28話 私の推しは私のもの〈side セレン〉

 〜時は同じく、サライファル王国では〜


 

 おかしい、おかしい、おかしい、おかしい!!


 「・・・・・・っ。ラファエルさまを呼んで!!」

 「かしこまりました」



 私は、川越星恋かわごえせれん。読モをしている、他の子とは違う、特別な女の子。茶色のふわふわの髪の毛に、思わず守りたくなるような、160センチにも満たない身長に、高校でミスコングランプリを獲得した、この可愛らしい顔。


 私の人生は、完璧だ。100人以上の男子に告白されてきて、頭もそこまで悪くはなくて。都内の進学校にも進学できて。芸能事務所にスカウトされて読モデビューして、完璧すぎる人生。


 それなのに・・・・・・。


 「それなのに、なんでっ。リュカが、私のリュカが、悪役令嬢のとこなんかにいるの!?」


 リュカは、巫女戦で、私のイチオシだ。それなのに、なんで、今、この国にいるの?そして、なんで、悪役令嬢を守っているのよ!?


 おかしい。おかしすぎる。だって、私は、ヒロインだ。“巫女戦“のヒロインだ。ヒロインは、絶対に幸せになるはず。絶対に、攻略対象者である人たちと、結ばれるはず。イケメンたちに愛されて、どろっどろに愛されて、そして、幸せになるはず。それなのに、なんで!?


 「なんだい?俺に用とは」

 

 誰もが、彼は不機嫌だとわかるような、そんな、不機嫌さを隠そうともしない、彼の態度。おかしい。そこは、とろけるような笑みで、なんだい?セレン、という場面でしょう!?


 「あ、ラファエルさま。早くあの女と婚約破棄して、私と結婚しましょう?」

 「・・・・・・。ソフィアは、ソフィは、ライトフォード家から絶縁をされた」

 「えっ!?」


 なにそれ。なにそれ。知らない。知らないわよ。そんなの。原作にはなかったはずよ?だって、あの人が退場するのは、ラファエルに婚約破棄をされてからでしょう?


 「それが、どうしたっていうの?」

 「君のバカな頭脳ではわからないか。この国の法律で、王族は、貴族令嬢か、王族の中からしか、結婚相手を選べない」

 「ということは、あの人はラファエルの婚約者ではなくなったということね!!」


 そうよ。これが、あるべき形よ。


 「ラファエル様。これでようやく私たち、結ばれるのね」


 ラファエルの胸に飛び込もうとした瞬間、私はラファエルに突き飛ばされた。


 「なにを言っているんだい?俺は、君を好きになったことはないし、君を婚約者にする気はない。いくら星の巫女だからといって、俺は、そんなもの必要ないと思っている」

 「なっ・・・・・・」

 「それでも、君をここに置いてるのは、まだ利用価値があるからだ」

 「そ、そんな言い方しなくても・・・・・・」

 「用はそれだけかい?」


 そう言って、ラファエルは部屋から出ていった。


 私は、へたりと床にへたり込む。


 おかしい。おかしい。おかしい!!なんで、こんなに、思い通りにならないの?


 おかしい。おかしいわよ。


 リュカは、王弟に殺されそうになって、記憶を失っているはず。それでも、ソフィアと会うことはない。ラファエルも、自分勝手なソフィアを嫌っているはず。それなのに。なんで?


 おかしい。おかしい。おかしい!!

 

 だって、私は、この“巫女戦“のなのよ?


 私が、この世界を、この物語を、この人物たちを、作ったのよ?私が。


 

 いろんなものに恵まれてきた私だけど、男運と、家族だけには恵まれなかった。今まで付き合ってきた男たちは、私の体や、顔目当て。両親は、互いに不倫していて、私が家に帰ってきた時に、2人とも家にいたことなんて、一度もない。もちろん、温かいご飯を作ってくれたことなんかもなくて。


 だから、作った。



 “私が絶対に幸せに慣れる”環境を。



 ハッピーエンドは好きだ。小さい頃から。まだ私に優しかった母が、私に読み聞かせをしてくれた、シンデレラ、白雪姫、エトセトラ。大体、虐げられてきた女の子たちが、王子様に愛されて、最終的に幸せになる話。最後には、いじめていた人たちも、報いを受ける。それゆえの、ハッピーエンド。


 だから、巫女様の下剋上大作戦。これは、いわゆる、私が幸せになる話だ。私の作ったリュカ推しは、私の、私だけのもののはずだ。


 それなのに、それなのに!!


 なんで私は今、幸せじゃないのよ!?



 「ふふふふ」



 星の巫女だからといって、私は、今、綺麗な部屋で、綺麗なドレスを着ているけれど。私が望んでいるものは、そんなものじゃない。


 「私は、この世界を作ったのよ?シナリオを変えるなんて、造作もないことだわ」


 シナリオが変わった。それが、どういうことなのか、そのくらい、私でもわかる。


 誰かが、いるということ。“転生者”が、いるということ。


 だから、シナリオが変わる。


 成績が、中の下だった私でも、予測はつく。転生者は、悪役令嬢である、ソフィアだ。そうだ。そうだ。絶対にそうだ。そうじゃないと、おかしい。そうだったら、全部、納得がいく。ラファエルが、なんであんなにソフィアにベタ惚れなのか。なんで、リュカが、ソフィアを守っているのか。なんで、ソフィアが、ライトフォード家と絶縁したのか。


 それも全て、自分のバッドエンドを回避するため。そうでしょう?



 でも、見てなさい。私は、ヒロインよ。ソフィアあなたは、悪役令嬢。いずれ、報いを受けてもらわねばならない存在よ。

 

 

 そして、私はペンを取る。このシナリオを、書き換えるために。


 私が、幸せになる運命を、掴む。いや、作るために。



 

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