26.カイルVS統領

統領に対して手をかざし、気合だけで攻撃しようとするが、びくともしなかった。


「やっぱり!効かないな。こいつには」

「当然だ!お前より強い。それにお前は命を試すなと言うが、生き物を急速に進化させるには危険は避けて通れない。わかれ!」


カイルは素早く後ろに回り同じように攻撃を繰り出そうとするも、逆に自分の後ろを取られてしまう。


「わからないから、お前にこうしているんだ!!」

「俺たちはこうして争っている状況ではない。カイル!」


次は正拳で統領に直接、当てにいくが、指二本だけで防がれてしまった。その衝撃が周りに衝撃波として響く。


「だいたい、お前の血をナナミが飲むと、なんで力が得られるんだ?」


今度はカイルが統領の背後を取り、回し蹴りを喰らわせようとするが、気づけば自分がまた背後を取られていたことに気づく。


「俺は、力の素質のある人間に”天使の力”を授ける力を持っている。奴らについて行ったのなら、”エンゼビリティー”という言葉を聞いたことはあるか?」

「(アンジェちゃんたちが使っている力のことか!)」


その言葉を聞いて、すぐにピンと思い出した。その様子を見ている統領は話しを続ける。


「奴らから聞いたようだな!エンゼビリティーは神の御使いたちを護る者達が使っている力だ。だが、ナナミに与えた力は奴らのものとは少し違う」


その話しを聞きながら、お構いなく次の攻撃を繰り出すべく、今度は上へ高くジャンプして、勢いをつけて両足で蹴り倒そうとする。攻撃が当たりそうな所でわずかに後ろに避けられてしまった。避けられたことで、地面に当ってしまい、地面が大きく割れ集落まで被害を与えるところだった。それを見た統領は反応する。


「地面に当たる寸前で力の加減はしたようだが、これ以上続けて俺の集落が壊されればたまったものではない。お前に付き合ってやるから、集落から離れるぞ!」


すると、統領はその場から突然消えてしまう。カイルも険しい表情で追うように消えていった。


「ちょっと!」


ナナミは力のおかげか動きを少し捉えていたので、追いかけようとした。しかし動きがあまりにも速すぎてどこに行ったのか、結局わからなくなってしまい、異次元過ぎるレベルに唖然とするしかなかった。何事かと集落の住居からひょこっとアンが出てきて、ナナミの元へ不安気な顔で近づいてくる。


「カイルが統領どこかに行ってしまったの!」


ナナミが困った顔でアンに説明すると、アンは遠くの方の景色を見渡しカイルたちのいる方向を探し始めた。少しして、とある方向を指を指し始める。


「あっち!・・・違う!あっち!・・・いや!あっち!・・・」


指を指した方向を次々と指し直した。指し直し過ぎて手が疲れてしまい、とうとう指すのを止めたアンだった。


「もう、追いつけない!速すぎて二人の世界に入れないよぉ!」

「久しぶりにアンが話す声を聞いたような気がするけど、もう、終わるまで待つしかないわ!」


ナナミは悔しそうな顔をして、片手を握り絞めた。


「ナナ・・ミ!・・・」


その姿を見たアンはわざわざ危ない場所に行きたがるナナミに少し引いてしまった顔をした。

                ※ ※ ※


 カイルと統領は集落から数キロ離れた地点にいて、そこはこの地には珍しく草木がまばらな乾いた大地だった。


「ここなら良いだろう」

「何を企んでいるか知らないが、俺はとにかく向こうにいく!」

「人聞きの悪いことを言うな」


統領はカイルの言葉に困った顔を見せる。


「悪だくみをしているわけではない。俺は人として扱われないこのシチに生きる者たちを解放して、俺が皆を一つにまとめ上げる・・・」

「シチだって・・・・」


聞き覚えのある名称を統領の口から聞いて、眉間にしわを寄せる。


「そして、このシチを統一して、神の教えと掟から独立させる。その為に逆らえるほどの強さを持たなければならない。弱ければ、あの集落のように一方的に蹂躙され、好き放題にやられる」

「なんでお前が一つにまとめる必要がある。みんなで力を合わせてやれば良いだろう!」


それを聞くと、統領は眼光を強くした。


「救世者である俺が中心であることに意味がある。そうでなければ一つにすることは出来ない。奴らに抵抗する力を与えられるのも、俺しかいない」

「言っていることは間違っていないかもしれないけど、でも、とにかく一つにしようとするお前は気に食わねぇー!!」


カイルは統領に殴りかかろうとするが、片手で止められてしまう。その衝撃が周辺に響き渡り、砂埃を起こしてしまう。


「その程度で俺には効かん!」


空いたもう一つの片手でカイルに触れずに遠くへ弾き飛ばした。しかし、すぐに戻ってきてその勢いで、統領と同じように統領に触れずに弾き返そうとする。こうして、強力なエネルギーが衝突し合っている影響で周辺の空間は揺れた状態が続いていた。この不安定な状況はすでに統領は気づいてる。


「お前はこの地では俺に次いで強いから、まぁー、向こうでもそれなりにやれるだろうが、未完成の力でそのまま進めば、いつかは向こうの奴らに止められてしまう。そうなればお前の言う自由も失われる」


地面に倒れているカイルに笑顔で手を差し出し助けようとする。


「お前より強い俺と共に行動すれば、そうなる可能性は低い。さぁー!」


それに対して、カイルは手を振り払い、立ち上がり統領を見据える。統領からすぐに笑顔が消える。


「それでも・・・俺は自分の足で見たことのない場所を歩いて、この世界の本当の姿を見たいんだって向こうの景色をちょっと見て決めたんだ!」


普段ヘラヘラしているカイル本当に珍しく真剣な表情を見せた。


「説得力がないな。もういい!いつまでも問答をする気はない。男なら力で決着をつけば良い!俺に一発でも当てられたらお前の好きにしろ!だが、俺も手を出すぞ!」

「それですっきりだ!最後に聞くけど、ナナミに力を与えたのもお前の計画の一つか?」

「ああ!その通りだ。俺たちはいくら力があろうが身体は一つ。動きを取るには限界がある。だから力が弱くてもいないよりは役に立つから、女にしては戦う力があるナナミを試した。そして、成功してくれた!これで戦う力がある集落の民にも試し、抵抗する戦力をふやしていく」

「そうか!やっぱり気に食わねぇー。お前!」


すると、カイルは統領からすばやく距離を取り、そして、気合のようなものを入れ始める。


「はぁーーー!!おりゃーあーーー!!」


地面が地震のように震えたと思ったら、広範囲にヒビが入り、そこから一気に岩となって上に舞い上がった。


                ※ ※ ※


 カイルはその舞い上がった岩に乗り、素早く飛び渡っていくと、すでに飛び乗っていた統領が仁王立ちで立っていた。すると、いつの間にか姿が見えなくなる。


「(どこだ!)」


目で追うのではなく、周りの動き感じ取っていた。


「(こっちだ!)」


気づけば穴の空いた地面に落ちていた。よくわからないまま、統領の攻撃を受けてしまっていた。そして、舞い上がった岩が穴の空いた地面へ落ちていき、カイルはその岩に埋もれてしまった。


「早く出てこい!この程度では死ぬお前ではない」


統領は地面に着地し、カイルが埋もれている岩だらけの所に近づく。


「言っていなかったが、日が沈めば、俺の勝ちだ!」


そう埋もれている岩に向かって声をかけると、重なり合っていた岩が吹き飛ぶ。その際、岩が高速で統領にぶつかりそうになってしまうのだが、ぶつかってくる岩に手をかざすと、岩は粉々になり、砂となって地面に落ちていった。


「もういっちょ!」


カイルは間髪入れずに、いろいろな攻撃を繰り出していたが、次々と簡単に止められてしまう。


「(離れよう!)」


一旦、統領から距離を取った。追いかけてくる様子はない。


「俺はとにかくもう一度向こうに行くんだ!!」


大きい声を出し、改めて自分の意思を宣言する。それを腕を組みじっと見ている統領だったが眉を動かす。それはカイルが目を瞑り、両腕両手を上へ上げだし始めたからだ。さらに、上げた両腕を広げ、じっとする。それを感心そうに見る統領は口を開く。


「お前、”シンラ”と繋がるつもりだな!ならば、それくらい繋がれるか見せてもらうぞ」


カイルと統領がいる上空に雲がどんどん集まると、積乱雲になり、辺りが暗くなる。少し離れた所では竜巻が3つ同時に発生して、暴れ回り始めた。それが、統領のいる方へ徐々に近づいていく。普通の人間なら吹き飛ばされる風ではあるが、統領はそれを気にすることは無かった。しかし、竜巻が統領に次々と襲いかかるが、巻き込まれることもなく、無傷のまま立っている。


「消えろ!」


その一言で、一瞬で3つの竜巻が消えてしまったが、これで終わらない。上空の積乱雲から統領を目掛けて、大規模な落雷が襲う。すでにそれに気づき、統領は手を振り上げる。すると、電流は外に流れ、また無傷で済んだ。外に流した影響で周辺にあった木々は燃えてしまっている。


「初めてみるが、中々だ!だが、俺には及ばないが、やはりお前の力は俺にとって不可欠だ!」

「嫌だね!」


その一言を返し、カイルは地面に力が抜けたように倒れ込んでしまった。そのカイルに近づいていく。


「お前も俺にはまだまだということだ!俺の勝ちだ。諦めろ!」


倒れているカイルの前にしゃがみ込んでカイルを見つめ語りかけるように呟いた。統領がカイルを持ち上げたその瞬間のこと、カイルは目を開き統領の顔面を一発殴る。


「勝手に負けにするなぁーーー!!」


顔面にしっかりとパンチが入っていた。

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