第5話慣れた扱い

俺が仲嶺に松原妹に関した悩みを打ち明けた翌日。

登校した俺に対して、最初に挨拶をしてきたのはやはり仲嶺柚葱菜だった。

階段を上り、踊り場に足をかけたと同時に友人と談笑していた仲嶺が歩み寄りながら挨拶を寄越してきた。

「おはよー、コウちゃんっ!夜更かしして、寝坊?ダメだよぅ〜充分な睡眠摂んなきゃね〜ぇ」

「……はよー。誰のせいだ、誰のっ!」

毛先に向かって軽く外側にウェーブをかけた髪がさわっと揺れて遅れた香りが鼻を抜けていった。

シャンプーかコンディショナーを替えたようだと、ふと気付いて気が逸れたおかげで返すのが遅れた。

「うひゃっ!くすぐったぁい。コウちゃんがいじめてくるぅ!」

彼女の耳もとで昨夜の抗議をしてやると、可愛い悲鳴をあげこそばそうにして、反撃してきた。

「軽々しくいじめられたなんて言うな、柚葱菜っ!」

頬を膨らませた彼女が小動物と重なり、一瞬どきりとした。

「ハイハイ、一宮くんとの夫婦めおといちゃいちゃは他所でやってよぅー。見せつけんなぁ〜」

友人が窓のそばの手摺りに背中を預けながら呆れたように、煩わしそうに言った。

「夫婦いちゃいちゃじゃないからっ!そ、そんなじゃないしっ!」

「照れるな照れるなーぁ!きしょいぞぅー、ゆんちぃ〜」

「きしょくないし、照れてないしっ!」

「こんなとこで噴火すんなーぁ。ゆんちぃ、どうどうー」

「雑にあしらうなーッ!三須凛みすりのアホーッ!」

苫璃三須凛とまりみすりの仲嶺に対する扱いに、慣れてるなぁと感じた。

暴れ足りないようで仲嶺が苫璃の胸倉を引っ掴み抗議しているが、変わらずに軽くあしらわれていた。

埒があかないようで顔を顰めた苫璃が、仲嶺を連れて行こうと背中をぐいぐいと押して階段を上がっていく。

その際に、軽いながらも謝罪を残していった。

ゆんちぃが迷惑かけて悪かったねー、と。


朝から嵐に巻き込まれた。巻き込まれた、のだったか……?


階段を上り終え、廊下を歩き自身の所属するクラスの教室の前に着いて、教室内に足を踏み入れた。

相変わらず、グラウンド側に位置する自身の席でヘッドホンで周囲の物音を遮断した女子が読書に没頭していた。


松原遥那は、俺に一瞥すらしなかった。雰囲気とそぐわない読書に没頭している彼女が不思議でならない。


読書家、でも無さそうな彼女が文庫本と向き合っているのが似つかわしくないと思えてしまう。




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ブラコンらしい孤高な美少女クラスメイトを惚れさせたい 闇野ゆかい @kouyann

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