20話 必ず、会いに行く。
1週間後
ラビンス王国の国王、テオ、カサライム王国の重鎮たちが帰国した、という情報が入った。リュカはテオに会ってしまったが、もう1人の最重要人物だったアルトゥールに会わずにすみ、私的には、満足する結果だ。
あれから、リュカは1日中寝込み、回復した後は、なぜか自分の部屋にこもって、全く出てこない。エイデンは、ミアに、しごかれ、しごかれ、しごかれ。ライとリーゼは子犬と子猫の姿になって、ずっと私にくっついてくる。それがまた可愛くて可愛くて。
そう!あれから、私が街へ出た時、フアンシドに絡まれるようになったのだ。
「シノアちゃん、
「ねえねえ、
「はい。
「街の方にね、新しい店ができたらしいんだけど、それが、スパイスカレーの店なんだって!!」
なんでかしら?珍獣扱い?リディアからはいいな、って言われるけど、私からしたら、え、どこが?なんですよ。でも、まあ、一応、付き合ってあげている。食べ物に罪も恨みもないしね。うん。エイデンは、食べ物に釣られてるだけじゃん、って言われたけど、そんなことはない。私は、損得勘定で動いているのだ。
それにしても、“誘惑の森の魔女”という通り名は、結構広まっているそうだ。街でも、魔女が下りてきたぞ、という声を聞くっちゃあ聞く。
「ソフィア」
「何?リュカ」
「ちょっと、出かけないか?」
リュカが1週間ぶりに顔を見せたと思ったら、リュカから誘われるなんて。珍しい。リュカは騎士団の仕事がない時は、大体家にいるもんだから。バリバリのインドア派ね。
「いいわよ。行きましょう。ちょっと準備するから、待ってて」
「・・・・・・・・・・」
「何よその沈黙。あのねえ。私もね、女の子なの。準備は必要。わかった?」
「ああ。女心は難しいってやつだな」
ドヤ顔で言い放ったリュカ。まあ、そうだけど、そうじゃない・・・・・・。
急いで自分の部屋に行き、悩みに悩んだ末に、シンプルな水色のワンピースに、白のカーディガンを羽織る。髪は一つに結んで、メガネは・・・・・・いらないか。髪の色は変えるけど。
「お待たせ」
「じゃあ、いくか」
リュカは外で待っていたドラゴンに乗った。そう。リュカは、自分の使い魔として、ドラゴンの召喚に成功したのだった!!ドラゴンを召喚できるなんて、天才か。天才だな。ドラゴンは、上位精霊のそのまた上をいく。1万人に1人が召喚できるかどうか、なのだ。属性は、【闇】と【氷】いかにも、リュカらしい。名前は、“アルカリス”一瞬、アク○リアス?って思ってしまった。ザラームがものすごーく嫉妬しているらしい。
「じゃあ、乗って」
「はい?」
「乗る、アルカリスに」
ドラゴンに、乗れと。
「私、何か恨みを買うようなことしたっけ?」
あ、あの時怒ったこと?ごめん、謝るわ。
「そういうことじゃなくて、こっちで言った方が早いから」
「ああ。そういうこと。でも、私が乗って大丈夫なの?」
ほとんどの使い魔は、自分の主人以外を背中に乗せたりすることはない。
「大丈夫だろう。妖精姫なんだから。それに、アルカリスも嫌がっていないし」
「そ、そう?なら」
リュカの後ろに腰掛ける。ドラゴンって、すべすべしているのかな、と思ったが、意外としていなかった。どっちかというと、ザラザラ系?それでも、乗り心地は悪くない。アルカリスの背中をペタペタと触っていると、急にリュカに手首を掴まれた。
「えっ、何?あ、もしかして、アルカリスに触ってほしくなかった?ごめん」
「そうじゃなくて。しっかり掴まっておかないと、落ちて死ぬぞ」
「掴まるって・・・・・・」
誰に?と言おうとしたが、急にグンとアルカリスが飛んだ。私は反射的に、リュカの腰に手を回す。
「キャーーー!!!!」
私らしくない女の子らしい声をあげる。
いや、多分、男の人でもそうなるわ。だって、飛んでるんだよ?めちゃくちゃ揺れるし。足場はないし。
ってか、リュカって結構筋肉あるのね。見た目だけじゃなくて。だなんて場違いなことを考えて、気を紛らわす。
「ソフィア、下」
「下が何?」
「見てみろ」
「怖くて無理です!!」
「いいから。落ちても俺が助けてやる」
「そりゃどうも」
下に何があるのよ?と思いながら、覚悟を決めて下を見る。そこにあったのは、街だ。よく、ジ○リとかで見る、きれいな街。いいな、こんなところに住んでみたいな、って思ったことは、日本人なら1回はあるだろう。
たかが街だって、思うかもしれない。ただ、ずっと閉じ込められて生きてきた私にとって、それは、多分、夜中に見る星空よりも、胸にくるものがあった。
たくさんの人が働いていて、生きている。私たちが住んでいる森は、なんか、場違いっぽい。
「・・・・・・これが、見せたかったの?」
「いいや。これもだけど」
アルカリスが地上に降りる。
そこにあったのは、綺麗な、お花畑。
「お花畑なら、森にもあるわよ?」
「違う。こっちだ」
リュカに手を引かれていくと、そこには1本の大きな木が。
「これ、どうしたの?」
「ソフィアが前に言っていた、“サクラ“だ」
「桜?えっ、桜って、あの桜?」
「あの、がどれを指しているかは知らないが、ソフィアから聞いた話をもとに、作ってみた」
えっ、なんか、寿司を作ってみた、的なテンションで言われても。
この世界に桜はない。ただ、1度だけ、桜という木で、ピンク色の花を咲かせる植物を見てみたい、といった、記憶がないこともない。
でも、たった情報がそれだけで、桜って作れるものなの?てか、まず作るものなの?
「俺の予想では、春には咲くと思う。失敗していなければ」
「へえ。じゃあ、その時は、花見をしに来ようよ。ミアたちも連れて。全員で」
ねっ、と言ってリュカの顔を見る。するとリュカは、ものすごく切なそうな、痛そうな、愛おしいものを見るような、そんな、たくさんの感情が混じりあったような顔をしていた。
「あ、そうだ。これ」
「何?」
「誕生日、プレゼント」
リュカがポケットから取り出したのは、小さな、箱。
「開けても、いい?」
「え?あ、ああ」
小さな箱を開けると、その中には、小さな、赤いルビーが取り入れられている、指輪だった。
「これ・・・・・・」
「俺、プレゼントセンスないから、散々考えた末に、女性から人気があるフアンシドに何がいいって聞いたら、指輪が喜ぶよって言われたから・・・・・・」
顔を真っ赤にして、どんどん語尾が小さくなっていくリュカ。可愛くて、愛おしくて、嬉しくて、私は、満面の笑みを浮かべて、ありがとう、と心から伝える。
「ほら、みて。とても綺麗。ずーっとつけておくね」
「ああ。似合っている」
正面から褒められると、照れるわ。それは、リュカがイケメンだからかな。
「あー。早く春にならないかなー」
「・・・・・・・・・・」
「リュカ?」
どうしたの?と言おうとした瞬間、私は、リュカに抱きしめられていた。ブワッと身体中が熱を持って、顔が赤くなる。
「リュ、リュカ!!どうしたの?え、何?」
「すまない。俺は、その時、一緒にいられない」
急に言い放った、その時、ということが、私が一緒に行こうね、と言った花見のことをさしているのだと、すぐにわかった。
「え、どういうこと?」
「本当は、ずっと、一緒にいたかった。でも、俺が一緒にいたら、ソフィアたちを不幸にしてしまうかもしれない」
「え?なんでよ。ねえ、リュカ」
リュカが、体を離す。
リュカが言っている話の意味が全く頭に入ってこない。ああ、もしかして。もしかして。
「俺、記憶が戻ったんだ」
バレてしまったのか。
「・・・・・・っ!!・・・・・・いつから?」
「あの後、決定戦の日の夜。あの、パーティーの時」
「・・・・・・・・・・」
「あの時、ラビンス王国の国王に会った。その時、そいつは、俺のことを、その国の第一皇子じゃないか、と言い出した。でも、俺には記憶がないから、違うと言ったら、ホッとしたように去っていった。ただ、そいつと一緒にいた宰相が、俺の記憶を取り戻せることができると言って、記憶を閉じ込めていた呪いを、解いたんだ。その時に、思い出してしまった。俺は、断じて、奴隷なんかじゃない。ラビンス王国の継承権1位の、第一皇子で、テオ叔父様のクーデターで、殺されそうになったことを」
「・・・・・・そう」
「宰相は、俺に、国に帰ってきてほしいと言った。もちろん断った。そんな国よりも、俺には、ソフィアの方が大事だ。ずっとずっと。でも、もしも、戻らないのであれば、大事な人たちがどうなってもいいのか、と聞かれた。いいわけがない。当たり前だ。その後、テオ叔父様、いや、テオが、その気になれば、すぐにこの国を滅ぼすことができる、と言った。嘘だろう、と思った。ただ、ラビンス王国は、“魔物と共存する”国。その気になれば、国の一つくらい、すぐに落とすことができる。だから・・・・・・」
宰相。あの、黒メガネか。
「・・・・・・リュカは、行っちゃうの?」
「騎士団も、やめた。たった3ヶ月で辞めるなんて、ってたくさんの人に言われたけど」
「・・・・・・ごめんなさい。ごめんなさい。私が、私が!!」
私が、先延ばししてしまったから。私が、私が。
ザラームを従えた時、実はリュカは、記憶が戻り欠けていた。ただ、私が、それを、封じたのだ。ファリー様の力を借りて。
リュカは、そのことを知ったのだろう。知った上で、何も言わない。なんで?とも、お前のせいで、とも。私が、傷つくと知っているから、言わない。10年くらい一緒にいたら、そのくらいわかる。悩んだんだろう。たった1人で。
リュカに腕を引かれたのと同時に、リュカの顔が目の前に見えた。
生温かいものが、唇に触れる。キスをされた、と脳が認識するまで、30秒はかかった。
リュカは、悲しそうに微笑んだ。
「好きだったよ。ソフィアのこと。ずっと前から。多分、これからもずっと」
突然のリュカの告白に、返事ができない。声を出そうと思っても、出せない。何か、重たいものが、喉に引っかかっている感じ。リュカの告白が、返事のいらない告白だって、わかるから、脳が、ストップをかけているのだろうか。
「なら、私が、行かないでって言ったら、一緒にいてくれる?」
「・・・・・・それは、できない。ごめん」
「なんで?なら!私が、一緒に行くよ。他の国に行きたいと思っていたし」
「・・・・・・俺が、今から歩む道は、多分、血に塗れた道になる。そんな道に、ソフィアを巻き込むことはできない」
「それでもっ!!・・・・・・」
「好きな人を、そんな目に合わせたくないと思うのは、当然だろ?」
「・・・・・・・・・・」
なんで、こんなに、心が痛いんだろう。どうして、こんなに悲しくなるんだろう。なんで?どうして?私の心の中には、なんで?どうして?が渦巻いている。
私が、シナリオを変えてしまったから、こうなったの?
リュカに顔を両手で挟まれて、無理やり顔を上げさせられる。
「忘れないで。俺が、一番好きな人は、ソフィアだけ。それは、これからも変わらない」
涙が、ポロポロ、ポロポロと溢れてくる。こんなに泣いたのはいつぶりだろう。この世界に来てきて、泣く、ということがものすごく減った気がする。
「じゃあ、もう行くから。ちゃんと食べて、よく寝て、幸せになって」
最後まで、私の心配をしてくれる。どうしてこんなに優しい人が、どうして、悲しい目に会わなければいけないのだろう。
アルカリスに乗って、リュカが飛び立とうとした。私たちの前から、完全に姿を消すつもりだ。
「リュカ!!」
リュカは、驚いたように振り返る。
「私、諦めないから!!リュカのこと。私、諦めの悪い女だからね!!こんな女を好きになってしまったのかって、後悔させるから!!だから・・・・・・、それまで、待っていて!!お願い!!1人になるだなんて、許さないから!!」
泣きながら、もう2度と会えない人を相手に、怒声を浴びせるだなんて、私くらいしかいないだろう。
「必ず、必ず、会いに行くから!!」
でも、私たちは、もう一度、会える、という確信があった。
リュカは、聞こえないくらいの声で、何かを言って、飛び去っていった。
でも、私には、わかる。リュカは、“待ってる”と言った。
それが、私がみた、“リュカ”という私の専属騎士の、最後の姿だった。
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