9.聖罰執行
男の兵士に引きずられ、広い甲板まで連れて来られる。浮遊物体で降り立った場所だった。あの浮遊物体は下部甲板に格納されている。甲板は照明に当てられ明るかく、揚陸艦の外は真っ暗で先があまり見えなかった。カイルは男の兵士に無理矢理四つん這いにさせられ、兵士二人は片膝をつく。
「聖人様!連れて参りました」
その聖人とはアンジェではなく、兄の方だった。アンジェの兄は再び一人分が乗れる浮遊物体に乗っている。その後ろには従者の男が控えていた。他に片膝をついた兵士が複数人いて、近くにはこの軍艦の幹部もいる。
「ガリフ様。処刑の準備が整いました」
艦長が出てきて、頭を下げ報告した。アンジェの兄は艦長からガリフと呼ばれた。
「アンジェとジーナは?」
「知らしておりません」
従者の男が前に出てきて、ガリフの確認に答えた。
「アンジェちゃんに引っ付いているのは、ジーナって名前なんだ」
カイルは従者の女がジーナという名前であることを知った。
「獣ごときが、余の妹の名を呼ぶな!」
ガリフは獣で家畜のカイルが自分の妹の名を呼んだことに怒り、感情のまま次の命令を出す。
「やれ!」
それを聞くと、従者の男はカイルの前にたった。
「お前は無知のおかげで、風前の灯だ!」
「えっ?」
カイルは従者の男が言ったことに訳が分からず、チンプンカンプンの様子。従者の男は一枚の紙をどこからか取り出す。
「ナナミから聞いたものと似ている。見せてくれ!」
カイルは紙というものを見るのは初めてだった。ナナミから紙の存在を聞いていたので興味を持っていた。
「読み上げたら、すぐに見せてやる」
従者の男は紙を見て、書かれている内容を読み上げ始める。
「余が乗っていたヘブン・シップのトラブルの原因は外部に空いた穴の中から銃弾が見つかった。それは妹の家畜の仲間の獣の仕業であると判明した・・・」
あの大きな浮遊物体はヘブン・シップ(天船)と呼ばれている。
「(ナナミ!耐えられなかったか)」
内容を聞いて、カイルはナナミがショットガンで撃ったのだとわかり、ナナミを想うカイルだった。読み上げは続く。
「よって、余は許しがたい、獣の姑息な所業に対して余の一存で聖罰として罪を犯した獣の代わりにこの獣をガリフ・ラルク・ホーリー・バルドの名において死を与えることにする」
従者の男が読み終わると、紙を裏返し、内容が書いてある文字を見せる。
「ガリフ君って言うのか!」
ガリフは君付けで呼ばれさらに怒る。
「早くやれ!下僕ども!」
命じられた兵士はカイルを処刑する場所へ連れていこうとする。カイルは自分の処刑が近づく中で、ガリフに命乞いや反論をしなかった。
「俺の仲間が済まないことをしたよ。仲間のやったことは俺が全て引き受けるから、許してやってくれ。ガリフ君!」
ガリフはカイルが反省の言葉を言っていると思ったが、最後に自分の名を君づけされたので、反省の色がないと激怒した。
「余はこれ以上、無礼な獣の存在に耐えられん。早く処刑しないかぁー!下僕どもぉー!お前たちも死にたいかぁー!」
「お前には今すぐ、あそこから落ちて、死んでもらう」
従者の男は主君の激怒に表情を強張らせながら甲板の先端の方を人差し指で指した。
「落ちると、死ぬのか?」
「この辺りの川は人を飲み込むほどの凶暴な水魚がいるから助かることはない」
「そうか!」
カイルはその言葉にニコっとして一言返事をすると、自分で甲板の先端へ歩いていく。それをみた従者の男は驚いた。
「アンジェちゃんとジーナちゃんによろしく言っといてくれ」
先端へ歩みを進める中で、従者の男の方に振り向き、遺言を伝えるように言った。
「あの二人は家畜が死のうが何とも思わない」
「それでいい!言ってくれるだけでいいんだ」
そして、甲板の先端に立ち、下をのぞくと、ここから水面まで遠くみえるので高さがだいぶあることがわかった。後ろについていた兵士が急いで、カイルの鎖に重たそうな鉛のようなものを二人掛かりでつける。
「それはお前より重たい。落ちたら浮かび上がれず、沈み続け、溺れ死に最後は水魚のエサになるのを待つだけだ」
「わかった!」
従者の男の言ったことに怯えずことはなく、笑顔で返事をした。
「早くしろぉーーー!」
「ガリフ様の命令を実行しろ!」
主人に怒声で催促されて従者の男が兵士二人に指示を出した。兵士二人がカイルを突き落そうとすると、カイルが四つん這いまま、自ら川にダイブしていった。その後にジャボンっと水面に飛び込む時の音が聞こえる。確かに落ちていったのか従者の男が水面をしばらく見つめていると、浮かび上がる気配は一切無かった。
「聖罰、執行完了!」
従者の男が声を張り上げ、ガリフに報告する。しかし、ガリフの怒りが収まっていない様子だった。
「のろまがぁー!」
ガリフがそう言うと、レーザー銃を取り出し、早く突き落さなかった兵士二人に向けてレーザーが放たれた。
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