17話 国王陛下のハイテンション

あの市民予選から1ヶ月。いよいよ今日は、王国騎士最強決定戦だ。



 街は燃え上がるくらいの活気で包まれ、誰が勝つのか賭けている店もあった。

 試合に私以外全員出るから、もちろん楽しみ。リディアと見に行く予定だ。ただ、私には二つ、不安要素がある。

 

 一つ目。王国騎士最強決定戦は、サライファル王国だけではなく、他の国の重要イベントでもある。だから、他の国の大臣や、お偉いさんが王宮にたくさんきているのだ。もちろん、試合も観にくる。ラビンス王国の王、テオもくるのだ。テオは、リュカのお父さんを殺した人物で、リュカの叔父にあたる。そして、リュカを殺そうとした。間違いなく、リュカを見つけたら、殺しに来るであろう。私が、家出をするときに国外逃亡できなかったのは、このためでもある。

 

 そして、もう一つ。商業が物凄く発達している国、隣国、カラサイム王国の第1王子、アルトゥール・デイヴィス。ゲームではもちろん攻略対象者だ。ただ、他の人と少し違うところがある。それは、アルトゥールを攻略しようとしても、ほぼ100%の確率で、ハッピーエンドになることはないということ。アルトゥールはハーレムを築いていて、後宮に300人ほどの奥さんがいるという。貴族、王族、平民、町民、誰にでも手を出すそうだ。噂では、男性にも。そして、使い物にならなかったら、すぐに捨てるそうだ。そうして、心身ともに壊された人間が何人いることだろうか。一番やばい人間だと思う。悪役令嬢が国外追放された時も、リュカに殺されなかった場合、アルトゥールに。国外逃亡してしまって、アルトゥールに見つかってしまったら、終わり。しかも、他の国に逃亡しようにも、カラサイムを通っていかなければ、他の国に行けない。だから、国外逃亡は無理だと判断した。頑張ればいけそうだったけど。

 

 そのアルトゥールと、テオが今、この国にいて、しかも、騎士最強決定戦を観戦するという。私は、いや、リュカは、絶対に気づかれてはいけない。というか、アルトゥールに関しては、ミアも、リディアにも細心の注意を払っておかなければ。誰にでも手を出すからね。



 「シノア〜!!こっちこっち〜!!」

 「リディア」

 観客席は、もういっぱいいっぱいで、満席だ。闘技場には入れないから、街で歓声だけを楽しんだり、商売を頑張ったりする人たちもたくさんいる。その中で、観客席で見ることができるのは、リディアが前々日から席をとっておいてくれたおかげだろう。


 闘技場は、王宮と繋がっているから、その繋ぎ目の一番安全なところで国王夫妻やセレン、その他の国のお偉いさんは観戦するそうだ。貴族のお嬢様方や、もちろん、テオやアルトゥールもそこに・・・・・・。アルトゥール?え、アルトゥールがいない!?どこいった?


 まあ、でも私はいつもより変装にこだわったから、私が狙われることはないでしょう。流石のリュカも、げ、と発したほどだから。化粧までしてるからね。そばかす作って、目のくままでも作って。これでもしラファエルとかが見ても、バレないだろう。


 

 急に、会場の周りから火が噴き出した。火の噴水、みたいな。その火が空の上で1つにまとまり、光を放つ。その光景が、とても綺麗だ。

 「綺麗だね」

 「これが、リディアの言っていた、派手なやつ?」

 「そうそう。前はもっとすごかったけどね」

 「ふーん」

 私は、この祭りの時、外に出ることが許されなかったからな。お義母様おかあさまたちだけ王都に行って、私は毎年お留守番。いつもは簡単に抜け出せるのに、この日だけ、いつもいつも、たくさんの騎士が家を取り囲んで、しまいには結界まで貼ってあったから、私でも抜け出すことができなかった。


 「あーあー。テステス。えー、長らくお待ちいたしました、これより、第○回サライファル王国騎士最強決定戦を行います。拍手!!」

 あ、これ、言われて拍手するやつね。ああ。

 って、国王陛下!?なぜ!?え、あそこって、実況席だったの?

 「では、参加する騎士に登場していただきましょう。まず、市民予選を勝ち抜いた、強者ども、動物マスク、ドッグアンドキャット!!」

 え、どんな名前よ。

 出てきたのは、こないだと同じ動物の仮面を被って出てきた、ライとリーゼ。めちゃくちゃドヤ顔で出てくる。

 「最強の侍女、ミア!!」

 ミアは何かものすごくデカくて重そうな剣を担いで出てきた。なにする気!?

 

 そのあと何人かの他己紹介(エイデン含む)を経て、

 「颯爽さっそうと現れ、女の子達の心を掴んでいる、リュカ!!」

 「あ、来たわよ。リュカだわ。リュカ〜!!」

 ついにリュカが登場した。

 私は精一杯大きな声でリュカの名を呼ぶ。リュカは、やっぱり来たか、というような顔をして、こっちを向いて笑った。それが魅力的で、卒倒する女の子が何人現れたことか。


 「騎士の星兼、女の子達の星、フアンシド・オリバー!!」

 フアンシドがこりゃまたドヤ顔と甘い笑みを浮かべて、堂々と登場してきた。

 その時の歓声と言ったら、今までで一番。鼓膜が破れるかと思った。リディアが耳栓を持ってきてくれたおかげで助かったけど。

 ていうか、よく耳栓あったね。リディア曰く、毎回フアンシドが登場してくるときは、歓声で倒れる人が続出するから、常備しているそうだ。

 

 「最後は、私の自慢の息子であり、第2皇子である、ラファエル!!」

 ラファエルは、王子様スマイルをばら撒いて出てきた。女の子達はもうパラダイス!!みたいな顔をしている。でも、ラファエルになんかうっすら目の下にクマがあるような・・・・・・?まあ、そんなわけないか。


 これで参加者全員が揃った。闘技場の真ん中にバラバラと散らばっている。


 ていうか国王陛下、よくこんなことできるわね。あれ?そういうキャラだったっけ。


 「ではここで、この国に参られた、巫女様、ご挨拶を」

 急に声のトーンが落ち、真顔になった。

 観客席がざわざわと混乱しているのがわかる。セレンは、水の精霊のような、水色のフワッとしたワンピースを着ていた。

 

 「こんにちは!!私は、セレンと言います。巫女?とかよくわからないけれど、皆さんの助けになればいいな、と思っています。ラファエル様は今、婚約者をなくされたばかりなので、みんなで支え合っていきましょう。これからよろしくお願いします。」

 

 言った瞬間、ラファエルの頭に青筋がピキッと浮き出た。

 どうした王子様!?

 ああ。セレンが未来の王太子妃宣言をしちゃったから?セレンはラファエルのタイプじゃないのかしら?漫画やゲームではゾッコンだったけど。


 「リュカ様も頑張ってくださいね。早く私専属の護衛騎士となれるように」

 思い出した、とでもいうようにセレンがコテっと首を傾げながら言った。

 ここでまたザワザワと。



 「静まれ!!」

 さっきまでのノリはどこいった?ってくらい王様としての威厳を取り戻した国王陛下がたった一言。ただ、その一言でシーンとなったものだから、国王陛下の一言ってすごいのね。


 「今日は、この国の最強騎士を決める戦いだ。その戦いに関係のない話は慎め」

 「はっ」

 本業が騎士のお方はさすが。即敬礼をして冷静を取り戻したようだ。


 「では、試合を始める!!説明は・・・・・・、いらんな」

 いや、いりますいります!!

 「まあ、まず生き残れ!!話はそれからだ」


 国王陛下が右腕を上げて、勢いよく振り下げた。

 

 なにが・・・・・・、おこった?


 なにもおこっていないように思う。

 次の瞬間、誰かが、魔法が使えない!!と叫んだ。


 そう。国王陛下の得意魔法は、魔力無効化。チートすぎる魔法だ。

 ただ、100人くらいの人数を一気に無力化するなんて。どのくらいの魔力量なのだろう。

 

 他の人たちも、魔法を試そうとするが、魔法を使うことができない。

 足から崩れ落ちる人。呆然としている人。迷いなく剣を抜く人。反応はさまざま。

 リュカやミア、フアンシド、ラファエル、ライ、リーゼは余裕そうだけど。

 

 そして、2回目の、国王陛下の始める!!が聞こえた。

 「では、始める!!内容は・・・・・・障害物競走オブスタクルレースだ!!初めに我の元に帰ってきたものが、最強騎士とする!!では、スタート!!」

 一瞬で、闘技場の景色は変わり、蔦植物や、炎や氷が舞い上がった。魔法が使えないのに、どうやって乗り切ればいいのよ!? 

 


 

 

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