27.ギョペ集落の統領

 統領はカイルに殴られたが、それで倒れ込むようなことはなく、後ろに反り返る程度になっていた。


「これは読んでいなかった!お前ごときが俺を騙すとは・・・・」


カイルの作戦であることに気づくと、そこからカイルの身体を掴み、遠くへと投げ飛ばす。そして投げ飛ばした方向へ統領は瞬間移動し、地面に倒れているカイルを見下ろした。


「一発俺に当てただけで勘違いされて、統領の俺に歯向かわれては困ってしまう。この辺で刷り込んでおかないとな」


カイルを見下ろしながら低いトーンで呟いた。すると、統領は倒れている統領の頭を鷲掴みにして、片手だけで持ち上げる。


「(こいつ俺に何する気だ!・・・)」


カイルは頭を鷲掴みにされながら、大人しく統領の様子を伺っていたが、今までと雰囲気が違う統領に嫌な予感しかしなかった。


「放せぇーーー!」


抵抗し、暴れ回る。


「うるさい!大人しくしていろ!」


統領が語気を強めそう言うと、鷲掴みにしている手に力を入れる。軽く衝撃波のようなものが走ると、カイルは一発で気絶してしまった。そして、カイルを地面に寝かせる。


「最初からこうすれば良かった。さて、始めるか。うまくいけば、お前は俺の完全なる右腕となる!だが、異質であるカイルにこれが効くがどうか?・・・・」


気絶しているカイルを見据えながら呟き、再びカイルの頭を鷲掴みにした。少ししてから鷲掴みにしている統領の手が光り始め、やがて、カイルの頭を光が包み込む。


「この生き物よ!・・・」


統領は言葉を発し始めた。


「汝は救世の主である我の言葉に逆らわず従え!」


言葉を唱え、光の輝きがさらに強くなると、その途端にカイルの身体がブルブル震え始め、それがどんどん強くなっていく。


「どういうことだ!まだ、俺に逆らう気か!」


再度唱えようとすると、今度は四方八方から上空から強烈過ぎる突風が統領を襲う。その周辺に生えていた木々が切られてしまうほどの殺人的な突風が吹き荒れていた。


「俺の邪魔をするのか!?・・・・」


容赦なく襲ってくる突風に語りかけた。自分の服がどんどん切れていく。


ヒューウー、ヒューウー、ヒューウー・・・。


統領は風の音を聞くと、顔を空に向け、青空の天を仰ぎ見据えると、何かを気づいたようにハッとした表情を見せた。


「わかった!!」


カイルの頭を包み込んでいた光の輝きが弱くなり、そして無くなる。統領は鷲掴みにしていた手を放すと、突風は嘘であったかのようにピタッと静まり、辺りは微風が吹く程度に落ち着いた。


                ※ ※ ※


 統領は気絶しているカイルを肩に抱えて、集落まで戻ると、入口の前にナナミとアンがしゃがんでいた。統領が帰ってきたことに気づくと、二人は駆け寄ってくる。


「カイルが担がれているなんて、何があったのですか?」


ナナミが驚いた表情を見せながら、聞いた。少し後ろにいたアンは心配している様子。


「目覚めたらカイルに聞いとけ!こいつのことを後はお前らに任せる」


そう言うと、統領は抱えているカイルを地面に置いて、集落の中へ入っていってしまった。


訳が分からずその様子を見つめるナナミはとりあえずカイルを集落の屋内へ抱えて運び寝かせる。改めてカイルを見ると、身体は土を被ったように汚れ、服は所々切れていた。


「一体何でこんな風に?」


カイルがこんな姿になるのを初めて見たナナミは、カイルが目覚める様子がないので、原因は外ではなく内にあるとみた。


「アン!言霊でカイルを回復してくれない?」


アンは頷き、寝ているカイルの前に近づき、手をかざし、言霊を発する。


「カイルに癒しを。治し給え!」


言霊で発し、アンは目を瞑り、さらに祈りを込めると、パチッと目を覚ましたカイルだった。二人の心配そうな表情が目に入り、寝ながら辺りを見回し状況を理解する。


「戻ってきたのか!あいつは?」

「近くにいるはずよ」

「そうか!それより腹が減ったから何かないか?」


そういうと、カイルは上体を起こし、そして立ち上がる。二人からはカイルの様子をみて心配な表情は消えた。


「もうすぐ日が暮れる頃よ!そろそろ夕食になるわ。それよりも、統領と何が?・・・」

「あった!ここを離れたのはあれ以上あそこで続けたら集落が壊してしまうから遠い場所でやったんだ。後、あいつに一発でも当てられたら自由にやらせてもらう条件で勝負して何とか一発当てたんだけど、逆ギレしやがって、気づいたらここで目を覚ましたわけさ」


それを聞いてナナミはいろいろと考える素振りを見せる。カイルは外の様子を確かめている。


「みんなは?夕飯?」


ナナミはカイルの質問に気づき、慌てて答える。


「み・みんな、いつもの場所よ!」


カイルは屋内から外に出て、集落の民が一緒になって食べる場所へ歩いていく。その後ろをついて行く二人だった。そして、合同で食べる屋内へ入っていくと、見慣れた集落の民だけではなく、ここに避難してきたあの集落の民の姿が見える。カイルが来たことでみんなの視線が集まる。それを気にせずカイルは奥の方を見ると、統領と隣に回復したと思われるシャーウーがいた。カイルは引き締めた表情でゆっくりと統領が座っている所へ歩いていく。


「忘れてないよな?」


低いトーンで統領に言った。統領は目の前に立っているカイルを見上げる。


「わかっている!話しは後だ。俺から皆に伝えることがあるから三人とも座れ!」


一方、統領の隣に座っていたシャーウーは後ろへ下がっていくカイルを見て、恐ろしいというような表情を見せていた。それに統領が気づくが、カイルは眼中に無いのか気づいていない。


「やめないか!!」


そう言い、統領は立ち上がり、屋内全体を見回す。立ち上がったことで、今度はみんなの視線が統領に集まる。


「さっきも宣言したが、皆がいる前で統領として改めて宣言しようと思う。俺はこのギョペ集落を率いる統領として、神の教えとこの地の掟をこの集落は破棄し、神やその御使いからも独立を宣言する!・・・」


そう言うと、周りがざわざわし始めた。隣にいるシャーウーは怯えている様子。統領が話しを続けるとざわざわは静まり、再び統領に注目する。


「さらにこのシチの土地も理不尽な神の教えと掟からも解放していくつもりだ!」


それを聞き、シャーウーは統領の足元にすがりつき始め、泣きながら止めようとする。


「そんなことをすれば、私達は生きられなくなる。止めてぇー!!」


同じく統領たちと同列にいた避難してきた統領とシャーウーがいた。


「こんな罰当たりな人から離れて、戻って神を敬いましょう!」

「うーん!?」


その統領はどうすべきか悩んでいる様子だった。そして、泣きついてくるシャーウーを困った表情で見るこの集落の統領。


「この集落を支えるシャーウーがいつまでも狂信的なのは困る。お前を予定より早く解放してこの負の連鎖を断ち切る!」


一方のカイルはその様子を寝っ転がりながらいぶかし気な顔をしながら統領を見ていた。

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