28.三人の選択とシャーウー

 カイルは立ち上がった。すると、それに気づきこの場にいる集落の民たちがカイルに視線を向ける。統領に泣きついていたシャーウーも何事かと泣きつくのを止めて、カイルを見た。


「俺は集落を出て、旅をする。統領の許可も貰った!」


その発言を聞いて最初に口を開いたのは険しい顔をしているシャーウーだった。


「まさか掟で禁じられている山に入るつもりではないでしょうね?」


カイルは笑みを浮かべる。


「もちろん!」


表情がきつくなっていくシャーウー。


「前にも言ったわよね。あなたが強くてもあの山に入れば神の怒りに触れて死ぬのよ!」


「心配してくれてるんだ。でも、死ぬかどうかは行ってみないとわからないし、今まで入って死んじゃった人もいるかもしれないけど、俺は死なない自信はある!」


笑みはそのまま、意味も特になく、シャーウーに拳を向けた。向けられたシャーウーは怒気が強くなっていく。


「これ以上、余計なことをするな!!あなたは死ななくても、この地に災いをもたらすことになりかねないの!!」


怒気はヒートアップして、段々怒り狂い始めた。腕を組んで聞いていた統領が二人のやり取りに入る。


「俺の話しを聞いたらどうだ。カイルはこの俺に一発当てた。あの山に入っても死ぬことはないと思っている。だいたい、災いなど皆を護る統領として俺が蹴散らす!」


カイルが統領に一発当てたことについて周りで聞いていた集落の民たちがざわざわし始める。シンプルに驚いている様子だった。その反応に対して統領はさらに付け加える。


「この地で俺に一発当てたのはカイルが初めてだ!だから、少しは安心しろ!」


後半はシャーウーに向けてのものだった。それに気づきシャーウーが反応する。


「カイルのことを心配しているわけではありません。神の怒りが心配なのです」

「俺を心配してくれてるんじゃ無かったんだ!ショックだなぁー!」


あくびをしながら言った。すると、食事を前にして座っていたシャーウーが立ち上がり、避難してきた集落のシャーウーをちらっと見る。


「お怒りにならないように今から祭壇の前に行き、懺悔してきます!」


そう言って、出口に向かって歩き始める。


「私も恐ろしいことにならないようにお供をして一緒に懺悔します!」


その後ろにもう一人のシャーウーがついて行った。その際にカイルは睨まれるが、怖いとまったく感じない。


「悪いことなんてしてないのに謝るなんておかしいなぁー!本当に面倒くさいおばさんたちだ!」


二人の出ていく後ろ姿に煽る感じで大きな声で言った。それに対して二人は無反応のまま外へ出ていった。その姿に統領は呆れる。


「ふぅー!まったく!」


一方、ナナミも二人の出ていく後ろ姿を見ていた。


「どうしてあの人たちは、あんなに狂信的なのかしら!」


呟くように疑問を口にした。ナナミの近くに座っていたアンはシャーウーが出ていく姿をみて、慌てて立ち上がりついて行こうとすると、カイルの声が聞こえてくる。


「あのおばさんの言う通りしてたら、本物のシャーウーにはなれないと思う」


アンはそれを聞いて、少し考える素振りを見せ、ついて行くことは無かった。


「カイル!これからこの集落のことを考えれば、ここに残り俺に強力して欲しいが、考えは変わらないか?」

「変わらない!!俺はいく!」


統領に揺るがない強い意思を示す。統領は顔を下に向ける。


「親代わりに育ててきたが、残念だ!」

「それは感謝している。けど、いつまでも縛られる気はない!」


統領は顔を上げ、カイルの目をのぞくように見るが、無言のままだった。そして、今度はナナミとアンの方を向く。


「二人はこれからどうする?俺としてはカイルの代わりに力になって欲しい」

「俺のせいみたいに言うな!」


カイルは統領に嫌な顔を向けた。ナナミとアンはカイルの方をみると、それに気づいてカイルは二人を見て、口を開く。


「好きにすればいいさ!俺は一人でも行けるから大丈夫だ」


そう言い、先にご飯を食べ始める。それを見た統領は怒る。


「統領の俺より先に食べるな!」


ナナミとアンはそれぞれ考えてから、統領の質問に答える。先に口を開いたのはナナミだった。


「私はこの世界に来てしばらく立ちますが、ここにいても帰る手がかりは見つけられませんでした。でも、カイルと一緒に旅をすることで、何かわかるかもしれないので、カイルについていこうと思います。統領にせっかく力をもらったのにすみません」

「そうか!残念だ。だが、旅に出てその力を強化していくことも良いことだろう。いずれ、俺の元に戻ってきた時に力になってもらいたい!」


ナナミは何も言わず、頭を下げた。


「謝ることはないよ!力を貰おうがナナミの自由なんだから!」


統領はカイルに不満のある顔を向けてから、今度はアンに顔を向ける。


「アンはどうする?お前はこの集落のシャーウーであるイザの跡継ぐ者だ。ここに残って修行するべきだが・・・」


この集落のシャーウーの名前はイザと呼ばれていた。シャーウーは集落の中で祭祀する巫女の呼び名である。


「旅は怖い!でもカイルと離れるのは嫌。ついていきたい!」


不安な表情していたが、アンは意を決して自分の意思表示をした。


「それは掟に背くことだから、イザが許さないだろう!」


それを聞いて、無言になり困った顔をする。


「お前の思う通りになれば良いんだよ!アンなら出来るさ!」


カイルがアンを勇気づける。


「私にも出来なかった竜巻を鎮めたんだから、もっと自信を持って!」


アンの肩に手を置いて勇気づけるナナミだった。


「あのアンが・・・」


その話しを聞いて、統領が腕を組み、アンを見据える。アンは意を決したように、出口で歩いていき、師匠のイザの所へ向かった。

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