Ⅱ.Beasting - ビースティング -

31.目に見えざる声

 カイルたち、三人の歩いている姿が上空から見えた。カイルには気づかれないように距離を取って飛んでいる。その飛んでいる姿は人にも動物にも恐らく見ることが出来ないが、カイルであれば感じることは出来るだろう。そして、その存在は存在の立場として見てはいけないものを先日見てしまった。


「俺は聖騎士長としてあの少年を始末しなければならない。でも、あれを見たら俺でもどうなるか?・・・」


自分を聖騎士長と言う存在はジーナからケルビムの聖騎士長と呼ばれた肉体を持たない霊体のような存在のこと。そして、そのケルビムの聖騎士長はカイルと集落の統領との衝突の一部始終を遠くから見ていたのだった。あの衝突を見てただただ唖然とするしか無かった。


「休暇のついでで軽い気持ちで来たのに・・・困ったなぁー!何でこんな力がこんな所にいるんだ?どういうことだ!」


さらに、集落の統領のこともカイル以上に危険性があると警戒している。


「後、あの男、神に近い力を持っている。放置は出来ないけど、今は少年の方が気になる!」


姿や形はないが、改めてカイルが歩いている様子を見た。


「いずれにしても神や中枢に知られれば彼らごとこのシチという地は消されることになるだろう。それは、俺にとっては面白くないんだ!むしろ、少年がこっちに来れば面白いことになりそうだ」


すると、前触れもなく突然カイルがこちらの飛んでいる位置を的確に向いてくる。


「しまった!気づかれた?」


気づかれたら戦うしかなかったが、気づいていないようで前を向いた。気のせいかと一安心する。カイルの後ろにいた女性に振り向いたことを聞かれている様子だが、「何でもない!」とニコニコしながら返事をした。


「いつまでもこうしてられない。いつか少年に気づかれるのは時間の問題。でも、もっと少年を近くで見たい。さて・・・・あっ!」


ケルビムの聖騎士長は何かが思い浮かんだようで、カイル達より先に山脈の方向へ飛んでいった。そうすると、カイルがふと上空を見つめる。しかも、飛んで行っている方向を的確に見ていた。


「ずっと気になるんだよなぁー!ハッキリして欲しいけど、まぁー、いつかわかるだろう!」


カイルは理屈的にははっきりとわかっていないが、感覚的には何かあるとわかっていたが、今の所、その正体は自分たちに害が無いので放置していた。


「何かよくわかんないけど、面白くなりそう!」

「へぇ!急にどうしたの?さっきから」


また、突然カイルが独り言を始めたので、後ろを歩いている迷彩柄のタンクトップでリュックを背負う姿のナナミが聞いてみた。


「旅は面白いってことさぁー!」

「どういう意味?」


ナナミが聞いたのはカイルではなく、カイルの隣を歩いていたアンだった。


「そんなの私にもわからないよぉー!」


そんなこんなで、山脈側に近づいたことで、山脈がさらにデカく見え、木々が少しづつ増えてきた。


「あそこで休むか!?」


カイルは遠くに見える小規模の森林を指さして、ナナミとアンの返事を待たず、先に走っていってしまう。


「ちょっと!カイル!」


ナナミがそれを言った時にはすでにカイルとの距離はだいぶ離れていて、二人は慌てて追いかけた。

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