7.未知なる場所へ

 カイルは大きな浮遊物体の中で、鎖に繋がれ四つん這いのまま中をみて、目を輝かせていた。中は広めで、いくつか扉が見える。


「すごい!」

「さっきから、うるさい!」


中に入ってから、ずっと騒いでいたので、従者の女にさっきから蹴飛ばされていた。


「しっかり躾けろ!」

「申し訳ありません」


自分の身体を従者の男に殺菌処理させている神の御使いの男。主の代わりに従者の女はその男に頭を深く下げ謝罪した。


「おまえら誰だ?」


その様子を見ていたカイルはふと思い出したように今さら聞く。


「家畜が許しなく、勝手に口を開くな!」


カイルは浮遊物体に乗る飼い主の女に鞭を打たれる。痛がる様子を見せないので、女は気に食わない様子でいた。


「得意の光るやつはやらないのか?」

「飛んでいるのにやるわけがない。それより、何度言ったらわかる!」


従者の女に今度は往復ビンタされるが、カイルはすっきりした顔を見せ、自分の周辺をよく眺める。


「ハハッ!そこまでバカじゃないか」


カイルは笑った。バカと言われ家畜を除いた4人はカイルに殺気を向けている。そして、飼い主の女は一人用の浮遊物体から降りた。


「妾達、神の使いである聖人は、おまえらのような人間でない野蛮な獣と違い、光輝な存在だ。その妾達に対して侮辱は許されないー!」


飼い主の女は発狂し、カイルに強く鞭を打つ。


「自分たちと変わらないと思うけどなぁー!」


獣と一緒され、怒りが爆発した従者の女は、剣を抜く。


「やはり、殺します!」


カイルに斬りかかろうとするが、四つん這いのまま片手を上げ人差し指だけで止めて見せた。


「そこなんだ!」

「もういい!妾達の庭園に帰ったら、そこにいる兄様の家畜のように減らず口を聞けないように、たっぷり躾けるだけよ」


飼い主の女はカイルを見ながら、笑みを浮かべて言った。


「はい!楽しいのは今のうちですね」


それを聞いて、従者の女の殺気が収まり、ニヤッとしてカイルを見下した表情で、返事をした。


「それ楽しみだな!」

「フッ!能なしの獣がっ!」


何も知らない能天気に言う笑顔のカイルに、従者の女はあざ笑う。


「行きましょう!」


別の部屋に入るように従者の女は主君の女に声をかけ、一緒に入って行った。そして、殺菌処理が終わった女の兄がカイルに近づき、いきなり強く蹴飛ばし始める。それに対して、カイルはわざと痛がる様子を見せた。


「これで満足!?」

「家畜がぁー!余に口を聞くなぁー!!」


カイルの態度に怒り、さらに蹴りが強くなる。普通の人であれば大けがになってもおかしくないレベルの強さ。すると、カイルは軽々と片手で止め始めた。


「おまえらのこと、もっと教えてくれよぉー!」

「離せ!けもの」


片手で止めた足を離さないでいると、従者の男が飛び出てくるように来て、剣を抜こうとすると、カイルに見つめられる。


「ここでやるの!」


カイルの眼から目がそらせられず、引き込まれそうな感じになり、怖気ついてしまった。


「獣ごときに教える理由はないが、行けばわかる」

「その方が良いな!」


片手で止めていた足を離す。


「お前、何をしている?」


従者の男に怒る主君の男。


「獣を相手にしてはいけません。別の部屋へ参りましょう」


主君の男は「そうだな!」と納得し、別の部屋に入ろうとし、後ろを振り向き、横たわった家畜の男の方を見る。


「使い物になるように改造に出せ!」


従者の男にそう言い、別の部屋へ入っていった。そして、カイルと家畜の男だけとなり、カイルは家畜の男に近づくと、ちょうど目を開けた。カイルに気づき、周りを見まわすと家畜の男は青ざめた表情を見せる。


「今すぐ逃げろ!!」


突然の変化と言葉に驚く、カイルだったが、その言葉を否定する。


「あいつらとの約束だからそれは出来ないんだ!」

「奴らの庭園に着いたら、俺たち家畜には絶望しかない!」


家畜の男はカイルに警告する。


「絶望かどうかは行けばわかるさ!それより、何であんなにあいつらは短気なんだ?」

「それは・・・」


家畜の男が答えようとすると、突然不安定に揺れ始め会話が遮られてしまう。従者の男と女が別室から飛び出てきて、この乗っている浮遊物体の操縦室へ駆け込んだ。


「やめておけ!」


何をしているか気になるカイルは操縦室に近づこうとすると、家畜の男に警告されるが、ハプニングにワクワクが止まらない。カイルは操縦室の前まで近づく。そこから話し声が聞こえてくるので聞き耳を立てる。


「お二方を欠陥品に乗せたということか?」


従者の女がこの浮遊物体の操縦者に怒っているようだった。一方、従者の男はもう一人の操縦者に指示を出している。


「近くにいるセイクリッド・アーミーの軍艦をこちら側に急いで呼び、この船の進路をヘブンリバーに方向に変更する」

「何があったのか教えてくれ?」


操縦室がピリピリしている中で、カイルは操縦室に入るドアの前にあるボタンを押してドアを開けた。入ってくるカイルに従者の女はイライラをぶつける。


「獣は近寄るな!あっちにいけ」


操縦室がギシッとした。


「仲間外れにしないでくれよ!」

「うるさい!」


入口に立っていたカイルは従者の女に操縦室の外に押し出され、ドアを閉められる。この浮遊物体は不安定に飛行しながらも進路を巨大な山脈の方向からヘブンリーバーの河口の方へ進路を変える。やがて、辺りは薄暗くなった頃、巨大な川の河口が見てきて、そこに一隻の揚陸艦型の軍艦が浮かんでいた。

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