16話 イケメンいるところに女の子の歓声あり

さてさて。王国騎士最強決定戦に向けての準備が始まった。

 それは、出場する騎士だけではなく、平民である私たちもだ。

 街はいつも以上に活気に満ち溢れていて、騎士は誰が勝つか、誰が格好いいか、何を売り出すか、他国からは誰がくるのか、などたくさんの話や噂で盛り上がっている。


 リュカ達はというと、なぜかものすごく張り切っており、帰ってくる時には、ボロッボロになって帰ってくる。エイデンによると、騎士団長に直々に特訓を申し込んでいるらしい。お陰でたくさん料理を作らなければいけないから食費が・・・・・・。とか言っている場合じゃないですよね。はい。リュカが頑張っているんだものね。うん。


 それはそうと、急にライとリーゼがいなくなってしまったのだ。(探さないでください)と言う置き手紙を残して。どこに行ったんだろうね。帰ってくるかなあ。



 私はといえば、ミアは今日の市民予選があるから、それの応援をしに行っているのだ!!

 市民予選は特別に王宮の闘技場で行われるのだ。普段なら、立ち入り禁止だが。本番もここであるらしい。

 私はもちろん変装をしている。リディアと会う時、というか、街へ出るときは、魔法道具で髪の色を変えて、私が作ったカラコンで目の色を変えている。本当は自分の魔法で髪や目を変えることができればいいのだが、残念ながら、私にそんな器用さは持ち合わせていない。バレッタで止めれば、髪の色が変わると言う優れものだ。目の色を変える魔法道具もあるが、なぜか私の目の色は変わらなかった。故障かなと思ったが、私の目が“異常”なだけだった。さすがに赤い目は目立つから、私が独自にカラコンを作ったのだ!!やばかった。めっちゃ疲れた。もう2度と作らん。


 「リディア〜!!」

 「シノア!!あれ、持ってきてくれた?」

 「ええ。持ってきたわよ。ポテトチップス」

 私は本邸にいるときに、デュークと一緒に、ポテトチップスを作ったのだった。じゃがいもをどれだけ薄く切れるか試したり、味付けの種類を考えたり、どれだけ本物に近づけるか試行錯誤したところ、本物よりも美味しいかもしれないポテトチップスができたのだ!!

 これはリュカ達にも大好評で、実はたまーに薬と一緒に売ったりしている。すぐに売り切れてしまうから、大ヒット商品だ。真似まねされたら困るけどね。


 王宮の闘技場は円状になっていて、観客席、カフェテリア、図書館まで完備。サッカー場に色々ついたバージョン?まあ、言いたいことは王宮は金持ちだってこと。

 

 「場所取っておいたわよ」

 「ありがとう、リディア」

 「いいのいいの。私とシノアの仲だもの。ほうら。いい席がとれたでしょ?」

 リディアが取ってくれた席は、ちょうど闘技場全体が見える席。

 「ええ。本当に。ありがとう」

 

 突然に、パンパンッと氷の結晶が空に浮かび上がった。

 「うわっ、なにこれ」

 「市民予選の始まりの合図よ」

 「物騒ね」

 「そうでもないわよ。本戦はもっと派手だからね」

 「覚悟しておきます」

 私とリディアはポテトチップスをつまみながら、キョロキョロと周りを見渡す。


 いつの間にか、闘技場の観客席は、市民予選だと言うのに、たくさんの人で埋まっている。


 

 「みなさんこんにちは!!市民予選の実況を務める、フアンシド・オリバーです」

 「「「「キャーーーーーーー!!!!!」」」」

 拡声器でも使っているのかしら。急にハイテンションで、女の子が好きそうな甘い声が聞こえてきた。その後の女の子たちの歓声。

 私と似ている銀色っぽい髪と、目尻がちょっと下がった、女の子らしい甘いマスク。これで騎士団長なんだから、女遊びが過ぎなければ、120点満点よね。てか、騎士団長が実況って・・・・・・。


 「ねえ、リディ__」

 「え、どうしたの?シノア」

 リディアに話しかけようとしたら、目がハートでフアンシドに釘付けになっていた。

 

 「では始めましょう!!市民予選!!まず最初の種目は・・・・・・、皆様大好き生き残り戦サバイバル戦!!」

 フアンシドがまた実況を開始したと思ったら、その後にはすぐに女の子達の歓声。多分だとは思うけど、フアンシドって、男性から恨みを買う人よね。うん。絶対そうだわ。後ろから刺されないように注意しておいてね、って言いたい。


 「ねえ、リディア、サバイバル戦ってなに?」

 「その名の通りよ。ほら、そこに溝ができたでしょう?」

 観客席と、闘技場との間に、約3mくらいの溝ができた。え、仕組みどうなってんの?


 「ここに、参加者を突き落とせばいいのよ。参加者が。ただ、2次予選に進めるのは、10名までだから、残り10人になるまで終わらないのよ」

 「へえ。やばいのね。その溝の部分はどうなっているの?」

 「確かね、魔力溜まりになっていたはずよ」

 魔力溜まり、とは、その名の通り魔力が溜まっているところ。魔術師の死因って、まあ剣で刺されたり、寿命が尽きたりして死ぬ人も多いけれど、もっと多いのは、魔力不足と、魔力溜まりにはまった人ね。魔力不足はその名の通り、魔力がなくなってしまうこと。魔力には絶対に底があるから。それと、人には、必ず魔力の限界がある。そりゃあ、訓練して魔力を増やすこともできるけれど。だから、自分の魔力の上限量を知らずにでっかい魔法を使ったり、魔力を受け止めたりしたら、体がそれを消費できずに、死んでしまうのだ。まあ、簡単に言ったら、魔力のキャパオーバー。それを引き起こすのが、魔力溜まり。

 え。殺す気じゃん。やばいじゃん。え?



 なんてことを悶々と考えていた矢先に、ミア達が出てきた。女の子は少ないんじゃないのかなって思っていたけど、結構いた。しかも、なにする気なの?って感じでおしゃれしてきている。男の人は筋肉の吐きかたがやばい人たちが。

 「シノア、出てきたわよ、ミア姉様〜!!」

 「ミア〜頑張れ〜!!」

 ミアが気づいて、私たちにグッと親指を立てた。そして、それを後ろにくいくいっと何かを指すように動かす。


 「え?え。え。えええええーーーーーー!?」

 「どうしたの?シノア」

 「い、いや、なんでもない」

 いや、なんでもないわけない。ミアが指差した後ろに視線を向けると、そこには、犬の仮面を被った長身の男と、猫の仮面を被った長身の女がいた。

 絶対ライとリーゼじゃん?何で!?どうして?



 「それでは、サバイバル戦、開始!!」

 混乱がおさまらないまま、サバイバル戦、一次予選が始まった。


 と思ったら一瞬で終わった。なぜなら、ライとリーゼがそこらへんの参加者を全員吹っ飛ばしてしまったからだ。

 ライが雷雨を呼び、リーゼが風を呼び、ミアは自分の周辺に簡易結界をはり、難を逃れた。私たちのところにはもともと結界が張ってあったから、もちろん無事だったけど。


 あれ?あれれ?今、闘技場に残っているのって、ライとリーゼとミアしかいなくない?え。この場合どうなるの?市民予選は上位3名が本戦に行けるのよね?


 フアンシドなんかはもう目が点になってしまっている。

 はっと我に帰ったようで、

 「えーっと、ほぼ全員いなくなってしまったようなので、動物仮面のお二人と、麗しのレディが本戦進出です。みなさん、どうか拍手を!!」

 

 ポーッとしていた観客も、フアンシドの一言で一応、パチパチと拍手を送る。


 「えー、この記録は、うん、歴代最高記録ですね、はい」

 フアンシドがぶつぶつ何か言っていたけど、まあ、気にしない気にしない。

 横でリディアが気絶してしまっているのは、気にしない・・・・・・、わけには行かないか。

 

 リディアを家に送り、家に帰ってリュカと一緒になにも言わずに勝手に試合に出たライとリーゼを叱ったのだった。



 


 

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