4.浮遊と神の御使い

 翌朝、朝日が昇り、辺りが明るくなると、朝食の為にカイルは昨日の川へ魚を獲りに行き、三人分の魚を捕まえ、二人がまだ寝ていた寝床である石積みのある所に持ち帰った。ナナミは起きていたようで腕立てやスクワットをしながらトレーニングをしている。やがて、アンも目覚め、三人で魚を焼いて食べた。そして、目的の集落に向けて出発し、しばらく歩くと高めの丘が見えてくる。その丘を登り頂上に着くと、一人を除き信じられない光景を目にした。


「どうして?・・・」


ナナミがその光景を見て、呟いた。丘から左は巨大な山脈と右に海が、前には目的と思われる集落がまだ小さく見えるがそれが問題ではない。よく見ると左にある巨大な山脈の上空付近に生き物の動きとは思えない浮遊物体が浮かんでいた。それがやがて、目的の集落のある方へ動いていく。


「なんだあれ。面白そうだ!」


カイルは得体の知れない浮遊物体を見て、ワクワクしている様子だった。


「え!もしかして・・・」


アンは山脈の方からきたことに憶測を浮かべ、不安がる。


「UFOがなんで?」


ナナミはビックリした表情で、浮遊物体の正体に当てはまりそうな呼称を呟いた。


「(昨日の円盤の絵の形とそっくり。やっぱりあれはUFOだったの?)」


昨日の石積みの中の壁に描かれてあった絵に似ていたことをナナミは思い出した。


「あれを知っているのか?ナナミ!」


カイルは好奇心いっぱいの目をしながら、ナナミに聞く。


「翼をあるのは、よく見るけど、翼がないのは私も初めてだわ」

「そうかぁー!面白そうだから早くいこうぜ」


そう言うと、好奇心を抑えられないカイルは丘を下ってあっという間に先へ行ってしまう。


「勝手に行かないで!」


ナナミはカイルにそう言うが、カイルの耳には届かない距離の差になってしまい、慌てて追いかけるナナミとアンだった。得体の知れない浮遊物体は目的の集落の真上に到達し、停滞していた。


                 ※ ※ ※


 集落の上空にいる円盤型の大きな浮遊物体から青白い光が真下に落ちると、そこから5人が地上にゆっくりと降りていく姿が草原を早いスピードで走るカイルは見える。


「どうなってんだ?すごいなぁー!」


見たことがない様子にカイルはワクワクが止まらなかった。


「きゃあーーー!」


目的の集落の近くに行くと女性の悲鳴が聞えてくる。


「ん!どうしんたんだ?」


カイルには意味がわからなかった。何事かとゆっくり近づく。


「遅いなぁー!」


後ろを振り向いて、アンとナナミが来る気配が無いので、カイルは中の様子が気になり先に一人で集落に入ることにした。中に入り悲鳴が聞えた方向に近づくと集落の広場に5人の前に数十人の集落の民が膝まついている姿が見え、中には数人が血を流し倒れていて、子供や赤子も含まれている。集落の民はそれでも膝まつき、絶望し恐怖している様子だった。その集落の民達の前に人間一人分を乗せられる浮遊物体にそれぞれ男女二人が乗っていて、二人の後ろに中装鎧をきた二人の男女が控えている。最後の四つん這いになっている男は浮遊物体に乗る男に鎖で繋がれていた。


「我々、神の使いにおまえらのような獣が顔を見せるな!我らの質問に答える以外、声も出すな!」


後ろで控えている30代くらいの若めの男が、集落の民の前に出て、怒鳴ると、近くに膝まついていた老人を剣で斬りつけた。あまりの恐怖で集落の民から悲鳴も上がらなくなったが、一部には怒りを向けている者もいるが、それに気づいた浮遊物体に乗るレーザースーツの上にマントを着ている20代前半くらいの男は、銃を取り出した。銃口をその者の頭に向け、すぐに引き金を引くと銃口からレーザーが一直線に放たれ、命中し倒れてしまう。


「余達に怒るとは、獣の存在で何事か!人間でないお前達、獣がこの汚い土地で生きられるのは神と余達あってこそだぞ!」


自分達と存在の違いを集落の民に怒鳴りながら知らしめた。


                 ※ ※ ※


 一方、カイルは尋常じゃないシビアな雰囲気の時に、この集落の民が膝まついている後方の列で集落の民の真似をして同じように膝まつき、同化していた。


「なぁーなぁー?統領はどこだ?」


膝まつきながら能天気に自分の隣に膝まついているこの集落の民に統領がどこにいるか聞くと、当然驚かれる。


「よそ者がどうしてここに?それもこんな時に」


カイルが外から来た者と気づかれるが、しつこいし神の御使いに自分達のことが気づかれるとまずいのですんなり前の方にいると首を動かして示した。


 一方、ナナミとアンの二人も目的の集落に到着するが、悲惨で理不尽な光景を目の当たりにする。さすがのナナミも恐怖になり、アンと共に気づかれないように集落の住居を物陰にして隠れた。そこから、カイルが集落の民と一緒に膝まついている姿を見つける。


「なにやってんの?」


アンとナナミはカイルの姿に嫌な予感しかしなかった。


「神の御使い様だよ!」


アンは膝まついている集落の民の前に立っている存在が何のか状況と様子を見て、神の御使いだと理解し、不安な顔をする。


「神の御使い?その御使いがあんな殺戮魔なわけないでしょ!変な恰好をした人間よ!」


「神の掟に逆らった罰で・・・」


ナナミのこの世界に来て、神の御教えと掟について聞かされたが、正直まゆつばものだと信じていなかった。しかし、実際に理不尽な光景を見て、恐怖していたが、それが、段々と神の御使いに対して怒りがこみ上げてきた。


「そこの獣、余の前に来い!」


場面は戻り、浮遊物体に乗っている男は自分の近くに膝まついている青年を見つけ、命令した。しかし、恐怖のせいでその青年は動けない。


「なにしているの?早くご命令に従うの!」


この集落のシャーウーが青年に向けて、叱責する。


「うるさいぞ!獣」


そのシャーウーに浮遊物体の乗っている男は叱責すると、怯えて地面に頭をこすりつけた。その青年は震えた状態で神の御使いに自分の顔を見せないように前に行き、膝まつく。


「まぁーよい!お前は妹が一人前の儀式を終わらせるための生け贄になれる。喜べ!」


その男は笑みを浮かべ、隣に同じように浮遊物体に乗っている妹の方を見た。


「妾の生け贄になれることは獣として名誉なこと。感謝するがよい!」


浮遊物体に乗っている男の妹は一部露出のあるレーザースーツの上にマントを羽織っていて、髪はロングヘアーで顔にはメイクをしているのが特徴的だった。


「妾の鞭を!」


後ろに控えている自分と歳があまり変わらない女に命令する。控えている女は鞭を取り出し、丁寧に渡した。すると、青年におもいっきり鞭を打つと打たれた青年は大声で苦痛な悲鳴を上げる。


「ああああっーーー!!」


青年には激痛過ぎて、どうしようもなく地面に倒れ込み、苦しい表情を見せるしかなかった。


「妾に獣ごときが汚い声を聞かせるでない!!」


青年はさらに容赦なく鞭を打たれてしまい、着ている服は鞭で破け、身体は傷だらけになってしまった。


「お兄ちゃん!」


その姿に後ろに膝まついていた青年の妹は涙を抑えようと意識するが、それでも泊まらなった。周りの集落の民からは「泣くな!我慢するんだ」と小声で注意される。それを少し離れた住居の物陰からも涙を浮かべ、歯を必死に食いしばっていたナナミがいて、今にも飛び出しそうな雰囲気だった。


「みんな死んじゃうよぉーーー!」


ナナミの片手を必死につかんで、止めているアンがいるが、力が弱いのでそろそろ抑えるのが限界に来ている。


「クスン、クスン」

「ん?」


浮遊物体に乗っている男は涙の音が耳に入ってきて、どこから聞こえてくるのかを探すと青年の妹を見つけてしまった。


「おい!余達の前で獣のメスがぁーーー!」


怒りで、青年の妹に銃口を向ける。


「この僕を!どうか、妹だけは!」


傷だらけの身体で青年は、妹を殺さないように必死にかばおうとした。


「ふざけるな!獣」


しかし、後ろに控えている女は妹をかばう青年に怒りがわき、青年を殴り飛ばした。


「お兄ちゃんーーー!」

「獣ぉーーー!いい加減にしろぉーーー!!」


浮遊物体に乗っている男はこれ以上無礼に耐えられず、泣き叫んだ青年の妹に怒りに任せてレーザーを発射してしまう。しかし、それが命中することは幸い無かった。当る直前で、カイルがレーザー軌道上に人差し指を動かして、レーザーを軽く弾いてしまった。そして、カイルは集落の民が膝まついている中で立ち上がる。


「この集落の統領は誰なんだ?伝言を伝えに来た!」


空気を読まない場違いなことを言うのだった。

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