第7話 まどろみのなかへ
なにごとかと思ったが、すぐにその答えがわかった。
ミアの後頭部はぱっくりと開いており、そこに大量のケーブルがつながれている。
このまま強引にひっぱればケーブルが抜けて、呼吸や運動をつかさどる脳の大半を失っている彼女は死んでしまうだろう。
「リー、このカプセルごと運ぶことはできるか?」
「無理よ。カプセルそのものに脳の代替機能はないもの」
「ならサーバーごともっていけば」
「それも無理。こんな大きなもの運べるような設備も人員もいないわ」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
俺が叫ぶと腕の中から「兄ちゃん?」というか細い声が聞こえた。
見ると腕の中で、ミアがうっすらと目を開けていた。
「お兄ちゃん……どうして……?」
「お前を……連れ帰りに来たんだ……」
「ダメだよ……そんなことしたら、世界がめちゃくちゃになっちゃう」
「でも、俺はっ……!」
こらえきれず涙がこぼれる。
ミアの手が俺の頬に添えられ、そのあまりの冷たさが余計に悲しくて、止められなかった。
「わたしは大丈夫。ここでみんなを見守るから」
「ミア……」
「もちろん、お兄ちゃんのことも見守るよ? だから、泣かないで」
「……なぁリー」
「なに?」
「俺はやっぱり……ミアを一人にはできない」
「お兄ちゃん?」
「そう……」
「どうすればいい?」
「……いまこの装置のシステムにアクセスしたわ。どうやらカプセルの中に入れば、後は思考に関係ない部分の脳が自動的に摘出される仕組みみたいね」
「そうか」
「お兄ちゃん、ダメだよ。お兄ちゃんは帰らなきゃ」
「お前が寂しがってたことは知ってる」
「え……?」
「でなきゃ、俺はここにいない」
ミアはこの世界の全ての運命をつかさどる存在だ。彼女が望まなければ、俺の野望はとっくに潰されてここにたどり着くことはできなかった。
「お兄ちゃん……」
「俺はもう眠りたいんだ。なぁミア、いいだろ?」
「……うん……」
俺はカプセルの中に入りミアを抱きしめながら目を閉じた。
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