12.カイルとジーナ
自分の部屋の扉を開ければさっき殺処分されたと聞かされたカイルが自分のベッドの上に呑気な顔でイビキをしながら寝ていた。
「zzzz・・・]
寝ていたかと思えば、突然目をパチリと目をひらき、ジーナの存在に気づく。ジーナは自分の狭い部屋で剣で攻撃するわけにはいかないので、短剣を取り出し、カイルを刺そうとする。
「なんだぁ!」
カイルは寝起きで突然攻撃されてビックリするが、起き上がり短剣を素手で曲げて無効化した。
「死んだはずなのになぜ、ここに⁉」
ジーナはカイルに声を荒げて問いただした。ジーナもカイルが生きていることに訳が分からない。
「アンジェちゃんとの約束を守る為に泳いで戻ってきたんだ!」
「このことがガリフ様に知れたら、私はただでは済まなくなる。そうなればアンジェ様の立場が・・・」
ジーナはカイルを睨みつける。
「えっ?」
「始末する!生かしておけない」
すると、ジーナの片手でオーラのような光りに包まれ始める。
「向こうでは見なかった。初めてみる。それは何?」
カイルは能天気にジーナの現象を質問した。
「殺されるというのに、バカな獣だ!まぁー、いい。これは神より与えられし選ばれた者のみが扱えるエンゼビリティー<天使の力>だ。これで減らず口を聞けなくしてやる!」
「へぇー、そうか!きっと、それってすごいんだろうなぁー」
あまり関心がなさそうな表情を見せた。
「そんな顔をしていられるのは今のうちだぁ!ここに戻ってきたことを死んで後悔させてやる」
笑みを浮かべ、カイルを見下した表情で、カイルの腕をつかんだ。
「死んだら、後悔はできないと思うけど!」
ジーナの言ったことに対するツッコミを能天気な様子で入れると、カイルはジーナを見つめ始める。
「(そんなぁ!獣ごときにこの私がまた・・・)」
カイルの吸い込まれそうな強い視線に、目を逸らしたくても、自分の意思では逸らすことが出来ない。意識が持っていかれそうな感覚に恐怖を感じたジーナはとっさにつかんだカイルの腕を放した。
「獣ごとき下等生物に騎士である私の力が通用しないのはあり得ない!」
「あり得ないことなんていくらでもあるんだ!ジーナちゃん」
ジーナはちゃんづけされたことも気づかなくなり、今までと違う崩れたを見せる。
「きれいな顔が台無しだよ!」
カイルは煽っているつもりはなかった。
「あの時も私の剣が止められた。そして、今も・・・。神が治めるこの世界でこんなことはあってならない!神がお決めになったこの世界の秩序が崩れてしまう!一体何お前は?」
「俺か?俺はギョペのカイルだぁ!」
カイルはジーナに何者かと聞かれたので自分の名を名乗ることにした。
※ ※ ※
「はぁ⁉」
予想外の答えが返ってきたおかげかジーナは落ち着き取り戻し、崩れた表情が元通りになる。
「獣の名などどうでもいい!ここから泳いで消えろ!」
「約束はどうなる?手を出さない代わりに俺がここにいるんだ」
カイルは身代わりになるために家畜になったのだから、自分がここからいなくなったらどうなるかを心配した。
「聖罰が下った時点で、もう終わっている。むしろ、生きてここにいることが知られることの方が問題なのだ。私も処罰されてしまう。だから、ここから消えないなら、何としても殺すしかない」
さきほどと違い乱れた殺気ではなく、冷静な殺気をカイルに向けた。
「俺を仮に殺そうとするなら、暴れるしかないし、そっちの方がかえってジーナちゃんにとって良くないと思うよ!」
「獣ごときに知恵があるとは」
ジーナは小さな声で呟いた。未開の地の獣に考える能力があるとは今まで思っていなかった。
「獣、獣、うるさいよ!俺は獣って名じゃない。カイルだ!!」
ジーナの”獣”呼びがしつこいので、カイルにしては珍しく怒り気味に言った。
「獣ごとき下等の存在に名前などいらない。あったとしても呼ぶ必要もない」
カイルがあの集落の時から気になっていたことを聞いてみる。
「何で、俺たちのことを”ケモノ”って呼ぶんだよ?」
「あそこにいる生き物は等しく、野蛮な獣であると、我らの神が説いた教えがあるのだ」
「胡散臭い神だ!俺たちと着ている物が違うだけで、姿や形が変わらない同じ人間なのに」
ジーナは再び怒りが湧いてきて、カイルに対する殺気が強まる。
「獣ぉーーー!我らの創造した神の教えを侮辱するなぁーーー!」
発狂すると、カイルの首を両手で絞め始めるジーナ。
「そんなにジーナちゃん達は短気なんだ?」
カイルは首を絞められているのにそれを外そうとせず、自分の手でジーナの身体に触れる。
「落ち着いて、ジーナちゃん!」
「いい加減にしろ、獣!獣が人である私の名を呼ぶことは許されないっ!!」
自分の名を呼ばれて怒るジーナだったが、それ以上、怒りが湧きあがらず、段々と収まっていき、カイルの首も強く絞めようと気がなくなり、やがて、ジーナの精神は不思議と落ち着いた。カイルは首絞めが弱った時に、自分の首を絞めているジーナの両手を自分の首から放す。それに対して、ジーナは抵抗する様子はなかった。
「獣や劣等種の無礼に自然と怒りが沸いてきて、殺したくなってくる」
気が抜けた感じでジーナは自分の感情を説明した。
「このままだとジーナちゃんにとって良くない。触れてわかったんだ!」
カイルはジーナの目の奥に語りかけるように見据える。
「本当の神は、獣だろうが人だろうが、差別しないし、見下しもしない。そして、教えることもしないと俺は思うんだ!」
「この私の前で、神を否定するのは大罪で八つ裂きの刑してやるところだが、今はその気にならない」
カイルが触れた影響のおかげかジーナが不思議と発狂することはなくなり、ただ落ち着いている。落ち着いたとわかると、カイルは聞きたいことを聞き始める。
「ここから向こうには何があるんだ?俺たちは神がいるとしか聞かされていない」
「獣が近づいてはならない神が治める人が住む土地がある」
「そうか!だから、俺たちを掟で縛って、あの山に入れないようにしていたのか⁉」
カイルは何かすっきりした表情を見せる。その表情にジーナが気づき、次の言葉に注目した。
「それなら、もう我慢することも掟に従う必要はないな!」
それを聞いて殺気と言うほどではないが、カイルを睨みつける。
「神の御教えに逆らおうとするなら、やはり生かしておくわけにはいかない!」
「さっき言ったこと忘れてない?まぁ、いいや!」
カイルは話しを変える。別の質問をする。
「この船はどこに向かっている?」
「コマナの軍港に寄り、獣の仲間に壊されたヘブン・シップを修理して、空中庭園メトロ・ガーデンに昇る」
「面白そうな予感がするなぁー!」
カイルはジーナの説明を聞いて、ワクワクした表情を見せた。
「殺処分されたことになっているから、獣は連れていくわけにはいかない」
がっかりしそうなところだが、表情は変わらなず、むしろ前向きになる。
「別にいいさ!自分の足で行くだけだから」
しかし、ジーナはカイルの言葉を無駄のようにあざ笑う。
「バカかぁ!家畜にならない限り愚かな獣が近づける場所ではない。ただ、死ぬだけで終わる」
「どうだろうな⁉」
ジーナはカイルの愚かさにつき合いきれず、やるべきことをする為に崩れた身なりを整え部屋を出ようとする。
「絶対にこの部屋から出るな!」
「のんびりさせてもらうよ!」
カイルはジーナの使っているベッドに寝転がりながら呑気な声で返事をした。ジーナは振り返る。
「いつか八つ裂きにしてやる!」
カイルに殺気を込めて睨みつけ、自分の部屋から出て行った。
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