11.飼い主への報告

 揚陸艦内にある地位が高いものが使う部屋に従者の男が椅子に座るアンジェに対して報告している様子だった。アンジェのそばにはジーナもいる。


「あの家畜の仲間がお二方が乗る船に危害を加えたとして、ガリフ様のご判断であの家畜に殺処分の聖罰を与えたことを報告します」


それを聞いたアンジェは、表情を険しくする。


「飼い主の妾に無断で、家畜を処分することは、兄様といえ、あってはならぬこと」


続けて、ジーナも意見する。


「アンジェ様の立場が無い!家畜の処分はその主人が下すのが慣例。ご兄弟でも越権行為に当たる!」


それを聞いて、従者の男はジーナに顔を向ける。これはアンジェに向いて、言えることではなかった。


「ガリフ様は、我らの命を脅かそうとした大罪を放置することは出来ないゆえ、即時処刑する必要があったというご判断である」

「納得いかない。兄様に会って詳しく説明して頂く。行こう!」


ジーナに声をかけて、浮遊物体に乗り、ガリフがいる部屋に向かおうすると、従者の男がそれを遮り、片膝をつく。


「聖人である妾の行く道を遮るか?」

「ガリフ様は、あの家畜の無礼に疲れ果て、早めに就寝されました。ご容赦を!」


従者の男は頭を下げる。


「アンジェ様の邪魔をするなら・・・」


ジーナが出てきて、剣の束に手をかける。


「もうよい!わかった。妾もお前の無礼に疲れ果てたから、出てゆけぇ!」


従者の男に不満を発散するように大声をあげた。


「はい」


一言返事をして、立ち上がり、アンジェに頭を下げ、従者の男はうつむいてこの部屋から出て行った。二人きりになり少ししてからアンジェはイライラし始める。


「このまま家畜を連れて帰らないと、聖人として恥をかいてしまう!!」


「立場を考えれば許せませんが、あんな無礼な獣を家畜にしたら逆に恥をさらすことになっていたと思います。次は獣ではなくもっとましな下民からお選びになれば良いかと」


ジーナはアンジェのイライラが落ち着くようにフォローした。


「それもそうね。妾は疲れた。もう寝たい!」

「わかりました。ごゆっくりお休み下さい。これで失礼します」


ジーナは部屋から出ていこうとすると、出口の前で立ち止まり、アンジェに振り向き、固かった表情を緩める。


「今日は、聖人として獣達へのご振る舞いは立派でした!」

「獣に劣っていた護衛騎士ごときが身分をわきまえなさい!!」


それを聞いてアンジェは自分の従者が偉そうに言ってくるのに腹が立ち、ジーナを叱責した。


「申し訳ありません!出過ぎた言葉でした。失礼しました」


あわてて片膝をつき、アンジェに謝罪してから、頭を下げ、部屋を出ていく。そして、ジーナは艦内で割り当てられた自分の部屋に戻るべく、歩き始めた。途中、自分より立場が低い兵士とすれ違い、一礼されながら自分の部屋に向かっていると、カイルのことが思い浮かんでくる。


「(獣ごときに私の剣が止められるなんて…。私としたことが油断しすぎた)」


ジーナには屈辱と後悔の思いで頭がいっぱいになっていた。やがて、騎士長ジーナとネームプレートが貼られている部屋にたどり着く。


「zzzz…」


部屋から人気を感じないのに、人のイビキの声が自分の部屋の中から聞こえてくる。


「誰かいるのか?」


ジーナは身構え、部屋の入口の扉を開けると、ありえない光景を目にした。

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