25.ギョペ集落の独立宣言

カイルはナナミから一連の話しを聞いて憤慨していた。


「あいつ!俺のいない所で勝手にナナミの命を危険にぃー!」

「(カイルがこんなに怒るなんて、初めてみたかも!)」


ナナミは誤解がないようにカイルに説明する。


「強要されたわけじゃない。自分の意思で決めたの。統領は悪くないわ!」

「あいつはおそらくナナミを実験台にしたんだ」


ナナミは統領をフォローするが、ほとんど変わる様子はない。


「もし、ナナミが死んでいたら、俺の命を使ってでも、あいつを殺していたよ!」


カイルが初めて殺気を剥き出しにした。周りにいた動物達もそれを察知して、遠くへ逃げてしまっている。そして、二人は自動車並みのスピードで走っていた。カイルであればさらにスピードが出せるが、そこはナナミに合わせている。ここまでスピードを出して走っているのは統領に早く聞きたいことがあったからだった。集落まで帰る途中も、カイルの殺気の影響か周りの空気が荒れていている状態。二人は最初同じペースで走っていたが段々とカイルの方が速くなり、距離の差が出始める。


「(人を超える力を持ってもカイルに比べればまだまだね!)」


実力を差を感じるナナミ。カイルはすでに地平線の彼方へと行ってしまい、姿が見えなくなる。しかし、カイルの声が向こうから聞こえて来る。


「ナナミィーー!」


すると、地平線の彼方からナナミのいる方に引き返してくる姿が見えると、これがあっという間に戻ってきた。


「ごめん!あいつのことで夢中だった。俺の背中に乗ってくれ」

「どうして?」

「自分への罰さ!」


カイルの少年の身体にナナミの大人の身体が乗ったが、カイルにとっては全然問題ではない。オンブすると、ナナミを途中で抑えないようにしっかりと抑えると、カイルはものすごいスピードで走り始める。それは飛行機に匹敵する速さだった。


「(落ちたらたぶん大怪我か死ぬわね!)」


そして、地平線の彼方の到達すると、さらに向こうの地平線の向こうにはカイル達が暮らしている集落の姿が見える。


「ナナミの胸が心地よくて走りやすかった!」

「それスケベ!」

「ナナミの世界の言葉だな!」


その言葉の意味をカイルに説明する。それを聞いてカイルは笑顔に変わる。


「やっぱり面白いなぁー。ナナミの世界は!」


しかし、周りの空気は変わらず荒れたままだった。


                ※ ※ ※


 集落の前まで到着すると、入口に巫女服を着ているシャーウーがこちらを睨みつけながら立ち塞がっていた。カイルがナナミを背中から降ろし、入口にいるシャーウーに向かい合う。カイルの表情は厳しいものだった。まず、シャーウが口を開く。


「話しは聞かせてもらったわ!向こうで何してきたのぉーーー!!」


シャーウーはいきなり発狂したかのように言ったが、カイルは厳しかった表情を一旦緩めた。


「向こうは俺のみたことのないものがいっぱいあって、面白かった!」


カイルのその態度がシャーウーをさらに刺激してしまう。


「ふざけるんじゃないのぉーーー!!神の御使い様の家畜になったお前がどうしてここに戻ってこれたの?」

「ガリフ君が約束を破ったからさ!」

「ガリフって神の御使い様のお名前じゃあ・・・。とにかく逃げ出すなんて、何てことをしてくれたのぉーーー!!」


カイルに対して怒鳴り散らした。その声は集落の方まで響き渡っていて、それにより、住居から気になり出てくる者もいた。


「ガリフ君は俺を殺そうとして、それだけじゃなくてあの集落にいたみんなを殺そうとしたんだ!」


「神の御使い様のお名前を呼ぶのはやめなさい!この地にいる私たちは許されてないの。それに、殺されるなら大人しく殺されれば良かったの。拒むなんてとんでもない!」

「はぁー!」


カイルは反論せず溜息をついた。そして、シャーウーの後ろからあの集落のシャーウーが現れ、不安な表情で身体がブルブル震えている。


「逃げてしまってどうしよう!あそこに残り大人しく罰を受けて、罪を償うべきだったんだわ!神の御使い様の怒りからは逃れられない。この集落も私たちを匿ってしまったから災いが降りかかってしまうわ。申し訳ないことをした」


シャーウーを後ろにいるあの集落のシャーウーの方を振り向く。


「こうなったら仕方ない。私たちの統領がみんなを護ってくれるはずよ!」


表情を緩め、安心させようとした。


「ところでさぁー。統領はどこにいる?」


カイルは自分の頭に両手を組みながら、二人の話しに興味なさげな感じで聞いた。それを見て、再び怒り表情に戻り、発狂し始める。


「他人事のように見てるんじゃいのぉーー!!この元凶を作ったのはお前!子供とはいえ責任をとってここから出ていきなさい!!」

「統領に用を済ませたら出ていくつもりさぁー!だから・・・」

「いい加減にしなさい!出ていけぇーーー!!」


カイルに人差し指と中指をかざすと、言霊としてはその言葉を放った。強制力があるのでまともに受ければ、その言葉の通りになってしまう。


「俺とやるの。おばさん!」


そう言うと、目に見えざる言霊をかわし瞬間的にシャーウーと距離を詰める。


「どけぇ!俺はあいつと話しがあるんだ」


カイルは怒気を込めて威圧した。


「統領である俺を抜きに勝手決めるなっ!!」


男の声が聞こえると、それはこの集落の統領で、こちらに向かって腕を組みながら歩いてきた。


「勝手なのはどっちだよぉーーー!!」


それに対してカイルは自らの怒りを爆発させて威圧を統領に放ったが、それを受けても顔色は変わらず落ち着いていた。カイルの後ろにいたナナミも当然、割って入れる状況ではなく、ただ呆然と見つめるだけだった。


「ナナミから聞いたようだな。俺はここの統領で、皆を救う救世者だ。神の御使いたちに備えるのにナナミに力を与えたのは必要なことだった。それに、これからは戦力は一人でも欲しい。カイルを追放することなどありえん!」


そう言い、シャーウーを見る統領。シャーウーは両手で頭を抱え始める。


「何を行っているのぉーーー!!」


狂ったように叫んだ。それを見た統領は目を細める。


「お前らの役割は一旦終わりだ!」


腕を上げ、シャーウーともう一人のシャーウーを見据え、親指と中指で指を鳴らすと二人は意識を失くし、地面に倒れる。すると、どこからかアンが不安な様子で現れ、他の集落の民と共に集落の中へ運び込んでいく。


「カイル!」


アンはカイルの様子を見ながら心配し倒れた二人と一緒に住居の中へ入っていった。


「お前は向こうの様子を見てきたのだろう?」

「ああ!だから、教えや掟に縛られる必要はないとわかったから、俺は自分の足で今度はあの山を超えて向こうに行くんだ!」

「ダメだ!お前は俺と一緒に行動してもらう」


ナナミがその言葉が気になり、恐る恐る前に出てくる。


「それはどういうことですか?」

「ナナミ!」


カイルがナナミを見て、呟いた。


「それは今から言う!このギョペ集落は神の教えや掟を破棄して、奴らから独立を宣言する!」


それを聞いていた集落の民はそわそわし、動揺し始める。


「それって!・・・」


ナナミはその宣言がどういうことなのか統領の口から聞いて、わかってしまった。


「今はそんなことじゃないんだよ!ナナミは後ろに下がっていて!」


カイルは統領に改めて向き、睨みつける。


「統領である俺を睨みつけるとは、生意気だ!」

「うるさい!統領だからって、人の命を試すなぁー!」


カイルは瞬間的に距離を詰め、統領に攻撃を仕掛けようとした。

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