経っていない。まだ人と殺し合う準備もできていない。それに、私の目標は生き残ることであり、何の得にもならない貴族の誉れにはなんの興味もない。
仮に、本当に戦う必要があるなら、子分や部下たちに先行させるべきだ。みんな烏合の衆でも、反乱軍より少し強ければそれで十分だ。
反乱軍を鎮圧する大事な責務は、友軍に任せよう。順風満帆な時はついていくし、敗北したら友軍よりも速く逃げれば良いだけのこと。
貴族集団で存在感を少しアピールし、顔見知りになる程度で十分お釣りが出る。もし軍功が少しでも手に入れられるなら、尚良し。
危険と機会は隣り合わせと言うが、一気に出世するほどのチャンスには、それ相応のリスクが付き纏う。私はそれを扱える自信がないね。
議論を経ても、父親ははっきりとした回答を出さなかった。
まぁ、無理もない。考えてみれば、16歳の子供が突然、独りで兵を率いて戦争に行くと提案されても、誰も安心して、はい、そうですね、と言えないだろう!
しかも、500人の若者を連れて戦場に出るというのであれば尚更慎重になる。ホフマン家は金持ちではない。この程度の損失は受け止めきれるだろうが、高価な学費は払わないに越したことはない。
最も重要なのは、今回の敵は本当に貴族を殺す反乱軍。貴族たちの間の暗黙の了解を知らない相手に、それを守ることに期待するだけ無駄だろう。
⋯⋯⋯⋯
訓練場では、緊急召集された500人の兵士がキャンプを周回している。隣には10人の少年が鞭を持って教官を務めている。
速すぎると鞭を受け、遅すぎるとまた鞭を受け、隊列が乱れていればやはり鞭を受ける。皆を徹底的に命令に従うように調教している最中だ。
領地の奴隷教育は結構成功しているみたいで、想像していた反抗的な人間は現れなかった。
ふう、愚か者が出てこなくてよかった。そうでなければ更に手間がかかってしまう。
時間が短いため、軍事訓練を行うことはできないので、今できることは命令への絶対服従を徹底的に叩き込むこと。
誤魔化すっていても、前向きな姿勢を示す必要がある。実際の戦闘力が重要ではない、見た目的に戦闘力を持っているかどうかが鍵だ。
父親の前ではシュナイダー伯爵をばかにしていたが、実際に直面する際は、油断できない。
なんせ、ああいう大物がその気になれば、私みたいなクソガキなんて容易に殺せるのだから。
⋯⋯⋯⋯
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