33.集落の大事な儀式
カイル達はサクリ集落の外に出ていた。外で作業していた集落の民達が集落の中へカイル達とすれ違いざまに訝し気な目で見ながら入っていく。そして、辺りは夕暮れに差し掛かっていた。集落の外に出て、カイルの行動に訳が分からない表情をして口を開いたのはナナミだった。
「カイル!出ちゃってどうするの?これじゃあ、まともに食べられず身体をしっかり休められないまま上がらなくちゃいけない。どうして私に任せてくれなかったの?」
「力を使いこなせていないナナミが相手にしていたら、あのおばさんに殺されていたかもよ!あれは俺たちをマジで殺す気だった・・・」
ナナミはその言葉に唾を飲み込む。
「それにあれ以上はアテスちゃんがかわいそうだよ」
「そうね!でも、どこで野宿するの?もう、暗くなる」
すると、カイルはナナミの肩を笑顔でポンっと置いた。
「考えていない。ナナミはこういうの得意だろ。後は任せた!」
「えっ!丸投げぇーーーー!」
ナナミは大声で絶叫したのだった。しかし、そこからナナミは少し考えてから、集落から少し離れた木々がある場所を見つける。たまたま近くにいた草食動物をナナミがサバイバルナイフで一発で捕獲し、その動物の肉を火打石で焼いて食べた。
ゴソゴソ・・・
少し離れているくさむらからの音。すると、ナナミは視線が鋭くなり、草食動物を解体した血のついたサバイバルナイフを手に持ち物音のする方向に向ける。カイルは相変わらず余裕の表情を見せていた。
「だれぇー!気づているから、出ておいでぇーーー!」
カイルが物音のするくさむらの向けて声をかけるが、反応がない。ナナミは一層警戒感を強める。アンもくさむらから目が離せない様子だった。
「しょうがないなぁー!これってシャイって言うんだっけ?」
くさむらの方向へ手を開きながら近づいていくカイル。くさむらに反応は無かった。しかし、ナナミはこれがどういうことか気づいている。
「言わないわっ!行っちゃダメ!!」
「え・・・!ヘイキ。ヘイキ」
カイルは立ち止まり、後ろにいるナナミの方へ顔を向けるが、しかしとっさにナナミがカイルより前に出た。
「出てきなさい!その辺の動物じゃない」
ナナミがくさむらへサバイバルナイフを構えたまま近づくと、ガサゴソと大きな音がくさむらから聞こえたと同時に、2つの人影が飛び出る。
「あちゃーーー!ナナミの力じゃまだ二人の男の相手は・・・」
カイルはやれやれという顔を見せた。ナナミは2つの人影に気づいて、自分を襲ってくる1人をサバイバルナイフで一刺しで仕留めるが、もう一人に首を捕まれてしまった。サバイバルナイフは苦しさに下に落とし、ナナミはもがき苦しんでいる。
「イキっちゃダメだよ!ナナミ。俺に任せておけば良かったのに。どうすんの?」
「黙れ!よくもやってくれたな。この女が死ぬぞぉ」
ナナミの首を絞めている中年の男が怒声を上げる。
「ナナミ!1人なんだから、さっさと出来るだろう!」
カイルは男の怒声をスルーし、もがき苦しむナナミに向けて声をかけた。
「だまれ!この女を殺したら次はお前らだからな」
中年の男はナナミの首絞めを強める。
「はぁー!早くやっちゃえ。死んじゃうよ。ナナミ!」
すると、ナナミは自分の足で後ろにいる中年の足を思いっきり蹴飛ばした。
「あぁーーー!!!」
自分の首から中年の男の手が離れ、解放される。中年の男は激痛で大声が辺りに響き、蹴飛ばされた足を抱え倒れ込んだ。ナナミは落としたサバイバルナイフを拾い地面に転げまわっている中年の男の首根っこを掴み、サバイバルナイフを胸の辺りに突き立てる。恐怖のおかげで足の激痛も気にならなくなった。
「あなたは誰!見覚えが無い。どうしてこんなことを?」
「殺す!!」
中年の男は自分を覗き込むナナミに唾を吐きかけるが、自分にも戻ってくる。
「面白れぇーなぁー!」
それを見て笑みを浮かべるカイル。唾を吐きかけられたナナミは殺気を中年の男に向ける。
「あなたはもう歩けないわ!隣も人も死んじゃったみたいだし。ここで死ぬ前にどうしてこんなことをしたのか話してくれない?」
中年の男はもう一人の中年の絶命している様子を見て口を開く。
「俺は失敗した。もう、帰れない。殺せ!」
それを聞いてカイルは中年の男の前に立つ。
「失敗ねぇーーー!あの集落の人だよね。ひょっとしてシャーウーの言いつけかな?」
ナナミはカイルの方を振り向いた。中年の男は何も反応しない。
「やっぱり!あのおばさん、俺たちに殺気を向けていたもんなぁー。でも、殺しにくるなんて・・・この調子だとアテスちゃんも大丈夫かなぁー」
暗くなりつつある空を見上げる。
「アテス!?」
中年の男はその名に反応した。ナナミは中年の男に向き直る。
「何か知っているの?話しなさい!」
「俺はもう集落に戻れない。全て話すからその後は・・・」
カイルはそれを聞いて、中年の男にうなづいた。
「アテスは今夜山脈に住む狂獣の贄となる。その邪魔をしようとしたお前たち三人は許されないから殺すようにシャーウー様から命じられた」
「贄って神様の為に死ぬってことでしょ?どうしてアテスが死ななきゃならないの?」
ナナミは思わず中年の男の首を絞めてしまうがゲホゲホして、唾が飛んでくるので手の力を抜きを首絞めを緩める。
「そうしけなれば俺たちは神の怒りを買い、神が生み出した狂獣によって食い殺され滅ぼされてしまう」
「はぁー!」
ため息をついたのはカイルだった。
「また、神かよ!意味のないことをして」
中年の男はダメージがあるのにも関わらず鋭い眼光でカイルを見据える。
「意味がある!!神の教え通り女を贄として差し出すおかげで俺たちは食い殺されることはないんだ!」
それは怒声だった。しかし、カイルにはまったくビクともしない。アンは少し怖がっている様子だがナナミもカイルと同じように怒声にはビクともせず、話しを続ける。
「神が関わっていても自分達を襲う狂獣をなぜ倒そうとはしないの?」
「それは出来ない。神が生み出したものを殺す訳にはいかない。集落ごと消滅させらてしまう。神あっての俺たちだからだ」
呆れた顔をするカイル。
「やれやれ!どこも同じだな。ギョペはちょっとマシになったけど」
「消滅はある!俺はちょっと前に遠くの空で光が弾け飛ぶのをみた。あれは神の怒りで遠くの集落が消滅させられたと思っている」
その話しを聞いてカイルは思い出すように考える素振りを見せる。
「ちょっと前・・・光が弾ける・・・」
「それって!・・・」
ナナミはそれが何なのか気づいた。すると、カイルも気づいてしまう。
「あっ!・・・それ俺だ!俺があれをぶっ壊したせいだ」
それはカイルが山脈の向こうから帰って来る時に乗っていたミサイルの着弾を阻止する為にミサイルをパンチして上空で大爆発を起こした時のことだった。それを中年の男は遠くから目撃していたのだった。
※ ※ ※
アンは中年の男の足に両手をかざし、言霊で足の痛みを和らげていた。これはカイルがアテスの元に案内してもらう代わりにアンの言霊で痛みの治癒をする条件で中年の男は受け入れた。どちらにしても激痛のままではまともな案内にならず、アテスの元へはたどり着けなくなるということもある。しかし、ナナミは不満な様子を見せている。
「そんな奴をどうして?」
「俺たちはアテスちゃんの場所がわからないし、教えてもらわないとアテスちゃんの元にいけない。早く行かないとアテスちゃんはまずいことになると思うんだ。それに、あのシャーウーがやらせたんだ。まずはアテスちゃんをどうにかしてからだ!」
アンに治療されている中年の男をナナミは睨みながら見る。
「・・・次何かしたら容赦しない。わかったわね?」
「ああ!わかった」
カイルが中年の男の様子を見て、口を開く。
「痛みはどう?少しでもうごけるか?」
「だいぶ、良くなった!」
「そう!なら、約束通り俺の背中に乗ってアテスちゃんのいる場所を教えてもらうよ。それと贄のことも・・・」
中年の男はそれにうなづいた。アンは足の痛みを和らげる言霊を止め、後ろに下がる。言霊で完治しているわけではないので、足で立つのがおぼつかない様子だった。カイルはオンブの姿勢で中腰になり、中年の男が乗ってくるのを待っている。そして、中年の男が乗ると、しっかりと支え立ち上がる。カイルにとっては子供の身体でありながら中年の男の重さは全く感じていなかった。
「さぁー、行こう!どっち?」
「向こう!」
中年の男はまず集落のある方向を指を指す。すると、カイルは無我夢中で走り出していってしまった。
「アン!私の後ろに乗ってしっかりつかまってて。すぐにカイルを見失うわ!」
ナナミもオンブの姿勢を取り、アンを乗せ、爆走するカイルを追いかける。暗くなってきてることもあり、カイルを捉えるのが難しかったが何とか見失わず追いかけた。
「で!ここからどっちに行けばいい?」
カイルはすでに集落の入口の目の前に中年の男を背負い立っていた。
「ここから中に入らず後ろを周るんだ!それよりついてくる女は良いのか?」
そこからあっという間に集落の後ろに周り込んでしまう。
「ナナミなら大丈夫!それでこの辺にいるのか?」
「向こうに小さな明かりが見えるだろう。あそこでアテスが贄にされる」
中年の男が指さしたのは、山脈の入口になる木々が生い茂っている所に松明のような小さな明るさを放っている所だった。
「何でさぁー。男じゃなくて女だけが贄になるんだ?」
「理由はわからない。ただ集落に伝わる神の御教えの通りにしているだけだ。俺たち民は統領や神の意思と繋がれるシャーウー様に従うのみ。そして、その意思に従うことで俺たちは幸せになれる」
それを聞きカイルは暗くなった空を見上げてから、再び明かりのある方向を見据える。
「おじさん。口の臭いがさぁー!」
「・・・」
カイルはそこから一気に明かりの方向へ走り出した。背にあった集落がどんどん小さくなっていく。中年の男は口を開こうとしたがカイルが急に走り出してしまったので、思わず口を噛んでしまった。
- 麓の祭壇
ここはちょっとした広場を木々が覆っていて、その広場の奥に人が1人寝れるような石の台座と何か文字で刻まれている石板があるいわゆる祭壇のようなものがあった。そして、その祭壇より先は決して入ってはならない山脈の山林が続いている。その場は今夜、松明の光のおかげで明るさがあり、数十人の人々が集まっていた。
「さぁーアテス!お前を神のしもべである狂獣様に捧げる。これで、私達はまた許され、穏やかな暮らしが続けられる」
甲高い中年の女性の声が響き渡った。サクリ集落のシャーウーが目の前にいる上半身裸のアテスがいる。
「歴代の女達に続く前に別れの挨拶をしなさい!」
そういわれ、アテスは集落の人々のいる方向に振り向いた。
「統領!今日は一日自由な時間をありがとうございます。私はこの身でみなさんのお役に立つことが出来ます」
静かで淡々とした声だった。
「そうだ!お前の母もそうだった。お前を産んだ後にしばらくして役目を果たした。愚かにお前の父はそれに逆らおうとして、狂獣様によって死を与えられた・・・」
この白髪混じりの老年の男はサクリ集落の統領。
「それから、お前をここまで育ててきたのは私達だ。お前が贄として選ばれた時はこれほど光栄なことはなかった。そして、贄になる女は集落の習わしで最後に自由な時間を与えることになっている。さぁー、私達に光を!」
アテスは軽く頭を下げてから、祭壇の方へ振り直る。
「こちらに来なさい!贄を始める」
祭壇の台座へゆっくりと歩いていくアテスは台座にこびりついている古い血痕を見つめる。
「これで二人の元へ行ける。でも、あの人たちは今どうしているだろう?」
小さい声で呟いた。アテスは台座に乗り横になると、シャーウーが台座の前に立ち、横になるアテスを見下ろすように小声で話しかける。
「お前は最後の最後にあのよそ者達を集落に入れ気に食わないことをしてくれた。でも、これでお前とは終わり。おまえら親子共々は本当に気に食わなかった。ちなみに贄に選んだのは神ではなく私だ!」
シャーウーはアテスに向かって両手をかざす。それを聞いたアテスはエメラルド色の目を見開く。
「縛れっ!」
言霊によりアテスは全身が動かせなくなる。当然、口の動かせず、声も出せなくなってしまった。シャーウーはアテスに悪い笑みを浮かべ、祭壇から下がっていく。しばらくして、祭壇の向こうの山林から獣の鳴き声が複数聞こえてきた。
「もうすぐに狂獣様がおいでになる!」
シャーウーは地面に両ひざをつき、念仏のような儀式の言葉を唱え始める。どんどん獣の鳴き声が近づいてくる。シャーウーの後ろにいる統領も含め民達も後ずさりしながらも目を瞑り祈りを込めた。やがて、シャーウーは儀式の言葉を終えたようで立ち上がる。
「お前たち、狂獣様がもうすぐ来られる。ここから出ろ!!」
集落の民たちは急いでその場から出口へ走っていく。その様子を感じることしか出来ないアテスは涙を一滴流した。
「(今までの人達はこんな気持ちだったのかな・・・)」
ガルルー!
狂獣はすぐそばまで来ている。アテスには鳴き声と同時に自分に近づいてくる足音も聞こえてきた。
「あれ!みんなどうしたんだ」
麓の祭壇近くまできたカイルとカイルに背負われている中年の男は松明を持った集落の民たちとすれ違った。
「狂獣様が山から降りてこられる。そして、アテスを喰らう」
「そうか!アテスちゃんが危ないな」
「お前達!お前!」
集落とすれ違っている中、巫女の服を着た中年の女性がカイル達を見て立ち止まった。
「シャーウー様!」
カイルに背負われていた中年の男がシャーウーに気づき驚くように声を出した。そして、怯えている様子を見せる。
「ちょうどいい。おばさん!面倒を頼むよ。アテスちゃんをこれから助けにいくから」
背負っていた中年の男を地面に降ろした。シャーウーは中年の男をありえないという表情で睨みつけている。
「このガキがどうして生きてるの?殺せと言っただろうが!」
甲高い声を響かせるシャーウー。中年の男は恐怖で地面に頭をつけるしかなかった。
「申し訳ありません!あいつも殺されてしまいました」
シャーウーは中年の男の頭の上に足を置いて、グリグリする。
「それでどうしてこのガキとここにいる?まさかお前がここに連れてきたのか?」
「・・・」
「アテスちゃんを贄にするって聞いちゃったからね。そのおじさんから俺が聞いたんだ」
中年の男は頭をグリグリされ答えられる状態では無かったので、代わりにカイルが答えた。すると、シャーウーは怒りの表情を抜き出しにしてカイルに向けて手をかざす。
「目の前にいるガキに死を!!」
人に死をもたらす言霊がカイルに向けて放たれた。
「こうなるんだよなぁー!だから俺はこの地を離れることに決めたんだ」
カイルは手を出し、そこから一気に何かをはらう動作をする。
「まずい!おじさん」
中年の男が頭を上げ血まみれの顔を見せると、そのまま意識を失いバタリと倒れてしまった。
「あちゃー!どうしてくれるの?」
口に手を当てるカイル。
「ちょうどいい!これでこいつも私に対して罪を償うことが出来た」
シャーウーは倒れた中年の男を助ける様子もなく、冷酷な目で見ていた。
「ひどいなぁー!おばさん。もうすぐ、ナナミとアンが来るはずだ。俺はもういかなくちゃ!」
カイルは祭壇のあるほうを向き、入口の場所を見つけると走っていこうとする。
「おまえたち!!このガキが儀式の邪魔をしようとしている。祭壇に行かせるなぁー!殺せぇー!」
再びシャーウーの甲高い声が響き渡ると、集落に帰ろうとする男たちがカイルに視線を向けて一斉に追いかけようとしてくる。前からも後ろからも松明を持った男達がカイルを挟み撃ちにして襲い掛かってくるが、カイルは涼しい表情で次々とかわして、祭壇のある入口へ進んでいく。その様子を苦い顔で見つめている。
「ちっ!冗談じゃない。このままでは大変なことになる。代わりに私たちが狂獣様に・・・」
そして、思わず目についた倒れて死んでいると思われる中年の男を蹴飛ばした。
「役立たずのクズがぁー!」
シャーウーは祭壇のある場所へ進んでいるカイルを追いかけていった。
「この人・・・」
人がいなくなったその場に少し時間が経った後、ナナミとナナミに背負われているアンが死んで倒れている中年の男を見つけた。
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