第19話 騎士③
夜も眠れないほど期待しながら、数日間はあっという間に過ぎていった。
とある日のちょっと暖かい午後、王都からの使者がついにホフマン家の庭園に到着した。
私たち家族全員が勢ぞろいで使者殿出迎えた。使者は青と白の相反する模様の騎士服を着て、同じ色の帽子をかぶり、左腰には2本の騎士の剣を帯びていた。彼は周りをくまなく見回し、緊張した表情を崩そうとしなかった。彼は重そうな鉄の箱を背負っており、中に『命の水』が入っているのは明白だ。彼の乗る馬の額にはわずかな突起が見え隠れている、それは魔獣の血統の表れ―今の軍用騎馬は基本魔獣の血が混ざっている。
使者は流れるような動きで騎馬から降りて、私たちから10歩離れた場所まで歩いてきて、父親に尋ねてきた。
「貴殿がホフマン男爵閣下でありますか?念のため、身元を確認したいのですが、身分を証明するものをお持ちですか?」
父親は使者の慎重さに満足し、家紋を縫った戦旗と愛言葉を返した。
「ワシがホフマン男爵だ。敬愛するデブロイネ5世陛下へホフマンの勇気と忠誠を!」
使者は合言葉を確認し、背負っていた鉄の箱を取り出して、父親に手渡した。父親は箱を開けて中身を確認し、満足そうに頷き、使者に労いの言葉を掛けた。
「王都からここまで来て貰って、ご苦労でしたな、使者殿。もうすぐ日が暮れる、ここで休憩でもせんか?」
「男爵閣下、ご好意に感謝しますが、今回は他の任務もあるので、遠慮させていただく。ではまた」
使者は言い終わると、振り返りもせず、馬に乗って庭園を離れていた。
父親はもう慣れているようで、鉄の箱を私に渡し、「ハーランド、厳重に保管していろ。準備ができたら、ワシとザックに知らせろ。守ってやるからな」と言った。
私は鉄の箱を受け取り、頷いた。箱の長さは約30センチ、幅30センチ、高50センチので、少し重く感じた。鉄の箱の蓋を開けてみると、蓋の厚さも10センチあり、四方も同じく厚い鉄で作られていた。
箱の中央には細長い試験管が置かれており、キャップもガラス製であった。手を伸ばして試験管を取り出し、淡い緑色の液体が入っているのを見て、つい唾を飲み込んでしまった。
これ、飲み物としてはあまり美味しそうには見えないんだけどな~
父親は私の考えを見透かしたようで、呆れ半分観念半分に愚痴を零した。
「贅沢を言うものではない。それでも貴族しか飲めんのだぞ、」
私は納得し、同時に試験管を鉄の箱に戻し、蓋を閉めた。
私は父親の方を振り返って、「お父様、私は今日中に『命の種』を凝縮するつもりです!」と宣言した。
父親は驚いたように私を見つめ、「もう準備は整っているのか?よく考えておくんだ、今回失敗したらもう二度とチャレンジする機会はないのだぞ」と、尋ねてきた。
「はい、もう自分ができることはすべてやりました。あとは光の主に委ねるだけです」
「分かった、それならワシはもう何も言うまい。では、いつ始めるつもりだ?」
「お父様が良ければ、今すぐにでも。思い立ったが吉日と、言うではありませんか」
「うむ、お前が決心したのであれば、決まりじゃ。ザック、お前もついてこい。イングリッド、他の人たちと一緒に屋敷に戻っておいてくれ」
父親は私の硬い決意を確認し、ザックだけを残し、他の者を屋敷に戻した。
母親達と使用人達が屋敷内に戻ったことを確認した後、父親は私とザックを連れて裏庭に向かっていた。
裏庭に着いた後、父親とザックは直接、物置小屋に向かって言った。
え?あれは使用人が清掃道具を置く物置小屋じゃなかったけ?あそこで『命の種』を凝縮するの?匂いまみれの物置小屋で?
私は驚いていたが、すぐに気を取り直し、後に続いて行った。父親とザックが自ら小屋の道具や雑貨を片付け、出入口から左奥の隅っこがどんどんキレイになっていくを見て驚いた。そして、父親がツルツルの床を一定のパターンで押したところ、床の一部が少し浮き上がっていた!
ザックが突き出た部分を取り除いた後、下に階段が現れた。父親は階段を降りる前に、ザックに周りを注意するように命じた。
「ザック、出入り口の外で警戒していなさい。誰も入れないようにしておくんだ。ハーランド、ついてこい」
私は鉄の箱を背負って、父親に続いて階段を下りた。父親は入り口で取ったトーチを燃やし、壁にかけてあるキャンドルに火を付けながら、下に向かって進んでいった。
約5分ほど進むと、私たちは鉄の扉の前に到着した。
父親は扉の前にあるキャンドルを燃やした後、鉄の扉を開けて、トーチを私に渡して説明した。
「ここは修練のための静室だ。中で安心して挑戦するがよい。ワシとザックは外で警備しているからな」
私はトーチを受け取って、静室に入り、キャンドルに火をつけた。父親は中の状況を確認した後、鉄の扉を閉じた。
うん?ちょっと待って!この地下数十メートルの密室で、キャンドルを灯していると窒息して死んじゃうんじゃないの?
私は周囲の状況を確認し、壁、天井、床は全て鉄製であることに気づき、手に持っているトーチを見て、消そうかどうか悩んでいた。しかし、微かに逆方向に向かって揺らめくトーチを見て、鉄の扉の下にある一定の隙間に気づいた。
ふー、冷や冷やした。
私は安心して、手に持っているトーチの火を消した。
鉄の箱から『命の水』の試験管を取り出し、キャップを開け、試験管を鼻の下に近づけて嗅いでみた。
!@#¥%……&*
この匂い!嗅覚を持つ生物にとって、これは拷問だ!一体誰だ!こんな酷い匂いのものを作り出したのは?改善するとか、考えたことなかったのか?
ああ、飲みたくないよ~でも、飲みたくないけど、飲まなければならない。男は度胸!
えい!
おおえええええ!!!
『命の水』を一気に飲み干した。そした吐きそうになった。
極めて不快な味が私の口先を刺激し、昼食を吐き出したい気持ちでいっぱいいっぱい。でも、そんなことはできない。この苦しみも耐えられないなら、この残酷な乱世で生き残って行くことはできないだろう。
吐き気を我慢しながら、私は静室の中央に座り、目を閉じ、全身をリラックスするように努力した。
感覚や注意を、口の中ではなく、体の内側に集中させるように。
体内では、『命の力』が体のあちこちから腹部に向かって流れ込み、徐々に球体を形成しようとしていた。多分、これが『命の種』の原型だろう。
時間が経つにつれて、球体の大きさも増していた。しかし、球体が大きくなるにつれ、凝集するのがますます困難になっていた。私は『命の力』を体内から球体の近くに運ぶと同時に、球体を維持するために圧力を継続的かけなければならない。
『命の力』を失った部位は虚無感を感じ、まるで砂漠で遭難した者が水を求めるかのように『命の力』を渇望しているようだ。
これは、注意力と忍耐力の持久戦。どちらか一方が途中で断念したら、私は即座に失敗する。そして、今後惨めに生き⋯⋯
フン、誰が負けを認めるか、私は決して降参などせん。
密封された空間の中で、どのくらい時間が経ったのかわからないが、ようやく全身の『命の力』を球体に集中させた。
この時点で、私の身体は、マラソンを強制的に完走した後、1週間水も食べ物も取らずにいるかのような感覚だった。『命の水』が守護してくれているにしても、こんなにつらいとは、道理で全ての『命の力』を凝縮しようとチャレンジする物好きがなかなか見当たらないわけだ。
今、私は、球体の外側に自分以外の『命の力』で出来た膜があることを明確に感じ取れる。最初は僅かな感じだったが、『命の力』が増えるにつれて、膜も徐々に浮かび上がって、フィルターペーパーのように、『命の力』を外側から通して、内側からは出られないようにしているようだ。
残りは圧縮凝縮するだけ。これが最後のステップで、失敗すれば今までの苦労が水の泡になってしまう。
ふぅ~
今だ!
深呼吸をし、集中力を高め、全身全霊を持って球体を圧縮し始めた。
この過程は長く、疲れる。重い鎧を着て走るような感じだが、手を抜くわけにはいかない。試合は延長戦に突入している。
そして、ついにその瞬間がやってきた。
球体を圧縮し続けると、内部の抵抗が突然消失した。球体が自ら急激に縮小し、私が苦労して圧縮する速度よりも数百倍速く縮小していった。最終的に、元の場所にはガラスの玉のような小さな球体しか残らなかった。体積は小さくなったが、それから感じる取れるエネルギーは、圧縮する前の状態よりも遥かに圧倒的だった。疑いの余地はない、これこそが真の『命の種』だ。
ついに、私は真の騎士になったのだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます