6.ペットになる

場面はナナミの一発の目の射撃の所に戻る。


「ナナミ!」


カイルは住居を物陰にして隠れているナナミとアンに気づいていて、神の御使いに怒りを向けていることも感じていた。それが、次第に殺気に変化して伝わってくる。


「(気づかれる!ナナミらしくない。本当にやるつもりか?試しにあの後ろの女の子がどう反応するか見てみよう!)」


すると、銃弾が飛んでくるのがわかり、後ろに控えている従者の女も察知したようで、剣を抜き、防ぐ。


「(やるなぁー!)」


能天気に従者の女の防ぎにそう思った。従者の女が銃弾の軌道からナナミ達が隠れている場所を特定し、そこに行こうとすると続けて銃弾が飛んでくる。


「(このままだと帰れなくなる!」)


そう思ったカイルは、今度は自分がナナミの銃撃を弾いた。


「後は任せる!」


銃撃を防ぐと、振り向かずアンとナナミに聞こえる大きさで一人ごとのように言った。


「妾に汚らわしい声を聞かせるな!!獣!」


浮遊物体に乗っている妹はカイルに怒声を浴びせて、鞭を打つが、カイルはかわしはしなかった。後ろから、ナナミの殺気が感じられるので、カイルは後ろに隠れているナナミの方をちらっと見る。


「カイル!・・・わかったわ!」


カイルとナナミの目が合うと、無言だったのだが何かを受け取ったようで、ナナミは気配は落ち着いた。カイルは不安そうな気配を出しているアンを見る。


「今のナナミがいれば、アンは大丈夫だろう!」


今度は自分に鞭を打ってきた妹の方を向いた。


「そこの人の言う通り。俺の命で償うから、ここにいるみんなには手を出さないで欲しい!」


従者の男に指を指しながら言った。


「獣ごときが光輝ある我々に条件を願うなどありえない。このふざけた獣を私が八つ裂きにしてご覧に入れます」


すると、従者の女はカイルに高速に斬りかかろうとする。その動きは従者の男とカイルのみにしか捉えることは出来なかった。カイルの場合、その動きがゆっくり見えてしまっていた。


「なるふぉど!この二人はまぁーまぁー強い力を感じだけど・・・」


この場の力を関係を把握したカイル。従者の女の刃が目の前に近づいてきた。


「どうしようかなぁー?」


避けるか止めるかどちらにするか考えていた。しかし、浮遊物体に乗っている妹の声が聞こえてくる。


「待ちなさい!妾の儀式が終わってない。妾がやる!」


すると、兄と同じくレーザー銃を取り出した。


「そうしよう!かわいい子にやられるのも良い!」


カイルはそれに納得し、地面に膝まつく。


「喜ぶが良い!・・・」


「うん!」


カイルは笑顔で返事をする。その態度に妹は気に食わない表情をしていた。


「やる前にその顔が出来なくなるくらい、苦痛と絶望を与え、妾達に逆らったことを後悔させてから殺してやるから!」


そう言うと、妹は怒りをぶつけるようにカイルに思いっきり鞭を打ちカイルを痛めつけようとする。鞭を打たれているカイルはただじっと微動だにしていないが、服はやぶけ身体に傷が増えていく。微動だにしない姿を見て、集落の民は唖然する者もいれば、自分たちの代わりに傷ついて殺されていく姿をみて女性達を中心に涙する者もいた。


「この世界は神と光輝ある聖人である妾達がすべて。逆らう者は死よぉ!」


妹はレーザー銃をカイルに照準を合わせ、引き金を引くと銃口からレーザーが放たれ、命中すると、カイルはそのまま倒れてしまった。


                ※ ※ ※


「やっと、お前も一人前だ!」


従者の男に抱きかかえられている男は妹が獣を殺したことを喜んでいた。


「次は、家畜を選べ!残りは大罪により八つ裂きにしてしまう。あそこにまだ隠れている獣もな!」


アンはカイルが撃たれて悲しいのと死の恐怖が感情の中に同居している状態。ナナミは彼らの言葉と嘘にそして、カイルを撃ったことに対して今までになく殺気だっていた。


「殺されるなら、あの二人を殺してから死なないと、死にきれない!」


そう言い、ナナミはまず女を撃ち、続けて男にも撃とうとしている。そして、決死の覚悟を決め、まずカイルを撃った女に照準を合わせた。


「話しが違うよ!」


倒れて死んでしまったと思われていたカイルが、男が発した宣言の後に、急にポコッと上半身を上げた。


「なら、皆を殺す代わりに、俺を家畜にしてくれないか?」

「けものぉーーー!!」


従者の女が怒りの雄叫びをあで、カイルのお腹に剣を突き立てようとした。


「何か考えがあるってこと?カイル!」


ナナミの殺気はカイルの思わぬ復活と言葉で拍子抜けしたようにすっかりと無くなっていた。アンもカイルが生きていて一安心したが、カイルの言葉があって不安が取れないでいる。


「どうして生きている?余は不愉快だ。そのまま殺せぇー!」

「待ちなさい!」


カイルを撃った張本人である男の妹が止めた。


「これでは、お前は一人前になれないんだぞ!」

「兄様の物より、使えそうだから、その獣は妾の家畜にしたいのです!その代わり、逆らったり、使い物にならなくなったらすぐに殺処分しますから」


しかし、妹の兄は妹の言葉に納得していない様子。


「その獣はダメだ!お前の家畜にふさわしくないから殺して、他のにしろ」


妹は倒れている兄の家畜にレーザー銃を向ける。


「それなら、兄様の家畜はもう使い物にならなそうなので、妾が処分します」


妹は家畜の男の頭の辺りに照準を合わせ、引き金を引こうとした。


「ケンカしてんのか?」


兄と妹のやりとりをぼんやりと見ていたが、ヒートアップしたので、カイルは口を開いた。


「獣は黙れ!」


従者の女に勢いよく、剣の柄を落とされる。


「うぇー!!」


カイルは吐く声を出した。妹は引き金を引きレーザーを発射するが、それは当たることなく、横に辺りに軌道がずれた。兄は妹が本当に撃つとは思わず驚いて、慌てて妹を止めようとする。


「妹に家畜を殺されるのはみっともない。止めてくれ。わかったから、その獣を家畜にしていい。おい!もう帰るから船を呼べ」


兄は従者の男にさきほどの大きな浮遊物体を呼ぶように命じた。


「よろしくなぁ!」


笑顔で自分の主人になった女に挨拶するカイル。


「家畜が軽々しく口を開くでない!」


カイルは歳があまり変わらない主人の女から鞭を打たれてしまうが、痛がる様子もなく逆に笑顔だった。それに対して、主人の女は無表情。従者の女は家畜になったカイルを鎖に繋ごうとする。


「逃げるつもりはないから、いらない」

「これは家畜である証。逆らうことは許されない!」


従者の女はカイルの態度に怒り、剣をカイルの首筋に当てて従わせようとするが、人差し指で止められてしまう。カイルの人差し指から血が滲み出た。


「わかったよ!仲良くいこうよ」


カイルは大人しく首に鎖を繋がれる。


「妾はやっと家畜を持てた。うれしい!」

「おめでとうございます!」


主人の女は家畜を持てたことに感激し、それを笑顔で祝う従者の女だった。


「家畜!家畜らしく四つん這いになれ。これから妾の許しなく立つことは許されない」


カイルに鞭を振い、家畜を躾けようとしていた。カイルは抵抗することなく、四つん這いの姿になる。


「ワンワン!」


笑顔で犬の真似をするカイルだった。やがて、この集落の上空に大きな浮遊物体が飛んでくると、カイルはキラキラと目を輝かせている。倒れている家畜の男と壊れた浮遊物体は回収されると、上空の大きな浮遊物体から真下に青白い光がカイルと主人の女と従者の女、従者の男に抱きかかえられている男、家畜の男の計6人の集まっている辺りを包みこむように落ちた。すると、六人と壊れた浮遊物体がふわっと浮かび始める。


「降ろせ!」


地面から離れた途端に抱きかかえられている男は従者の男から降りる。カイルは下にいるカイルとナナミの方を見る。


「二人共、急にごめん。後はよろしくなぁー!」


大きな声で二人に言った。隠れていたアンとナナミは飛び出て、カイル達が浮かんでいる上空を見上げる、カイルの言葉にうなずく。


「うん!」


カイルはそれを見て、笑顔でうなずき返した。そして、大きな浮遊物体の近くまで浮かび上がると中に吸い込まれていった。


「こんなことをされて、一矢報いてやんないと気が済まない!」


ナナミはショットガンをカイルが吸い込まれていった浮遊物体の下側に銃口を向け照準を合わせる。


「みんなを護るために身代わりになったのに!」


アンはナナミを止めようとするが、ナナミは引き金を引いた。命中したようだが、気づいていないのか大きな浮遊物体は山脈の方向へ飛び去っていった。


「カイル!」


アンは泣いて、飛び去った方を見ている。一矢報いたナナミは満足したのか少し考える様子を見せ、表情を引き締める。


「みなさんにお話したいことがあります」


膝まついて、絶望している者やいなくなって一安心している者、傷ついた仲間を手当てしている集落の民にナナミは冷静にとある話しを切り出した。

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