第13話
学校に着き、先輩と別れた。今日は予定があるらしく、一緒に帰ることはできないそうだ。明日の帰りに先輩に過去のことを話そう。怖いけれど、先輩には伝えておかなければならない。
教室に入ると、何人かが「おはよー」と挨拶してくれたので、それに僕も「おはよ」と返す。こういったやりとりも少し前までなかった光景だ。一年前の僕に現状を話してもきっと信じてもらえないだろうな。
席に着き、スマホを見ると、メールが一件届いていた。
『どうだった? 言った通りだっただろ?』
『ミライのボク』からだった。先輩と電車に乗っているときに受信していたので、全く気づかなかった。
このメールについて僕はどう対応すべきだろうか。迷惑メールというのは基本無視が一番だ。けれど、これはただの迷惑メールではないことくらい僕でもわかった。本当に未来の僕からのメールだと完全に信じているわけではない。偶然である可能性も否定できない。
それでも僕は単なる迷惑メールとして処理するのではなく、何かアクションを起こすべきだと思った。
返信してみようかな……。
変なリンクが貼られているわけでもないので、ウイルスにスマホが侵されることはないと思っている。意を決して返信することにした。
『誰?』
たった二文字。それだけの文とも言えない内容なのに、緊張感を帯びていた。きっと好きな人にメールを送るというのは、この感覚に近いんだろうな、と思った。
そろそろ朝のホームルームが始まる。スマホの電源を落とし、カバンにしまった。
メールの返信が来るかもわからない。これで終わりかもしれない。それでも僕はメールのことで頭がいっぱいになって、とても授業に集中できる一日ではなかった。
放課後になってもメールは送られてこなかった。家に着いてもモヤッとする気持ちは消えず、何をする気にもなれなかった。小説を読んでも、字面を目で追っているだけで頭の中に何も入ってこなかった。情景も思い浮かべることができない。文章力の問題ではなく、単純に僕の意識が小説に向いていないからだろう。
「あー!」
この行き場のない感情を受け止めてくれるのは、枕だけだった。枕に顔を埋め、叫んだ。
悶々としていると、スマホが振動した。
すぐに起き上がり、充電中だったスマホを手に取り、確認する。
『未来の僕だよ』
返ってきた。
「……未来の僕、か」
きっとこれ以上追及したところで、詳しいことは教えてくれないだろう。それならどんなメールであれば、返信を期待できるのだろうか。
少し思案し、とりあえずなんの目的で僕にメールを送ってきたのかを訊ねることにした。
『わかった。じゃあ、未来の僕はどうしてメールを送ってきた?』
僕にしては珍しくすぐに返信した。普段は気づいたときや暇なときに返信するので、それほどレスポンスは早い方ではなかった。先輩からも何度か「夏樹くんって返信遅いよねー」と言われていた。
その日、返信が返ってくることはなかった。
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