20.ジーナのケジメと謎の声
神の逆鱗と呼ばれるミサイルがシチの方向へ飛んでいくのを眺めているジーナいて、その横に立って同じように眺めているバレスがいた。
「あそこにいって、あの少年にあったことが運の尽きだったな」
バレスが遠くへ飛んでいくミサイルを眺めながら呟いた。
「獣ごときに負けるなんて恥でしかない。そんな私を私は許せない。もう、アンジェ様にはお仕えすることが出来なくなってしまった」
バレスがジーナの方を向く。
「理由はなんであれ、俺たちは大罪を犯した獣を見逃し、挽回のチャンスを貰いながらも生かすことが出来なかった。俺たちは償いとして死を覚悟しなければならない」
見えなくなっていくミサイルを見るのを止め、顔を下に向けるジーナは今までと違う力の無い声を出す。
「バレス殿!悔しいですが、処罰される前にお二人に恥をかかせてしまった護衛騎士として、私はケジメをつけようと思います!」
ジーナはそう言うと、自分の装着している騎士の鎧を脱ぎ始め、その下に着ていた下着も脱いで豊満な上半身があらわとなった。
「ジーナ!お前・・・。そうだな。お前の言う通りそれが騎士としての身の処し方かもしれない」
バレスも同じく、鎧を脱ぎ始め、下着を脱ぐと、筋肉質な上半身の裸の姿となった。そして、それぞれ自分の剣を取り、剣を両手で持ち自分の胸に刃を向ける。ジーナは雲がほとんどない青空を天を仰ぐように見つめる。
「(私は、弱かった!)」
ジーナは目を瞑り意を決して、自分に向けている刃を一気に自分へ突き刺そうとする。
「妾の護衛騎士が妾の許しもなく、勝手に死ぬこと許されない。何様なの!ジーナ!」
それはアンジェの声で遠くの建物から聞こえた。
「その通り!」
男の声が聞こえてくる。それはバレスでもガリフでも無かった。ジーナが自分に向けた刃はその声で間一髪止まり、刃の先端があたったことで、軽い血がにじみ出る程度だった。
「ふぅー!良かった」
一方、バレスはジーナが逝ってからやるつもりでいたようだ。
「もしかして、その見えないお姿はケルビムの聖騎士長様でございますか?」
姿や形のない謎の男の声に対して話しかけるジーナ。
「そうだ!」
それを聞くと、ジーナとバレスは剣を降ろし、鞘に収めると、片膝をついた。
「どこを向いている!ここだ」
「申し訳ありません!」
二人が慌てて膝をつく向きを変える。
「違う!そっちじゃない」
ジーナとバレスは姿・形の見えない相手に困惑するしかなかった。
「もう、どっちでもいい!お前たちのクラスでは存在がわからないのはしょうがないか!強い力を得た者の辛いところだよ。やっぱり肉体だな」
頭を下げることしか出来ないジーナとバレス。そして、バレスが話しを進めようとする。
「騎士失格の我々はどうすれば良いのですか?」
「今回の二人のことは把握している。お前たちでは対処範囲を超えている相手では無かったからどうしようもない。僕の口添えで死罪は無くなるが、それなりの厳しい処分が下ることになるだろう」
姿・形の見えない相手に目を見開き二人は顔を上げる。どこにいるかわからないのにもかかわらず。
「ありがとうございます!感謝の言葉しかありません。しかし、どうしてこんな愚かな私たちに聖騎士長様ほどのお方がそんなことをして下さるのですか?」
「そうだな!気まぐれと後、真面目で凛々しい子が死んでしまうのはもったいないからかな」
ジーナは上位の騎士から聞くことがないびっくりする言葉を聞き、頭を再び下げた。
「私たちのような下等な者にそのようなことはおっしゃらないでください!」
「なら、下等な者が聖騎士長の僕に指図いいと?」
ジーナたちに問いかける謎の男の声。それを指摘され、さらに頭を下げる。
「無礼をお許しください。聖騎士長!」
得体の知れない存在に謝るジーナだった。
「もういい!今回の件はあの少年の存在によるイレギュラーが全ての原因だ。この件は僕が一旦預かり、減刑も含めて収束させるように働きかける」
すると、建物の方から、四輪自動車が音を立て、こちらに近づいてくる。
「軍法会議へのお迎えがきたようだ。僕はもういく!死ぬなよ!」
「ありがとうございます。感謝しかありません。聖騎士長様!」
「うん!片付いたら、しばらく休みを取ろう!」
謎の男の声は独り言を呟き、その場からいなくなった。しかし、二人が頭を下げている方向は全然違っていて、それを見た聖騎士長と呼ばれた謎の存在は「やれやれ!」と思った。
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