16.ガリフの決断
ジーナはなるべく早く自分の部屋にカイルを隠すべく早歩きだった。カイルも後ろからついてきている。
「ちっ!」
ジーナは顔を少し歪め、舌打ちした。それは、向かいから自分と同じ階級の騎士がこちらに歩いてくる。しかも、男の騎士だった。
「今日の朝礼は知っていると思うが、急遽、聖人様をお向かいして行うことになったそうだ!」
護衛騎士であるジーナは聞いていなかった。どういうことかわからないジーナはさりげなく聞いてみる。
「さっき起きたばかりだから聞かされていない。なぜ、聖人様も一緒なのだ?」
「護衛騎士のくせに聞いていないのか?ガリフ様のご意向だ」
それを聞いたジーナは内心驚く、本来予定では無かったことだからだ。
「(どういうことだ?)」
ジーナは心の中で混乱しているが、それを表に出さないようにしている。
「急げよ!」
その男の騎士はそういうと行ってしまった。
「面白いのか?俺も混ぜてくれよ!」
両手を頭の後ろに組みジーナの後ろで話しを聞いていたカイルは能天気に聞いた。
「連れていけるわけがない。私は急いでアンジェ様の所へ参上しなければならなくなった。獣、急げ!」
ジーナは焦っている様子を見せる。
「一人でずっといるのは退屈っーーー!」
駄々をこねるカイルをジーナが睨んだ。
「次、勝手に出れば命の保証はないし、命じられれば、容赦なく喜んで殺す!」
それを聞くと、カイルの表情が鋭くなり、頭の手を組むのを止める。
「命どうこうは最初から俺は気にしていないし、神の人形のままのジーナには俺を決して殺せない!」
「獣ーーー!!獣ごときが生意気なんだよ。とにかく、私を巻き添えにするな。私はこんなことで死ぬわけにはいかないんだ!!」
このやり取りを歩きながらしていて、いつ気づかれてもおかしくない状況だった。
「それ、どういうこと?」
カイルはジーナが言ったことが気になったので聞いたみたが、ちょうどジーナが使う部屋の前に到着する。
「うるさい!!入れ」
ジーナはイライラし焦っていることもあり、部屋のドアを開け、カイルを自分の部屋に押し込め、すぐに出られないように鍵をかけた。
「私はアンジェ様のところへいく。帰ってくるまでそこで大人しくしていろ!!」
そういうと、ジーナは駆け足で立ち去っていき足音がすぐに遠くなり、やがて無くなった。そして、今度は外から足音と共に兵士の話し声が聞こえてくる。
「上で何か面白そうなことがありそうだ!」
ワクワクしてしまい、好奇心が抑えられなくないカイルは、ジーナの言いつけなど知ったことでは無い。
「出よう!俺は行く」
そう言って見たものの、ドアを破壊しても良いのだが、目立ってしまうので止める。部屋の中を見回すと、小さな通気口を見つけるがこれもサイズが小さいので入ることは出来ない。
「つまらない!」
結局、諦め退屈になってくると、眠気が襲ってきたので、ジーナがシーツを取り替えたベッドに寝てしまった。
※ ※ ※
揚陸艦の上部甲板にはこの艦にいる兵士が大勢、艦の指揮をとるブリッジに向いて、整列していた。ジーナはアンジェの元に行き、アンジェと一緒に甲板を見下ろせるブリッジの所まで取り合えず、向かっているところ。
「ジーナ!顔が少しやつれている」
浮遊物体に乗るアンジェに指摘されたジーナ。昨日の夜からずっとカイルに巻き込まれた影響で精神が疲れていた。
「そんなことはありません!」
主君の前で護衛騎士としてそれを認めるわけにはいかないので否定した。
「妾の所に来るのがギリギリだった。お前にしては珍しい!」
「申し訳ありません。アンジェ様」
「まぁー良い。妾に尽くしているからな」
ジーナとアンジェの二人はブリッジに上がるエレベーターの前に到着する。
「お気をつけを!」
エレベーターのドアが開くと、アンジェを入るように誘導する。二人が乗り込んだエレベーターは上へ上がっていく。
「兄様が重大な話しをするそうだが、何か聞いているか?妾はよく聞かされていない」
ジーナはこのことをカイルを自分の部屋に閉じ込めてからずっと考えていた。
「あの獣に聖罰を与えたことではないかと」
「下等な者達にわざわざ兄さまは、妾の恥を晒すのか?やめてもらいたい」
アンジェは口を噛み、苦い顔をしている。アンジェはそれを見ても黙ってるしかなかった。
※ ※ ※
ジーナとアンジェの二人がブリッジに到着し、エレベーターのドアが開くと、ジーナやバレスより階級が高い格好をしている人物が出迎えてきた。まず、声をかけてきたのは男でこの艦の副長である。
「アンジェ様。こちらでございます」
ジーナもアンジェの護衛騎士ではあるが自分より階級が高い騎士なので、頭を下げ挨拶をする。そして、ブリッジから甲板全体を見下ろせるブリッジのデッキまで案内されると、目に入るのは、四つん這いになっている家畜の男とそれにまたがるガリフ。その後ろに控えていた騎士の格好をしているのがバレスでその他に横並びで並んでいる者達は艦長やこの艦の幹部の乗組員達だった。
「この艦は諸君らが知っている通り、まもなく文明の壁を通過する。しかし、その前にガリフ様から神聖なるお言葉を賜ることになった。心して聞け!」
艦長がガリフとアンジェに頭を下げてから、前に出て、甲板のブリッジ側にいる鎧を着ている騎士と外側にいる兵士を見渡し、言葉を述べた。すると、甲板に並んでいる騎士と兵士達は一斉に片膝をつき始める。しかし、イレギュラーなことに兵士側の方で一人だけ動作が遅れた者がいた。ガリフは満足気な顔をしていたが、その者を見つけると不機嫌な顔に変わる。
「兵士が無礼を。申し訳ありません!」
「おそらく新兵かと!」
頭を下げ、艦長が謝罪の言葉を述べ、副長が補足するかのように言い訳を述べ、ガリフに謝罪した。一方、ジーナとバレス、家畜の男はやらかした新兵が何者なのかに気づく。三人共、それに気づくと目を見開いた。特にジーナは怒りを堪えるのに必死だった。
「(死にたいのか!!)」
その新兵はカイルだった。兵士の格好をしていて、兵士が並ぶ列に並んでいたので、バレることなくそう認識された。
「(なぜ、まだいる!帰ったのではないのか!?)」
バレスはカイルに行動がよくわからなかった。
「(生きていたのか?)」
家畜の男は処刑されて死んだと思っていたが、生きていたので頭が混乱している。
「ガリフ様!お気になさらないように。下等な兵士にお時間を取られてはなりません」
バレスは新兵がカイルであることを気づかれないようになだめ、ガリフを前に出るように促した。
「お前の言う通りだ!おいっ!前に出ろ」
ガリフはバレスの言葉に納得すると、家畜の男の頭を叩いて、命令する。そして、前に出ると、バレスから一枚の二つ折りされた紙を渡され、それを広げ、読み始める。
「卑しすぎる獣達が光輝ある聖人である余と余の妹の乗るスカイ・シップに危害を加え、飛行不能になった原因を作ったことがわかり、それを聞いて聖罰を下すことを決意した。余は獣達の住処と命を消滅させる!」
読み終えると、次はバレスが前に出てきて発表する。
「このことはすでに本部に通告されている。まもなく発射準備許可が下り、準備完了次第、ガリフ様が発射を命じられる予定だ」
バレス、ジーナ、家畜の男はこれを聞いたカイルの反応が気になり、目線をそちらに向けていた。
「(何もするなよ!こうなったらもう、諦めろ)」
ジーナは戦々恐々としていたが、アクションを起こす様子は見せず、大人しくしている。しかし、カイルから目が離せなかった。
「(これではアンジェ様の護衛が勤まらない。あの獣のせいで!)」
やがて、この艦は文明の壁と呼ばれる巨大な壁の水門の前に到達すると、少ししてから門が開く音が聞こえ、門が開かれると、景色は門の先からガラリと変わった。
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