18.軍港と再戦

 カイルの乗っている揚陸艦は、セイクリッドアーミーのとある軍港に到着し、軍港にいる兵士に出迎えられ、まず聖人であるガリフやアンジェが先に降りていく。それに当然、同行しているジーナとバレスがいた。その後、次々と揚陸艦の騎士や兵士が軍港に降りていくが、その中に、カイルも紛れ込んでいる。軍港に降り立つと新しい感覚を体感した。それは舗装されたコンクリートで出来た地面だった。そして、周りはコンクリートの建物が並んでいるのが見える。軍港の施設であるが、カイルはそんなことはわからない。


「山の向こうはこんな風になっていたんだなぁー!俺たちは今まで狭い世界を強制されていたんだなぁー。あんな教えのおかげで」


向こうでは見られなかった景色に感激するが、同時に今まで神の教えや掟に縛られていたことに珍しく腹を立てていた。しかし、ガリフの消滅計画を阻止しなければならないので、早速その辺にいる兵士にその場所を聞いて回る。


「ありがとうな!」


カイルは軍港の男の兵士からミサイルの発射場所を聞いて、笑顔でお礼を言うと、その場所に向けて、高速で走っていく。


「走りやすいけど。でも、向こうの方が気持ちいい!」


舗装されているので安定して走れているが、カイルにとって土を踏む感触の方がどっちかというと好みのようだ。


「ここかな!?」


聞いた方向へ走り、林の中を抜けると、林に囲まれただだっ広い敷地に出て、遠くには建物が見える。


「そこの兵士!この敷地から離れなさい!!」


遠くの建物の方向から声が聞こえてくる。


「どこだぁー?」


声が聞こえてきたので、その方向を向くが、人が近くにいないので訳が分からないので、広い敷地の探索を始める。


「この敷地から出ていけ!」


再び、建物の方から声が聞こえてくるが、近くに誰もいないので返事がしようもないので、無視する。その後も数回声が聞こえてくるが、カイルは探索に夢中になっていたので、声が届かなくなっていた。そして、しびれを切らせ、建物の方から四輪の自動車に乗って4人の兵士がやってくる。


「聞いていないのか?獣達を駆除するためにミサイルが発射されるんだぞ!!ここで何してる?何回も警告しているのに、耳が悪いのか?」


その兵士は残り三人の兵士の隊長でイライラしている様子だった。


「そういうことなら、ここで正解だな。びっくりしたんだ。声だけ聞こえてくるから」


カイルは兵士の話しをあまり聞いていない。


「もういい!お前を命令違反で連行する。こっちにこい!」


残りの3人の兵士がカイルを拘束するために取り押さえようとするが、ひらりと跳ねのけられてしまう。


「やめてくれよ!暇じゃないんだ」

「何をしているのかわかっているのか?」

「知らん!俺は・・・」


そんなやり取りをしていると、イライラしている兵士の隊長の耳についているインカムに通信が入り、命令を受けているようだった。


「はい!了解しました。バカはもういい!撤収するぞ」

「了解!」


すると、兵士の隊長が、残りの兵士に命じると、取り押さえようとするのを止めて、すぐに四輪自動車に乗り込み、建物のある方へ帰ろうとする。カイルは急に態度が変わったのでその落差に拍子抜けしてしまう。


「どうしちゃったの?」


気になるので、それを知るべく、走っていこうとする四輪車を追い、前に入り、人差し指で走行を止めた。タイヤだけが回っている状態が続く。


「そのミサイルはここのどこにある?」

「俺たちと同じレベルのくせになぜ・・・?そんなことより」


カイルの質問を聞かず、四輪車を後退させ、戻るために逃げようとするが、カイルからは逃れられず、また同じように止められてしまう。


「邪魔だ!!」


兵士の隊長がイライラしてそういうと、兵士は一斉にライフル銃を取り出し、銃口をカイルに向けた。


「へぇー!ナナミのやつより大きいなぁー」


いつものことながら銃を向けられていても能天気な表情をしていた。


「どけないと、ハチの巣にしてやる!!」

「人に向けたら危ないよ。俺は場所を聞いているだけなんだ!」


それでも、銃口は向けられたままで、引き金も兵士の隊長の合図でいつでも引ける状態だった。


「お前の質問自体に答える命令を受けていないから答えられない。とにかく撃たれたくなければ、すぐにここから出ていけ!」

「話しを聞いてくれぇーーー!!」


カイルは、四輪自動車を片手でひっくり返した。兵士の隊長はまたインカムで連絡をとっている。


「了解しました。実行します!」


ひっくり返ったことで、地面に倒れた4人の兵士は、立ち上がり、銃を構えた。


「聖人様の命令を妨害した重罪によりお前を射殺する!!」

「聖人ってガリフ君のことだろ!そうだ!俺はガリフ君のやることを帰るついでに妨害しに来たんだ!」


カイルは胸を張って正々堂々と言った。


「撃てぇーーー!」


4人の兵士の銃口から銃弾が隊長の兵士のかけ声と共に一斉に発射された。それぞれ一発ではなく連射だった。本来ならば絶対絶命であるが、カイルの場合はそれを目に見えぬ速さで弾いてしまう。それが弾切れまで続いた。結局、射殺するどころかカイルの身体に傷一つつけることも出来なかった。さすがのカイルは四人の兵士に呆れてしまう。


「はぁー!もう終わりなら俺の聞きたいことに答えてくれないか?」


兵士の隊長に向けて言うのだが、聞いておらず、またインカムで連絡をしている様子。


「申し訳ありません。殺すことが出来ませんでした」

「もういい!!」


インカムから大きい声が漏れ出て聞こえてくる。インカムの連絡が切られてしまったようだ。兵士の隊長とその他の兵士は表情を強張らせている。


「おーい!」


カイルが話しを聞こうと声をかけるが、こちらに反応をみせない。話しを聞けないので困っていると、建物の方から何かが来るのを感じた。


「ジーナちゃんともう一人・・・誰だっけ!?」


カイルには及ばないが、速いスピードで接近してくる。近づいてくる二人に対して、能天気に手を振った。こちらに来たジーナとバレスは殺気が今までと違い満ち溢れている。


「ジーナ騎士長!バレス騎士長!手に負えません。助けて下さい!」


兵士達は表情を強張らせながらも、二人に泣きつこうとするも、跳ねのけられる。


「勇猛果敢わが軍の兵士が泣くとは情けない!!いい恥晒しだ」


ジーナが見捨てるような冷酷な目で兵士たちに言うと、バレスと共に兵士たちの首を片手で掴む。カイルはその様子を鼻をほじりながら呑気に見つめていた。


「お前たち喜ぶがいい!ガリフ様から死を賜った。これでお前たちの失態を償うことが出来る。名誉なことだ!」


それを聞くと、兵士たちは青ざめるのを通り越し、白くなってしまった。


「お許しくださいーーー!!お助けくださいーーー!!どうかぁーーー!!」


兵士たちは絶叫するが首はつかまれたまま、変わることはない。


「我々はもう許している。だから、安心して死ぬがいい!」


ジーナは無表情で告げた。


「(ジーナちゃん!)」


さすがのカイルも呑気に鼻をほじるのを止めた。ジーナは両手で掴んでいる二人の兵士を絞め殺した。その間、絞められている二人の兵士はもがき苦しんでいるが、それはやがて無くなった。


「バレス殿!ご主君の命令ですよ」


ジーナがそう言うと、逃げようとする残りの二人をバレスは追う。


「我が主君の命令を遂行するぅーーー!!」


雄叫びを上げ、逃げる二人を後ろから剣で斬り殺した。ジーナは掴んでいた二人の兵士をその辺に投げ捨てる。


「ジーナちゃん!何かあったの?今回はひどいなぁー!」


ジーナではなく、返り血が顔についているバレスが答える。


「これは我らの失態の償いと忠誠を示す最後のチャンスをガリフ様から頂いた。その条件にまずこの四人を処分する必要があった。それと・・・」


そう言いバレスはカイルを見るが、続きを話そうとすると、ジーナが付け加えるように入ってくる。


「獣をバレス殿と一緒に始末し、”聖なる逆鱗”を無事発射させ、罪深い獣達の殺処分を成功させることだ!」

「それを邪魔しに来たんだよ。俺はさぁー!」


カイルから穏やかな雰囲気が無くなると、二人を見据え始める。


「警告したはずだ。邪魔をするなら容赦なく殺す!愚かなこいつらのように死ね」

ジーナは自分の剣を抜き、構えた。

「力の差があるから戦いたくないけど、しょうがない。どうしても俺に死んでほしいなら、死ぬ気でかかってこい!!俺は死ぬ自信は持っていないけどな!」


カイルは適当に構え、余裕の表情を見せていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る