21.爆発と帰還
神の逆鱗と呼ばれるミサイルで遥か上空を飛んでいて、文明の壁が少し向こうの先に見える。そのもっと先には、あの巨大山脈があるのが見えた。
「!?」
飛び立った方向から強い気配を感じたので、カイルはミサイルに掴まりながらも、気になったので、後ろの方を見た。
「面白そうだ。いつか会えるといいなぁー!」
そして、文明の壁の上空を通過する。カイルは下をのぞいて景色を見る。壁を挟んで、通過前と通過先の景色の差がはっきりし過ぎているのが印象的だった。通過前は高い建物がある近代的な景色で通過先はレンガ造りを中心とした中世的な景色が広がっている。
「壁だけでこんなに違うなんて。面白いなぁー。こっちは」
ミサイルは高速で飛んでいるので、少しして、巨大な山脈の上空に差し掛かった。下に見える山脈をのぞくと、雲や霧に覆われてよく見えなかった。
「なんとなくだけど、入ることが許されないほどの山とは思えないんだ。でも、あの中には何があるんだろうなぁー!俺は自分の足でこの山を越えて、こっちに戻ってきてやる」
やがて、山脈の上空を通過すると、その先に平地が広がっているのが見える。シチと向こうでは呼ばれているカイル達が暮らす土地に帰ってきた。
「やっぱりこっちもいいけど、これからどうしょう?こいつが落ちたら、みんな死んじゃうらしいから、止めないと!その前に・・・」
飛んでいるミサイルに仁王立ちすると、服を脱いで上半身裸になり、脱いだ服を身体に巻きつけると、両手を上げ、こぶしを作る。
「もどってきたぞぉーーー!!」
ミサイルの上で、能天気に雄叫びを上げるカイルは気持ちよさそうに大気を感じていた。すると、お使いにいった集落が見えてくると、ミサイルが下降し始め、さらに加速する。
「やばいよぉー!でも、これしかない。ここでぶっ壊す!」
そういうと、カイルはミサイルに向かって軽くパンチすると、亀裂が入り、そこから光が漏れ出し、大爆発を起こした。カイルも当然、巻き込まれてしまう。爆発の波動は遠くまで響き渡った。そして、ミサイルの破片が集落の方に落ちていく。
「みんな逃げろぉー!」
下に落ちていくカイルは集落に向かって大声で叫ぶが、破片が落ちていく集落に反応は見られなかった。
「(あれぇー!?)」
なぜ、反応がないか不思議に思うカイルだったが、一方、カイルの下半身のズボンは爆発の影響か消失してしまっていた。集落に落ちていったミサイルの破片は集落の屋根に穴を空けたり、大きい破片は家をそのまま潰してしまったりしている。カイルはちょうど、集落の祭壇のある場所に落下して、祭壇を壊してしまった。
「気づかなかった。やっちゃったぁー!でも、祭壇なんてもう関係ないから、いいか!」
そのまま壊した祭壇を放置して、集落の中へ歩いていくと、人気が感じられず、目の前にあったのは盛り土で作られたお墓が並んでいた。
※ ※ ※
場面は変わり、カイル達が暮らしてるギョペ集落。集落の中にある住居の屋根の上からこの集落統領が腕を組み巨大な山脈を見据えていた。そうしていると、シャーウーが統領に近づいてくる。
「神の御使い様に連れていかれたあの子はもうダメ。諦めましょう!」
統領はそれを聞き、目を細める。
「俺はあいつが死んでいるようには思えない」
「あの子のことより、神の御使い様を怒らせてしまったことの方が心配よ。ここに罰を下しにくるかもしれないわ!」
少し怯えた顔を見せるシャーウーは話しを続ける。
「そうなれば、アンを差し出さなければならなくなるのよ!」
「奴らのそんな好き勝手は、俺の集落ではさせない!」
「いくらあなたでも神の御使い様に逆らえば、保護した集落の民の二の舞になりかねない!」
シャーウーの話しはまだ続く。統領は何かを考えている様子で、ずっと山脈の方を見据えていた。
「彼らの匿っていることもまずいのよ。神の御使い様に知られたら、私達は皆殺しにされ、この集落が消されてしまうわ!」
統領は腕を組むのを止めて、シャーウーに身体を向ける。
「だから、俺の計画を実行する為に、カイルが必要なんだ」
すると、統領は突然、山脈の方向を向きだした。
「何か来るな!」
「そう・・・ね!」
山脈の方から気配を感じたようで、遅れてシャーウーは気づいた。
「カイルか?」
気配を探り、身に覚えがあったので、カイルだとわかった。そして、腕を組み少し考えてから、ちょうど下にいた男の集落の民に声をかける。
「すぐにナナミを呼んで来い!」
「わかった。統領」
その男は駆け足でナナミを探しにいった。
「何か乗ってない?この地に伝わる伝承で見覚えがある。・・・・もしかしてあれは神罰じゃないの」
シャーウーは顔を歪ませ、怯えが強くなる。
「落ち着け!こっちに来るなら、俺が止めてやる!」
「いや!これ以上、逆らわないで、罰を受け入れて、私達は罪を償うべきなのよ!」
統領は怒りの表情を見せる。
「冗談じゃない!!だが、こっちには来ないようだな」
「ひとまず一安心だわ!」
「だが、あの方向は彼らの集落のある辺りだ。住処が消えるかもしれないな!」
統領は保護した集落の民達が集まって、話している場所を見た。シャーウーがそれを聞いてうつむいてしまう。そして、飛来物は落ちる前に爆発を起こした。それを目にした統領とシャーウーは目を見開く。
「カイルがやったようだ」
「神の創造物になんてことを!」
「どこまで、お前は・・・・」
シャーウーの信仰深さに呆れる統領。
「統領さん!」
ナナミの声だった。一発でジャンプして、この屋根の上に上がってきて、統領に対して敬礼する。シャーウーはナナミをいぶかしげに見る。
「何でしょうか?」
「俺が与えた力にだいぶ慣れてきたようだな。それより、カイルが生きて戻ってきた!」
それを聞いて、驚くナナミ。
「本当ですか!?」
ナナミもカイルが戻ってくるのは少し諦め気味だった。
「ああ!間違いないだろう。だから、あの集落にいって、確かめてきて欲しい。カイルがいるなら連れて帰ってきてくれ!」
「了解しました!」
ナナミは統領に敬礼すると、屋根から降りていった。
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