15.食堂の少年と少女

 カイルは食堂で朝飯が食べられるということで、ジーナの後ろをついていっている。艦内の廊下を歩いていると、向こうから複数の兵士がこちらに向かって歩いてくる。聖人の護衛騎士であるジーナに気づくと、立ち止まり挨拶する。その後も同じことが続いたが、エンゼビリティーを持つ騎士以上の人間に運よく遭遇することは無かった。そして、食堂のある部屋に二人は到着する。


「広いところだなぁー!」


カイルにとっては食堂という初めて見る光景に目を輝かせていた。


「ふぅー!良かった」


食堂には予想通りまだ兵士はいなかったのでジーナは一安心するが、隣で食堂をみて、目を輝かせているカイルを見て、呆れるしかなかった。


「騎士以上の者はちょうど起き立てくらいの時間。それなのに獣ごときに付き合ってこんなことをしているのは私とバレス殿だけだ!」


ワクワクしてジーナの愚痴を聞いていない様子のカイル。


「ジーナちゃん!早く食べよう。どこにある?」

「こっちにこい!」


カイルが急かしてくるので、騎士以上が使えるテーブルと席があり、そこにジーナが座る。その隣にカイルも普通に座った。


「そこは本来獣が座ってはならない席だ。家畜なら下でエサを食べることになっている!」


ジーナは床に指さす。家畜なら床にエサを置かれて、それを食べるようにしなければならないが、今回はそういうわけにはいかなかった。


「しかし、存在を知られるわけにはいかない。あー、イライラする。おいっ!!」


ジーナは突然、テーブルを壊さない程度に強くバンっとテーブルを叩いた。すると、食堂の奥にある厨房がざわざわすると、一人の少年が出てくる。カイルとあまり変わらない年齢で食事を世話をしに来たようだ。こちらに対して、怯えている様子。


「おはようございます。騎士長様!まだ、お食事の時間ではございませんが・・・」


その少年は頭を下げ、決められた時間でないことを告げてきた。ジーナはそれを聞いて少年に怒りを向け、怒声を浴びせる。


「聖人様の護衛騎士である私に向かって、低俗な下民ごときが私のやることを遮ろうというのかぁーーー!!」


隣にいるカイルもこれには目を大きく開いてビックリした表情を見せた。一方、怒声で威圧された少年は恐怖で一杯になり、命乞いをするかのように土下座をする。


「お許しくださいーーー!!騎士長様ぁーーー!!」


少年にとっては殺されてしまうようなジーナの威圧に耐えられなかった。その様子を見ていたカイルは、統領のお使いで行ったあの集落で人々が同じように恐怖する姿を思い出していた。


「飯がまずくなりそう!」


カイルは一言、小声で呟くがそれはジーナには聞こえていない。


「もういい!!簡単な食事を早く私たちに持ってこい!」


ジーナは早く朝食を食べて、他の兵士が来る前に食堂から離れたかった。


「待て!私たちがここに来たことは向こうのいる下民に口止めしておけ。早く行けぇ!」


それを聞いた少年は急いで、部屋の奥にある厨房に戻った。すると、バタバタする音が聞こえてくる。


「なんか嫌だなぁー!」

「獣より中途半端な浅知恵がある。しっかり躾けなければ、私たちのことを口を滑らせてしまう」


カイルはジーナの言うことにあまり納得いっていない様子。これで良いのかという感じだった。そして、15分くらいか時間が経った頃にあの少年が厨房から食事を運ぶ台車で運んでくる。それをみて、カイルは腹の音を鳴らし、ワクワクしていたが、ジーナはそうではなかった。


「遅いっ!!」


ジーナは強くテーブルを叩き、少年に再び怒声を浴びせる。


「申し訳ございませんっ!!」


少年は半泣きになりながら、ジーナに謝罪し、食事をテキパキと並べた。その食事は本当に簡単なもので、野菜と肉がバランスよく入っているスープ。カイルはスープに匂いを嗅ぐ。


「おいしそうだな!」


それだけでなく、スープの器にも興味を持っていた。カイル達が使っている器より丈夫に出来ているので、それを珍しがっている。


「すごいなぁ!」


そう言うと、温かいスープに入っている具材を素手で飲んで食べ始める。その様子を見て哀れな表情でカイルを見下すジーナ。


「さすが、獣!下品なことしかしないな」


一方、ジーナは置かれてたスプーンを取って、それでスープを飲んでいた。


「これかぁ!」


カイルも何となくその意味がわかり、スプーンを見つけ、握り方や口へ運ぶ動作をジーナを見て真似てみた。それをみて、能無しの獣があっさりと使えてしまったことに驚きを見せるジーナだった。


「前から気になっていたけど、俺たちへの誤解が激しいし、教えてもらえればこんなことぐらい俺たちでも出来るんだ。出来なきゃあそこではやっていけない!」


ジーナの態度の意味がわかったので、それを反論したカイル。


「獣ごときが偉そうな口を聞くなぁ!すぐに食べろ!」


ジーナもスープを二口くらいスプーンで口に運び、食べる。機嫌がさらに悪くなるジーナ。


「これを作った愚か者をここに連れてこい!」


後ろで控えていた少年に命じ、少年は急いで厨房に戻った。そして、厨房から出てきたのは若い女子の料理人。ジーナと見た目的にあまり年齢が変わらない。その料理人はジーナに頭を下げた。


「お呼びですか?」

「お呼びですかではない!この私にこんなまずいスープを食べさせるとは、低俗な下民ごときが私を馬鹿にしているのかぁーーー!!」


怒声を浴びせると、女子の料理人は土下座をする。


「そのようなことはありません。お許し下さい!」

「厳しい躾けをしなければ!」


そういうと、ジーナは席から立ち上がり土下座をして反省の態度を示している女子の料理人を自分の足で踏みつける。


「申し訳ございません!申し訳ございません!申し訳ございません!お許しください!お許しください!お許しくださいーーー!!」


泣きながらジーナに許しを請う為に必死に謝罪の言葉を連呼した。


「おいしいっーーーー!!」


一方、カイルはスープを完食すると、大きい声で絶叫した。そして、まずいと言うジーナの同じスープにも手をつける。


「おいしいじゃないか!おいしいよ!」


謝罪の言葉を連呼し続けている女子の料理人を励ますカイル。その言葉聞き、顔を上げ、カイルを見た。カイルの表情はにこやかしている。ジーナはそれを見て、余計イライラしてしまった。


「どうでもいい!私がおいしいと思うかどうかが重要なのだ。下民!罪を償え!!」


ジーナは剣を抜き、女子の料理人にそれを向ける。奥の厨房からその様子を見ている料理人達が目を瞑り、怯え恐怖していた。


「こんな綺麗な女の子が台無しだ!この子を斬るならおいしいと言った俺も斬ってくれ!」


カイルは周りの雰囲気を感じ取り、席から立ち上がり、ジーナを見つめた。見つめられたジーナはカイルの雰囲気が変わったことがわかり、カイルの雰囲気に吸い込まれそうな得体の知れない恐怖を感じたので、剣を鞘に収める。さらに女子の料理人への踏みつけもやめて、冷静になる。


「獣ごときに私としたことが、情けない!」


獣に妥協することは屈辱でしないジーナだった。


「バレるからな!」


カイルは笑顔に戻る。


「部屋に戻る。行くぞ!」


ジーナは食堂の出口へ歩いていく。カイルは傷ついた女子の料理人の身体に手で触れ、回復するように癒しを与える。


「ありがとうな!また、今度あったら食べさせてくれ!」


カイルは笑顔で言うと、すでに食堂から出て行ってしまったジーナの後ろをついていった。

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