24.秘密の場所とナナミの新たな力

「彼らの受け入れを頼んだぞ!俺はナナミと少し出かけてくる」


統領は他所の集落の民の受け入れをシャーウーやこの集落の民に任せ、ナナミと一緒に集落の外に出た。


「あちらの統領さんとお話しなくて良いのですか?」


ナナミは統領の後ろについていきながら、聞いた。


「それは、後でも良い!今はお前が力を与える必要がある」


統領とナナミは、少し歩いて集落から少し離れた雑草に覆われている小山に着いた。


「ここは、歴代統領のお墓。どうしてここに?」


それを聞かれ、統領はナナミの方を向く。


「ここにはなぁー。皆に知らせていない秘密がある。歴代統領の墓であることは表のこと。こっちだ!」


小山を登っていく二人。頂上につくと、複数の大きな石が置かれている。歴代統領達の墓石だった。そして、頂上の真ん中まで歩いていくと、大きな石板が埋まっている。統領はそれを眺める。


「奴らが乗っているものと似ている空飛ぶ乗り物がこの下に埋まっている。その入口がここだ」


すると、統領は石板を動かし始める。


「そんなことして良いのですか?」


ナナミはびっくりして、歴代統領達が眠っているのにいじってしまって大丈夫なのかめずらしく心配した。しかし、統領はフッと笑みを浮かべる。


「心配するな!ここには何もない」


重そうな石板をどかすと、鉄板のようなものが見えた。統領が鉄板を触って、いじくっていると、鉄板に亀裂が走り、それが四角の線になると、ハッチとして開き始め、中が見えるようになった。中は真っ暗闇だったが、突然、明かりがつき始める。


「こんなものがここに・・・」


ナナミが不思議そうな顔で呟いていると、統領が先に中へ入っていく。


「ナナミ!」


呼ばれたので、ナナミも中へ入っていった。


「おまえはやはりそんなに驚いていないようだな。お前の世界でもあったようだな!」


「いや、ここまでのものは・・・いや、あったかな?」


元の世界を離れて時間が経っていたので記憶が曖昧になっている。そして、とある一室に案内された。


「冷蔵庫?」


冷蔵庫のようなものがおかれていて、統領は普通に開け、赤い液体の入った大き目の瓶を取り出す。


「それは誰の血ですか?」


それを見て、警戒心を剥き出しにした。それに気づく統領はフォローする。


「安心しろ!俺の血だ!これを見て、飲み物と思わないとは、やはりナナミは察しが早くて助かる」


「これを私が飲めば良いと?」

「そうだ!これを飲んで、身体に合えば、人を超えた力を手にすることが出来る」


単なる統領ではないと思い、それを聞いて見るナナミ。


「あなたは何者ですか?」


「今は虐げられている人々を救いたい集落の統領だよ!」


ナナミは血の入った大き目の瓶を見ながら、統領に聞く。


「身体に合えばと言いましたが、合わなかったらどうなるんですか?」

「死ぬ!」


統領はナナミを見据えそう言った。


              ※ ※ ※


場面は戻り、カイルは肉を食べ終わり、その辺に寝転がっていた。


「こっちもあっちもシャーウーってのは一方的な神に狂信的だから困る。ナナミもナナミだよ!みんなを夜に歩かせるなんてひどいぞ!犠牲を出してまで」


ナナミの話しを聞いて、鼻をほじりながら感想を言っている。


「元の世界での癖が出ちゃったの」


反省している様子だった。それを見るカイルは話しを続ける。


「なるほど」


すると、カイルの表情が引き締まる。


「それにしても、あいつ!俺の知らないところでそんな隠しごとしていたか!」


それを言うと、かなり珍しく怒りの表情を見せる。ナナミも珍しいので怖がりつつも話しを続ける。場面は再び。失敗すれば、死ぬと言われ動揺を見せるナナミに説得を続けていく統領。


「この地に縛られ、虐げられている皆を解放するにはナナミの力が必要だ。それでカイルの力になってくれないか?もしかすれば、元の世界に戻るための大きな力となるかもしれない」

「死んで転生したわけではないですが、この世界に来て、すぐに戻れない時点で向こうでは死んだようなもので。だから、護る力が手に入るのなら賭けてみようと思います」


それを聞いて、統領は笑顔になると、この部屋の棚からステンレスで出来た器を持ってくる。当然、この地ではあり得ないものだった。


「(一体ここはなんなの!)」


ナナミの中でこの世界に対する謎は深まっていく。そして、統領は大きな瓶に入っている自分の血を器へゆっくりと流し込む。


「さぁー!受け取れ」


血の入った器を渡され、それをナナミは両手で受け取った。血には慣れているアヤナだったが、さすがに女性なので抵抗を持ってしまう。しかし、力を得るために通過儀礼だと心の整理をしたが、単純な疑問が浮かんできて、それを口に出す。


「最後というか。・・・死んだら最後になってしまいますが、飲む前に質問していいですか?」

「どうした?」


不思議そうな顔をして、ナナミを見る統領は片足のつま先をトントンさせていた。


「どうして、統領の血を飲むと、人を超えた力を手に入れられるのですか?」


それを聞くと、つま先をトントンするのを止め、口を開く。


「秘密にしてきたが、俺は神に近い力を持っている。条件さえ合えば人に力を与えることが出来る!」

「カイルにもそうしたのですか?」

「あいつは違う!元々だ。さぁー!」


ナナミが持っている器を飲むように催促する統領。疑問に一応答えてくれたので、器を口に運びゴクゴクと飲んでいく。それを見て、表情を緩める統領だった。そして、器の中の血を全て飲み干し、しばらくするとナナミに異変が起こる。


「痛い!苦しい!」


身体が痛くなると、心臓も苦しくなり、器を下に落とし、しゃがみ込んでしまった。統領はその様子を冷静に見ている。


「力を得たいという強い意思を持ち続けろ!」


腕を組み声をかける。しかし、ナナミの様子はさらに悪化する。今度は息切れを起こし始める。


「(このままだと本当に死ぬかも!でも、力を得て理不尽からみんなを護りたい。でも・・・)」


ナナミの苦しい状況は変わらず、あまりの苦しさに暴れ回るナナミだった。それを余裕で抑え込んでしまっている統領。さらに、頭も激痛が走り、意識を失いそうになる。


「(それでも私は・・・)」


その瞬間だった。身体のあちらこちらにあった痛みと苦しさは嘘のようにきれいさっぱり無くなった。


「よくやった!ナナミ!お前は人を超え、天使の力に選ばれた」

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