10.凶暴な水魚

 甲板の先端から自らダイブしていったカイルは川底へ沈んでいく状況を楽しんでいた。鎖や重たい鉛を外そうともせず、泳ぎもせず、自然に身を任せている。


「水魚ぉ!水魚ぉ!水魚ぉ!」


従者の男が言っていた凶暴な水魚が現れるのをワクワクしながら待っていた。


「遅いなぁ。来てくれよぉー!」


しかし、しばらく経ったが、現れる気配が一旦水面に上がろうとする。重たい鉛がついているがカイルにとっては重く感じないので、軽々と泳いで浮上していった。過ぎ去っていく揚陸艦を見つめている。


「こんなものじゃ俺は死なないよ」


自分の体重より遥かに重いものでも持てるカイルには意味がなかった。水面であおむけになりしばらく夜空の星々を眺めていると、自分に近づいてくる気配を感じる。カイルは表情をニヤッとさせ、周りが真っ暗の中で、どの辺から近づいてくるのか気配を探っていた。


「どこだぁー」


どんなものか見てみたいので、早速水中に潜り、気配が近づいてくる方向に泳いでいくと、人を飲み込めるほどの巨大な水魚が鋭い牙で口を開き、高速でカイルを飲み込もうと襲ってきた。しかし、カイルには遅く見えてしまう。


「喰われてみようか?」


どうするのか一瞬迷う。


「うん!競争してみよう」


水魚の飲み込みを回避して、人魚の如く、高速で逃げて一旦距離を取ろうとする。それに対して、水魚がスピードを上げ、追いついてこようとした。


「おっー!思ったより速い!」


それを見て、カイルは面白がり自ら水魚が向かってくる方向に泳ぎ始める。水魚は口を開き、鋭い牙で喰らおうとするが、カイルが水魚の0距離に入り込み、巨体の周りをグルグル移動しているのでカイルを仕留めることが出来なかった。カイルは水魚の身体につかまり、張り付くと、水魚はそれを引き剥がそうと、高速で不規則に泳いだり、水面から川底まで一気に泳いだりするが、カイルは引き剥がされず、溺れ死ぬこともなかった。


「まだまだぁー!」


カイルは楽しんでいて、疲れている様子を見せない。逆に水魚の方が疲れ果て、泳がなくなり、大人しくなってしまった。


「もう、終わりか?もっと、俺を楽しませてくれよ」


笑顔で水魚に語りかける。しばらく水魚の身体を見まわしていると、頭の方にコブのようなものを見つける。


「何だろう?」


コブのようなものが気になったので、カイルは張り付くのを止める。再び襲ってくる様子は見せなかった。頭の方に泳いでいき、コブをジッと見ているカイル。


「なんか嫌だ!」


カイルはコブから嫌な感じがしたので、試しにコブをパンチしてしまうと、機械が壊れるようなガシャンという音が聞こえた。


「えっ!」


思いもしない音に驚いてしまったカイル。すると、大人しかった水魚は突然、暴れだし、カイルに目もくれず遠く高速で泳いでいってしまう。


「まだ、やれるじゃないか!」


能天気に言って、カイルは水魚を高速で追いかける。すぐに追いつくと、水魚は泳がず静止していて、身体からビリビリと放電している様子。その放電に近くの川魚が影響を受け、水面に浮かび上がっている中、カイルは影響を受けなかった。そして、少しして、放電は無くなった。それと同時に水魚から感じられた凶暴な雰囲気も嘘のように消えている。


「別人!いや、魚だから違うな」


その一部始終を見ていたカイルは、完全に大人しくなった水魚の様子を改めて見に行った。


                 ※ ※ ※


 水魚の様子をよく見ると、気絶している。このまま集落に帰らず、約束を守るためにカイルは過ぎ去った揚陸艦を追いかけることにした。


「じゃあな!元気でぇー!」


そういうと、泳いで高速で追いかけていく。


「ナナミに教えてもらったやつを試してみるか」


以前、ナナミに海で教えてもらったナナミの世界の泳法クロールを試すことにした。


「これ、やっぱり便利だ。かなり速くいける」


楽しそうにクロールで泳いでいるカイル。泳いでいる途中、暗くてよく見えなかったが人型の何かが2つこちらに流れてきた。


「何だ?まぁ、いいや!」


カイルは揚陸艦を追いかけるのに夢中だったので、気に留めず泳いでいった。水泳のアスリートより遥かに速いスピードで泳いでいったので、30分くらいで揚陸艦の姿が見えてくる。揚陸艦の近くまで泳いでいくと、監視の兵士の姿が見えた。


「隠れよ!」


一旦、水中に潜りやり過ごす。兵士がいなくなったのを見計らって、気づかれないように気配を抑え、揚陸艦の後方の入口らしき所から侵入した。


「もういいや!」


鎖と鎖についている鉛が侵入の邪魔になったので、素手で鎖を簡単に壊してみせ、それを川に投げ捨てる。濡れた服は一旦脱いで、雑巾のように絞り、また着る。そして、隠れながら適当に艦内を歩いていると、ドアが空いているとある部屋をみつけた。

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