17.壁の向こう側

 時間は少し巻き戻る。ジーナの部屋で寝ていたカイルであったが、やはり退屈過ぎて目が覚めてしまった。


「つまんなぁーい!!」


そういうと、起き上がり部屋のドアへ歩いていき、ロックされているドアを一発で開けた。そして、上部甲板に向かう兵士に溶け込むようについて行き、がんばって兵士の動作を真似る。ブリッジにはアンジェやジーナなど見っ知った顔が見えた。見よう見まねで動作を真似ていたが、とうとうテンポが遅れてしまう。


「あーあ、やっちゃった!顔を伏せておこう」


カイルは両隣の兵士に「気をつけろ!」と注意されるが、とりあえず面倒くさいので「りょうかい!」を連呼した。一応気づかれないように顔を伏せているが、ジーナの視線を強く感じる。


「(バレちゃったみたいだ!まぁー、いいか!アンジェちゃんとガリフ君は気づいていないから)」


穏やかな雰囲気だったカイルが、ガリフの言葉を聞いて、雰囲気が変わる。


「(ガリフ君。それはダメだ!約束が違うよ。騙しじゃないか!それなら約束を守る理由も無くなったから帰らせてもらう。ついでにそんなことはさせないよ!!)」


そう思い、カイルは顔を少し上げ、ガリフを見据えた。そして、早速どこから発射されるのか聞き始めると、揚陸艦が停泊する軍港の周辺にあることがわかった。


「ミサイル基地?どういう意味なんだろう?」


その言葉の意味がわからないカイルだったが、そこにいけば阻止できるということだけはわかっている。


「ジーナちゃん!ひつこいなぁー!」


ジーナの視線がずっとカイルに向いた状態だった。やがて、この艦は文明の壁と呼ばれている巨大な壁の水門の前に到達する。門から音が聞こえてくると、両開きの扉が手前に少しずつ開かれ始めると、強風が甲板まで吹き始め、慣れていない兵士が飛ばされそうになる。


「面白そうだ。何があるんだぁー!」


当然、カイルにはこの強風はへでもない無い。それより、水門に向こうに何があるのか楽しみでワクワクしていた。


「おお!!」


門が開く隙間から見える印象的なものは、遠くの方に雲をも簡単に突き抜ける強大な塔が見え、この艦から少し先に見える建物に高さがあり、その建物が少し密集している中規模程度の港町が見えた。そして、この艦が水門で巨大な壁を越えると、艦は一旦動かなくなる。後ろの水門はゆっくりと音を立てながら閉じていく。甲板にいる騎士と兵士達は一斉に塔に身体を向け、片膝をつき、首を垂れた。カイルも真似るが、他と同じ動きをするのは退屈でしかない。


「(つまんねぇーの!でも、これってあれだ。たぶん!)」


カイルの予想通り甲板中の兵士が何かを唱え始める。


「光輝ある神に栄光をもたらし、我らが聖上に幸福をもたらしください!」


それを言うと、笑顔で万歳三唱した。


「バンジャーイ!」


カイルも目立たないように真似ているが、その表情にやる気は感じられないように見える。そして、ジーナの方をちらっと見るが、笑顔で万歳をしているがぎこちなかった。


「俺もそうだけど。動きに心がついてきていないんだよなぁー!」


そして、それが終わる再び甲板の方に向き、片膝をつく。


「バレス!軍本部より発射準備許可が下りた!」


艦長からの朝礼が終わると、副長からバレスに報告が行き、バレスは主君のガリフにそれを報告し、甲板の騎士と兵士にも発表をした。


「この機会に新型兵器を獣達に試すことになった。発射は昼頃の予定している」


やがて、朝礼は終わり、散開になると、まず聖人であるガリフとアンジェが先に中へ入っていき、それまで兵士達はどんなことがあっても待機しなければならない。


「おしっこ!もれそう」


そんな時に周りの兵士にそう言い、甲板の端に行って、立ちションをし始める。しばらく溜まっていたのか気持ち良い表情をしていた。しかし、当然その行為がガリフの視界に入ってしまう。


「また同じ奴かぁー!いい加減にしろぉーー!!」


ガリフは激怒し、レーザー銃を取り出し、立ちションをしているカイルに向けた。


「私があの愚かな兵士を始末してきます。バレス殿!アンジェ様を頼む」


ジーナがガリフに申し出て、剣を抜き、高さのあるブリッジからカイルの元へ飛び出ていく。


「ジーナちゃん!」


ジーナの接近に気づいたカイルはちょうど立ちションが終わったので、ズボンを上げ、後ろを振り向くいた。


「この無礼者がぁーーー!!」


すごい形相をして剣を持ち、叫んでこちらにやってくると、剣をカイルの喉元に向けてくる。


「へぇー!違うねぇー!」


雰囲気はあれど、中身の殺気はほとんど無かった。


「存在を知られるわけにはなんとしても防がなければならない。一旦、ここから落ちて、人気のないところに私が見つけ出すまで隠れていろ!」


それを小声で言う。


「バカは死んで詫びろ!!」


ジーナはカイルを強く蹴飛ばす。カイルは笑顔になり抵抗せず、流れに身を任せる。


「バカがいるから面白いんじゃないか!」


カイルはそれを言い残し、川へと落ちていった。


「この世界でバカは罪だ!」


落ちていった甲板から下の方を見つめ、ジーナは真面目な表情でそう呟いた。


                ※ ※ ※


 川へと落ちたカイルは、自分の上の水面を揚陸艦が通過するのを待ってから、再び揚陸艦の後部の入口から上がり進入した。見張りの兵士がいないのは朝礼で上部甲板に上がっていたことにある。


「あれ!濡れてない」


カイルは服が濡れたと思い、脱いで絞ろうとしたが、服に触れてみると不思議なことに濡れていなかった。


「すごいぞ!これ」


カイルがジーナから渡された兵士の制服は耐水性がある。そして、ジーナに言われたことを思い出して人気が無いうちに隠れられるところを探した。


「ここなら良いだろう!」


そこは、下部甲板の物陰で隠れるには悪くない場所。カイルはそこに隠れるがやっぱり退屈になってしまい寝てしまった。


「zzzzz・・・・」

「寝るな!獣!」


カイルが隠れているところをジーナが探し出し、見つけると、寝ていたので、ムカつきカイルを蹴飛ばしてしまった。


「ジーナちゃん?遅いよぁー」


カイルは少し寝ぼけた表情を見せる。その無神経な顔にジーナは憤慨する。


「遅いではない!獣が愚かなことをしたせいでさらに忙しくなってしまったからだ。さぁー、ふけ!」


そう言いながらも、ジーナは持ってきたタオルをカイルに渡す。


「それ、ふくやつか?ジーナちゃんって、意外とやさしんだな!?」

「濡れていては目立つからだ。勘違いするな獣。私が獣ごときを気にかけることはない」


ジーナはカイルを見下した冷たい目で淡々と答えた。


「ナナミからこういうの聞いたことがあるなぁー。思い出せない。まぁー、いいや!」

「何を訳の分からないことをぶつぶつ言っている。じきにあそこにいる獣の仲間たちはガリフ様の聖罰により殺処分される。獣も聞いていたはずだ。もう一人になるだろうから、今の内に私に殺されておくか?」


その話しになると、カイルの顔つきが厳しくなる。それを見てジーナも後ずさりしそうになったが、何とか堪える。


「いいや。約束は破られてしまったから、残念だけどアンジェちゃんの家畜になるのは終わりだよ。ここからは自由にやらせてもらうことにした。さぁー、場所を教えてくれないか?」

「教えるわけがない!もうすぐ、この艦は港に到着する。私は、アンジェ様の元へ戻る。獣にもう付き合っている暇はない。好きにすればいいが、我らの邪魔をするなら、私の命を捧げてでも、獣を殺す!!」


カイルに殺気を剥き出しにして睨みつけると、そこから立ち去って行った。


「急にどうしたんだ?でもいつものことか!」


ジーナが去っていく後ろ姿を真顔を見つめたカイルだった。

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