19話 バレた・・・・・・?

 リュカが優勝して、リュカは国王陛下ご夫妻への挨拶、セレンへの挨拶、他国のお偉いさん達への挨拶へと、引っ張りだこだった。テオにバレないよね、と思ったが、やはり、バレてしまった。いや、結果的にはバレなかった、と言った方が正しい。リュカには本当に記憶がないことに加え、アリバイ?ミアがいたので、ことなきことを得た。

 今もリュカはまだ挨拶が終わっていない様子だ。また、この後は王宮で優勝パーティーがあるようで、今日1日は帰ってこれないと思う。

 

 で、私はその間、ちょっと気になることがあるので、リディアと別れて、出かけている最中。

 コンコン

 誰もいなくなった闘技場、の隣の更衣室の扉を叩く。

 「はい。どうぞ」

 「失礼致します」

 中に残っていたのは、フアンシドだ。


 「君は・・・・・・!!」

 私に気づいたようで、私はコテンと頭を下げる。


 「その件はお世話になりました」

 「その件って、何もしていないけどね」

 「いえ。男性に抱き上げられるいい経験をしました」

 「そんな顔していないけどね。で、何の用事だい?」

 「足の手当てを」

 フアンシドは、なぜそれを?というような顔をしていた。

 

 リュカに吹っ飛ばされた後、フアンシドは、左足を引きずるような動きを、一度だけ、していた。だから、少しだけ、気になったのだ。本当は、会いたくなかったけど。会いたくなかったけど!!


 「こう見えて、私、薬師ですので」

 「ああ。君が、噂の魔女か」

 「はい?」

 「知らないのか?ここ3ヶ月前くらいには現れ、誰も入れないはずの誘惑の森に住んでいる魔女。街へ降りてきて、薬を売っている。宿屋の娘と仲良しだって」

 あ。私のことだな。うん、十中八九、私のことだ。


 「人違いではありませんか?いいから、早く足を出してください」

 鍛えられた、細くも、筋肉がついている足が、目の前に出される。


 「わっ。めちゃくちゃ腫れているじゃないですか」

 左足の足首のところが、そこだけまるで違う人の足のように、腫れ上がっていた。

 

 「本当だよー。リュカ君が容赦なしに吹っ飛ばすからね」

 私は、フアンシドの話を聞きながら、軟膏を塗って、包帯を巻いていく。


 「すいません。私、回復魔法かけられないので。でも、こっちの方が、ちゃんと良くなると思います」

 「へえ。初めて見たな。この薬」

 「風呂上がりくらいに塗っといてください」

 「え。適当!!」

 「そういえば、なんで、私だったんですか?」

 「え?何が?」 

 「借り物競走」

 「ああ。俺ね。こっち向いてこっち向いて!!っていう女子嫌いなの」

 は?フアンシドって、女遊びが酷いってことで有名ですけど?どの口が言って・・・・・・。

 

 「あ。今、どの口が言ってんだ?って思ったでしょ?」

 「・・・・・・っ。ええ」 

 「君ってさ、俺に全く興味ないでしょ?」

 「はい」

 「即答!!だからだよ。俺に興味のない子を振り向かせて見たいって思うのが男心でしょ?」

 え。違うと思います。

 

 「そうですか。では失礼します。もう会うことはないでしょうし」

 「えー、もう帰っちゃうの?」

 「私、平民ですので」

 「ふーん。俺はてっきり、幻姫だと思ったのに」

 「幻姫?」

 「そう。第2王子ラファエル様の婚約者にして、ライトフォード家の長女。なのに全く社交界に出てこない。しまいには、誘拐されて殺されてしまったという噂まであるお姫様の呼び名だよ」 

 サーと血の気が引いていく。私、幻姫って呼ばれていたの?

 

 「人違いでは?」

 「いいや。それに君、それ変装でしょ?」

 「・・・・・・・・・・」

 「図星ってところかな?」

 どうする?どうする?ここでフアンシドに正体をバラしてしまったら?

 

 1、フアンシドがラファエルにちくる→家に戻される

 2、フアンシドに監禁される→殺されるバッドエンド

 3、フアンシドに保護される→ヒロインに殺される

 

 ダメじゃん!!全部ダメじゃん!!どうしようどうしよう。

  

 「え。ちょっと。大丈夫?安心して。バラさないから」

 「え。なんでですか?バラした方が、あなたにメリットはありますよ?」

 「認めるんだね。ライトフォード家の御令嬢?」

 「・・・・・・ええ。確かに私は、ソフィア・ライトフォードです」

 「ていうか、よくそんな変装できたね。俺じゃなきゃわからなかったと思うよ」

 「なんで、私だってわかったんですか?」

 「骨格と、声かな?」 

 「私、あなたと会ったことありませんよね」

 「君とはね〜。でも、俺は、見たことならあるから」

 それだけで、わかるか!!普通。


 「幻姫が誘惑の森の魔女とか、笑えるね〜」

 「笑えませんけど」

 「てか、誘拐されたんじゃないの?」

 「偽装誘拐家出です!!」

 「なんで?」 

 「えっと、家にいるのが辛くなったのと、王子の婚約者という立場に耐えきれなくなったから?」 

 「どうしてそこ疑問系?ふーん。いやあ、ラファエルとリュカ君が心底惚れ込んでいた令嬢だから、どんな子かなって思っていたけど、いいね」

 「もう帰っていいですか?」

 「えー。もうちょっと話そうよ」

 「私的には話すことはないですけど」

 「冷たい!!氷のように冷たいよ!!まあいいや。じゃあさ、何かあったらいつでも頼ってきてね?ソフィア」

 「あいにく、私の名前はシノアなので」

 「じゃあいいや。シノアで」


 じゃあね、シノアと、私が部屋を出るまで、フアンシドはずっと手を振っていた。



 ◇◆◇



 

 翌日。

 

 「ただいま」

 げっそりとしたリュカが帰ってきた。


 「おかえり!!リュカ!!おめでとう!!すごいね。最強騎士だね!!」

 「お帰りなさいませ。リュカ様。この恨みはいずれ果たします」

 「リュカ様!!すっかり腹は良くなりました!!すごいですね、さすがです!!」

 「リュカ殿、表に出なさい」

 「決着をつけようではないか」

  

 「帰ってきてまずはこれか!!」

 あ。そうだった。

 「ねえ。リュカ。ごめん、フアンシドに正体バレちゃった」

 テヘッと舌を出して誤魔化そうとしたのだが、馬鹿かお前!!と言われてデコピンを食らってしまった。

 

 「ちょっと!!一応、私、あなたの主人でしたよね?」

 「今は違うだろ」

 

 リュカは私の正体がバレることを人一倍恐れていたから、こんなに怒っているのね。ありがとう。あなたは優しい子よ。

 

 「で、どうだった?パーティー」

 「疲れた。セレン様が片時も離さずについてくるから。しまいには、俺を専属騎士にするとか言ってきたんだぞ?」

 「え。断ったの?」

 「もちろんだ。あんな怖い女の騎士なんてできるかって話だ」

 「うわー。セレンかわいそ」

 

 セレンとは一回しか会ったことがないが、やっぱり、リュカ狙いなのかしら?


 まあいいや。

 

 「お疲れ。リュカ。かっこよかったよ!!」

 リュカは耳まで真っ赤にさせて、まあな、と言って笑った。美形の微笑みは天下一品ね。

 

 「あ。それより、リュカ。あの時のお題ってなんだったの?」

 「え?ああ、あれは・・・・・・」

 何を思い出したのだろうか。もっと赤くなって、忘れた!!と言った。

 

 「ええー、教えてよ」

 「あ。私見ましたよ?」 

 「え、本当?ミア、教えて?」

 「ええ。確かあれは、す・・・・・・」

 「ミアさん、黙っておいてください」

 すかさずリュカがミアの口を塞ぐ。

 「ええー。もったいぶらずに教えてよ」

 「そうだな。100年経ったらいいぞ?」


 この幸せなひと時が、ずっと続けばいいのに、密かに願った。

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