29話 私、公爵令嬢になる!!

 私が、ただのソフィアとなってから、2週間が経った。


 その間に、サライファル王国はいろんなことが変わった。

 

 まず、第2王子の婚約者であった私が、貴族令嬢でなくなったため、必然的に、婚約破棄となった。まあ、第2王子ラファエルはイケメンだから、引く手数多あまただろうけれど。婚約者がいなくなり、ラファエルの元には、たくさんの令嬢の肖像画が毎日のように、何百と届けられているのだとか。聖女様セレンは、これぞとばかりに、ラファエルにアタックしているという噂だ。ただ、当の本人はそれに見向きもしないそう。

 あまりに女性に見向きもしないことから、ラファエルは、実は男色だという噂まで立っている。


 次に、ライトフォード家の事実上の取り潰し。私を連れ戻すことができず、さらには勝手に絶縁までしたため、だという。他にも、お義母さま、いや、もう違うか。まあ、お義母さまが、他家のお偉いさん方と不倫、賄賂の受け渡し、その他諸々まあ、色々犯罪を犯していたそうで、それも相まって、お取り潰しとのことだ。アイティラは、予定通り男爵家の養女となり、可愛らしい容姿に惹かれる男性は少なくなく、社交界の花として活躍している。私にも3日に1度手紙をくれる。そりゃあもう可愛い妹だ。



 そして、私はというと。公爵令嬢になろうとしていた!!





 事を遡ると1週間前__。





 「フアンシド!!」

 

 私は、ライトフォード家と絶縁ができた報告を、フアンシドにしようとしていた。


 「シノアちゃん!!本当にやっちゃったの!?」

 「え?そうよ」

 「まじかよ・・・・・・」

 「フアンシドのアドバイスのおかげよ!!本当にありがとう!!」


 ははは、とフアンシドはなぜか苦笑いをしている。


 なぜかしら。私はこんなにも感謝しているのに。家族との絶縁を提案してきたのはフアンシドの方よ?


 「これで、私、ラビンス王国へ行けるのよね?」

 「ま、まあね」

 「でも、貴族じゃないとリュカに会えないわよね?」

 「ま、まあね」

 「う〜ん。誰か養女募集してないかしら?」

 「養女募集、養女募集、ねえ」

 「ええ。美少女で、魔力もあって、剣術も、体術もできるわ。こんな優良物件、他とないわよ」  

 「いや、それは分かってるんだけど」

 

 う〜んとフアンシドは頭を抱えている。1分ほど頭を悩ました後、フアンシドは急に、あっと声を上げた


 「何か思い出したの?」

 「半年ほど前かな?忘れたんだけど、ラビンス王国で国王の次に権力を持つ、いや、場合によっては国王を凌ぐほどの権力を持っている、公爵家、セリラウス家を知っているかい?」

 「名前は、聞いたことがあるわ」


 セリラウス家。その名前は、誰しも1度は聞くことだろう。セリラウス家は、バリバリの武闘派で、高い魔力、身体強化魔法、体術、剣術、魔術、全てにおいて秀でている公爵家だ。もちろん、魔物との共闘も、何なりとこなす。全てが人間離れしすぎていて、魔物と人間が交わってできたのではないかと言う噂まである。


 「その、セリラウス家がどうかしたの?」

 「今の当主、周りが引くくらいの愛妻家なんだけど、子供がいないんだよね」

 「へえ」

 「へえ、って。でも、セリラウス家の血が途絶えるわけにはいかないから、魔力が高く、身体能力が高い20歳未満の子を養子に取ることにしたらしいんだよ。貴族、平民、性別関係なく」

 「でも、半年ほど前のことでしょう?そんなに有名な家なら、養子なんて余るほどいるんじゃないの?」

 「それが、決まっていないんだよ。確か」

 「なんで?」

 「今の当主のロレンツォ・セリラウスが、曲者くせものすぎるから」

 「どう言うこと?」

 「養子になるための条件、さっき言ったんだけど、その他に、彼と勝負して、勝てたら、彼に攻撃を当てることができたら、養子にしよう、と言うこと」

 「そんなの簡単じゃない」

 「簡単に言うけど!彼は、セリラウス家最強と呼ばれる男だよ?」


  よーしと私は腕を上げる。

 

 「フアンシドが言いたいことはわかったわ。私、公爵令嬢になる!!」

 「・・・・・・え?いやそんなことは言ってない!!」

 「フアンシド、ありがとう」


 私は、フアンシドの手を掴んで、大きく振る。


 「い、いや。シノアちゃんのためなら」

 「この恩は忘れないわ。何か、お礼がしたいわね。何か、ほしい物とかある?」

 「・・・・・・う〜ん。あ、なら、俺も、ソフィアって呼んでもいい?」

 「え、そんなこと?いいわよ、別に。好きに呼んで」

 

 フアンシドは、今まで見せた笑顔の中で、とびきりの笑みを浮かべて、ありがとうと言った。


 


 私は、サライファル王国での壁は、すべて、取り払ったと思っていた。



 ただ、最後の壁が、とてつもなく、高く聳えそびえ立っていたことに、私は気づかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る