23.ナナミの提案

 カイルとナナミは朝になってから、集落を出て、丘を越え、しばらく歩いて、昼頃にはカイル達が暮らすギョペの集落まで半分の地点に到達していた。そこで、休憩と昼飯を食べている。昼飯はあの集落で倒した動物を今度はナナミがサバイバルナイフで上手に解体し、その肉を焼いて持ってきていた。昼飯を食べている時に、カイルがナナミに聞く。


「あの集落、俺が帰ってきた時誰もいないんだ。みんなどこに行ったんだ?」

「そうね。話さなきゃね!帰ったら話すつもりだったけど。カイルがこっちにいなかった間のことを今から話すわ!」


ナナミは食いかけの肉を食べると、大きな葉っぱで口をふいてから、今までの話しを始める。


「カイルがあいつらと行ってしまった後、私はあの人たちに私達の集落に来て一緒になることを提案したの。どっちにしろ今回のお使いはそれが目的だった。覚えているでしょう?」


カイルは空を向いて思い出そうとする。その時点でナナミは期待していなかった。


「忘れてた!ナナミが来て正解だったな」


能天気にすっかり忘れていたことを笑顔でナナミに言った。


「やっぱり!だけど、あの集落の統領さんに一回断られたの。こんな状況でも住み慣れた土地からは離れられないって」

「それで、終わりじゃないだろ?」


カイルは肉にかじりつきながらナナミの話しを聞いている。


「もちろん!危機迫るように言ったわ・・・」


場面はその時のことに移った。ナナミとあの集落の統領とシャーウーが向かい合っている。その他は犠牲になった人々を盛り土で埋葬して、傷ついている人々はアンが言霊でイヤシを与え、回復を早めようと手を施していた。


「今度、奴らが来れば、あなたたちは確実に皆殺しにされます!今回は犠牲は出ましたがカイルに助けられたのです。次はありません。この集落は滅ぼされます!」


厳しい表情で語気を強めて、訴えかけた。それを手当てをしながら見ていたアンは、怖がってしまう。この集落のシャーウーが統領より前に出てくる。


「そうなっても、それが私達の運命!神への罪滅ぼしになるならそれでも良いの」

「(シャーウーってどこもこんな感じなの?うちの集落と考えていることが一緒)」


ナナミはそう思った。このやり取りを聞いていたこの集落の民からは離れという意見が出ると、それに賛成した者が多数になるが、シャーウーはその集落の民を睨みつけ、感情を爆発させる。それを怖がる者もいた。


「何を言っているのかわかっているの?神の教えと掟に逆らうことは許されない。あなたたちはシャーウーである私の言う事に従いなさい!!」


しかし、若い集落の民の男からは本音が出る。


「これから先、そんなことで大事な人たちや愛おしい人を失っていくのは嫌です。シャーウー様!」

「いろいろ意見はあるが、最後はこの集落の統領である私が決めさせてもらう!」


この集落の統領が大きな声で言うと、ざわざわと聞こえてくる声が静まる。そして、統領は声を静めて、ナナミに尋ねる。


「そちらの集落の統領はどういう方だ!」

「強く頼もしい人であることは間違いありません!」


その一言を聞いて、思い切った決断をする。


「そうか!私達は一旦移動する。そして、彼女らの統領と話しをしてそこで改めて合流するか決めることにする」


すると、シャーウーは取り乱し、さらに発狂し始めた。


「私達は何があろうともここにいなければならないの。従わないなら・・・・」


言霊で集落の民を従わせようとすると、ナナミはショットガンを取り出し、シャーウーに銃口を向ける。


「統領さんとこの集落の人たちの意思を尊重するべきだと思います!」

「乱暴だなぁー!」


場面は一旦戻り、そこまで話しを聞いたカイルは焼けた肉をまだ食べていた。そして、また戻る。


「よそ者が口をだすな!動くなぁー!」


この集落のシャーウーはナナミが引き金を引かないように人差し指を動かせないように言霊で縛った。


「やめるんだ!彼女の言う通りだ。尊重してくれ」


統領の言葉で大人しくなったシャーウーはナナミを言霊で縛るのを止める。そして、統領は移動するために準備を急ぐように指示した。そして、集落を出発し、夜通しでギョペ集落を目指そうとする。


「今日じゃないとダメなのか?」


統領がふと疑問に思ったことをナナミに聞いてみた。


「ええ!疲れているのはわかりますが、なるべく急がないと、どうなるかわからないのです。夜通しで行きますよ!」


ナナミはここで元の世界での自衛官として気質が出てしまった。夜通しの移動が始まり、脱落者も出たが、アンも言霊のケアーのおかげかほとんどの人々は朝頃のギョペ集落に到達する。統領には驚かれるが「よくやった!」と褒められる。


「今までのことをお話します。カイルは行ってしまいました!」


すると、統領はナナミが今まで見たことのない厳しい表情をしながら、巨大な山脈を見つめ、ナナミから向こうの集落での出来事を全て聞いた。


「動くべき時が来たようだ!ナナミ!お前には力を授けたい!」

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