30.三人の旅立ち
翌日の明け方、太陽の光が静寂な集落に入り込み、明るくなると祭壇の前にはカイルとナナミ、そして昨日の夜、ここで祈りをしていたアンの三人が立っていた。カイルがそれを見つめ笑みの表情を浮かべる。
「俺たちを縛ってきた神と決別するんだ。こんな祭壇壊してここを出るか!」
「それはやりすぎだよ!」
それを聞いて、アンは困った顔を見せる。
「昨日の覚悟はどうしたんだ?怖くなっちゃったか?」
笑みを向けながら言った。
「そ・そうじゃないよ!でも、そこまでは・・・」
すると、ナナミが口を開き話しに入ってくる。
「いいんじゃない!統領が神から独立するって言ってたから。あの人は発狂するだろうけどね」
まだ集落の民が寝ているはずの静寂な集落でこちらに向かって足音が近づいてきた。
「やっぱり気づかれるか!」
カイルは少し不機嫌になった。その足音の正体は統領のものでこちらに近づきながら話しを始めた。怒っている様子はない。
「ナナミの言う通り。それは奴らに独立を示すために俺が壊すつもりだった。それにお前らのこの動きはわかっていた。統領としては止めたいところだが、カイルとの約束もある・・・」
そういうと、統領は三人の眼をそれぞれ見つめてから話しを続ける。カイルは怪訝な顔をした。
「何より三人は決意が固いようだ!・・・やはり来たか!」
統領はこちらに向いている気配に気づいていたが、近づいてきたのでそれを口に出した。それはもちろんこの集落のシャーウーのイザである。また、発狂しそうな様子で現れた。
「あなた達!こんなところで何しているの?それに、アン!」
覚悟を決めていたがやっぱり怯えてしまうアン。イザの問いに対して、カイルが笑顔を見せ答える。
「見てわからない?旅に出るんだよ!言ったでしょ!」
「掟破りの山脈に入るつもり?」
「もちろんさぁー!」
挑発気味に明るい声で言った。イザはその態度に発狂し始める。
「統領が許しても神を冒涜することは私が許しません!取返しがつかなくなる前にアンとナナミをこの場で殺して、その骸を神へのお詫びとして祭壇に捧げます!!」
ナナミとアンはイザの言葉にビックリして後ずさりしてしまった。
「あれ!俺は殺さないの?」
カイルは能天気に聞いた。
「あなたは私の力では殺せません。神が代わりに死を与えるでしょう!」
「はぁー!俺を殺すのも神頼り?自分で殺してみようよぉー!」
挑発を続けるカイル。
「・・・」
イザが黙ってしまう。それに口を出さず見守る統領の姿。そして、カイルは笑顔から一転引き締まった表情になった。
「俺は訳のわかんない神とやらに殺される気はないし、それにアンもナナミも殺させない!!」
カイルはイザを見つめる。イザはカイルに吸い込まれそうな感覚に陥ると、言霊で抵抗し始める。
「冗談じゃない!!神に背く三人は邪悪な存在。神に仕えるシャーウーとして脅威になる前に私の命を賭けてでも、この死の言霊で始末します!」
すると、イザはアンとナナミに向けて手をかざし始めた。
「やめろ!!それはダメだ!」
統領が大きな声を出して、イザの言動を防ごうとする。そして、三人は祭壇の目の前まで行き、立ち止まる。
「もう、うんざりだぁーーー!!」
三人は一斉に声を張り上げながら石の祭壇を蹴り飛ばし破壊した。
「なんてことを!ああああーーーー!!」
祭壇が崩れると、狂ったかのように暴れ始め、三人をものすごいキツイ形相で睨む。
「神に従えない邪悪な存在は生きる価値はないー!この者達の命を奪い給え!死ねぇーーー!!」
死をもたらす言霊を三人に向けて発すると、カイルが前に出て片手で構えるが統領が素早く間に入る。
「もういい!イザ」
死の言霊を片手で弾き飛ばして、発狂しているイザを自分の身体に引き寄せ、口の中を噛んでから血が出てくるのがわかると、イザの唇に自分の唇を接触させた。それを見てナナミとアンは顔が少し赤くなる。
「やっぱりそういう関係だったんだな?」
二人の様子を見て冷めた表情で呑気に言った。そして、統領はそのままイザを地面に押し倒す。
「朝からやることじゃないな。でも・・・」
カイルはイザが意識を失っていることに気づいた。接触を止め、統領は立ち上がると口には血がついている。
「お前の思っている通りだ!それより、この騒ぎに集落の民がここに集まってくる。後は俺がやる!行け!この世界の姿をよく見渡したら、必ず生きて俺のいる所に戻ってこい!命令だ!」
「気が向いたらな!行こう!二人とも」
カイルは先に出口へ歩いていく。
「みんなバイバイーーー!!」
笑顔で手を振っていた。ナナミは統領に敬礼してから、カイルの後ろを追っていく。
「し・師匠のこと、よろしくお願いします!」
「ああ!二人を頼む」
アンは頭を統領にペコリと下げ、二人を慌てて追いかけていった。三人が集落を離れていく後ろ姿を見つめる統領。
「お前の思う自由なる意思がどこまで通用するか試してこい!カイル!」
三人は集落から出て旅立っていった。その後、集落の民が何事かとわらわら近づいてくる。
※ ※ ※
太陽が地上をまんべんなく照らしている頃、カイル達三人は草木に囲まれ集落が小さく見える地点を歩いていた。
「山脈を越えるって言うけど、どの方向に入れば越えられるのか知ってるの?何も聞かずに飛び出しちゃったけど」
カイルとアンの後ろを歩いていたナナミがふと肝心なことを思い出したのでそれをカイルに聞いた。カイルはナナミにニコっとした表情で言う。
「わからない!でも、山の見える方向に歩いて行けば大丈夫!」
それを聞いてナナミはめずらしく不安な表情になる。
「はぁー!情報もないのに、目的地もはっきりしてないまま、ここを歩いていくなんて危険すぎるわ!」
「俺がいるから安心しろ!ナナミ!」
あくびをしながらナナミに言った。
「この方向に歩いてもうまく山脈に入れるかわからないのに」
「入れそうなところから入れば良いんだ!入って登ればいつかは越えられるさ!」
ナナミは前方見える巨大にそびえる山脈を見つめる。
「いくらカイルでも何がいるかわからない山を甘く見すぎよ!あんなに大きいのよ!」
「じゃあ、どうするんだよ?」
カイルはまたあくびをする。ナナミはそれを聞かれ立ち止まる。すると、カイルとアンは後ろを振り向いた。
「やっぱり今から戻って統領に聞いてくる?このまま進むのは危険だもの!」
「俺は面倒だから戻らないぞ!あいつとおばさんにもしばらく会いたくないし」
そういうと、その辺にあぐらで座った。
「いいわ!私一人で戻って聞いてくる。アン!戻るまでよろしく頼むね」
「いってらっしゃいー!俺は戻ってくるまでここで寝るから」
カイルは地べたに寝始める。隣に立っていたアンはナナミに心配そうな顔を向ける。
「今から大丈夫!」
「ちょうどいいわ!自分の力のコントロールとトレーニングになるから。なるべく早く戻るようにするわ。カイルが思いつきで勝手にどっか行かないように見てて!」
すると、集落の方向を向いて、走る構えを見せると、時速30~40kmのスピードで走っていった。それを見つめているアン。
「zzzzz・・・・」
カイルからイビキが聞こえてきて、呑気に寝ているカイルを真顔で見つめるアンだった。
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